元治は満足して頷いた。秘書の佐伯雄二の有能さは前から知っていた。だからこそ、真っ先に手を結び、買収したのだ。
「ご苦労。くれぐれも粗相のないようにな。華絵のことはなにも心配していないが、久子が心配だ。あれが引きこもっているのがバレたら、多聞様の心証が悪くなりはしないだろうか」
「久子夫人ですか? 多聞様もそこまで狭量ではないでしょう。きっと、大丈夫だと思いますよ」
「……ふん、だといいが」
どうして自分はあのように愚鈍で器量が悪く、つまらない女と結婚したのだろう。と、元治は思い返した。
蜷川家の次男に生まれ、兄の徳佐と比べられるように生きてきた。全てを手に入れている兄と、やがて家から追い出され、なにひとつ手に入らない自分。同じ輔翼の家の、聡明で美しい美幸と結婚した兄と、落ちぶれた商家の娘で気弱で陰気な久子としか結婚出来なかった自分。考えれば考えるほど、腸が煮えくり返るようだった。長男なら、美幸と夫婦になったのは元治。初めて見た時から元治は美幸に惹かれていた。しかし、どう頑張っても自分のものにならないとわかった時の絶望感は……きっと誰にも理解出来ないだろう。
元治は頭を振り、努めて楽しいことを考えた。それは華絵が多聞響に見初められ結婚し、全てが順調にいく未来だ。金と名誉、全てを手に入れたら次は……。
元治は歪んだ笑みを張り付け、寒風吹きすさぶ窓の外に目を向けた。
「ご苦労。くれぐれも粗相のないようにな。華絵のことはなにも心配していないが、久子が心配だ。あれが引きこもっているのがバレたら、多聞様の心証が悪くなりはしないだろうか」
「久子夫人ですか? 多聞様もそこまで狭量ではないでしょう。きっと、大丈夫だと思いますよ」
「……ふん、だといいが」
どうして自分はあのように愚鈍で器量が悪く、つまらない女と結婚したのだろう。と、元治は思い返した。
蜷川家の次男に生まれ、兄の徳佐と比べられるように生きてきた。全てを手に入れている兄と、やがて家から追い出され、なにひとつ手に入らない自分。同じ輔翼の家の、聡明で美しい美幸と結婚した兄と、落ちぶれた商家の娘で気弱で陰気な久子としか結婚出来なかった自分。考えれば考えるほど、腸が煮えくり返るようだった。長男なら、美幸と夫婦になったのは元治。初めて見た時から元治は美幸に惹かれていた。しかし、どう頑張っても自分のものにならないとわかった時の絶望感は……きっと誰にも理解出来ないだろう。
元治は頭を振り、努めて楽しいことを考えた。それは華絵が多聞響に見初められ結婚し、全てが順調にいく未来だ。金と名誉、全てを手に入れたら次は……。
元治は歪んだ笑みを張り付け、寒風吹きすさぶ窓の外に目を向けた。