お弁当をカバンの中に入れてから、最後にもう一度鏡で身だしなみが整っているかを確認して、汐斗くんとともに学校に向かう。今日はこの時期としてはかなり気温が上がるらしく、すでに朝からむっとするほど気温が高い。少し歩いただけなのに汗をかいてきた気がする。そんな中だけれど、周囲を見渡せばスーツ姿の男の人やもちろん女の人もいたり、なにか仕事で使うんだろう大きなものを持って大変そうに歩いているいる人や、小さな子供を抱えている人……そんな感じに様々な人がこの道を歩いていた。私は普段、自転車で登校しているので、こんなにも周りの人たちがどんな人なのかを見ることはないので、そういう人たちがここら辺を歩いているんだなと少し新たなことを知れたようで新鮮な感じがしてしまう。

 昨日も乗った電車に乗り込み最寄り駅で降りる。学校が近くなると、私に気遣ってか、汐斗くんは私と少し離れた位置で歩くようになった。まあ、そういう年頃だからなと思い、私は特にいじったりすることはしなかった。

 教室に着くとまだ朝のホームルームまでは少し時間があったので、いつも通り朝勉強をする。今日は古文単語の勉強をした。

 ホームルームの時間が近づくにつれ、クラスメートの数も増えていく。クラスメートの話し声をBGMにしながら勉強を進めていく(最初のうちは話し声は雑音に聞こえて嫌だったが、もうこれを何年もやってるので、知らないうちに慣れていた)。

 いつの間にかチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。先生はいつものように出席確認をしたり、連絡事項を言ったりしてそれはあっという間に終わった。

 午前の授業もあっという間に流れていく。先生の言った大切なことをノートや教科書に書き込むながら、今日も知識を頭の中に少しずつ入れていく。

 午前中最後の授業は古典の授業だ。

 今、古典の授業では平安時代の作品を扱っているため、平安時代の暮らしや恋愛事情などを先生が黒板に板書したり、モニターをうまく使いながら教えてくれている(今の時代の授業ではモニターを使うことが多い)。

 私自身、中学では文芸部だったし、今も文系なので古典という昔の言葉が作り出すものについてはかなり興味がある。同じ国でできたものなのに今とは違う意味だったり、今の人は学ばなければ分からない言葉も多いけれど、その奥に昔の人が込めた想いだったり、情景が見えてくるのだ。

「では、宿題で調べてきてもらった今と平安時代で変わらないところをなんでもいいので発表してください。発表の仕方は自由です。では、今日は一番前の皆さんから見て右端の人からいきます。その後は、後ろにいきましょう。では、お願いします」

 あ、これ、私あたる……それも最後に。というのも、私の今の席は一番後ろの、それも右端なので、これは当たる流れだ。前には5人いるので(でも今日は前の子が休みなので4人)、まだ少し時間に余裕はあるが、こういうのにあまり慣れていない私にとっては少し緊張する。

「はい。自分のエピソードも入りますが、僕は、小さい頃に今までにないぐらいの熱が出た時があって、でも、お正月ということもあり病院がやってなかったときがありました。熱冷シートを貼ったりしても熱は下がりそうになかったので、親が神社で病気がよくなるようにお参りしてきてくれました。それが効いたのかは分かりませんが、病気があっという間に治っていきました。平安時代も神や仏に祈ったりして病気が治るようにということをしていたので、神様や仏様の力を借りる部分は今も同じだと思いました。以上です」

 教室を包み込む拍手が起こる。普通のことをいってるはずなのに、少しだけ私の心に刺さる。病気がよくなるようにお参りした……。今でも神様や仏様の力を借りる……。汐斗くんの病気も、もしかしたら、神様や仏様の力を借りる……そうすれば治るのかもしれないなんてそんなことを考えてしまった。そんな軽い気持ちじゃ治らないはずなのに。

「はい、そうですね。私も神社でよくお参りします。私の願い事の大体は旦那が浮気しませんようにです」

 少しだけ先生の話がうけてこの空間が温まった後に、次の人が発表する。

「はい、私は言葉の大切さは平安時代も今でも変わらないと思いました。平安時代は皆さんご存じのように、和歌で恋愛感情を伝えていました。今でも大切なことの多くは言葉で伝えられます。私自身も最近、数年ぶりに会ったおばあちゃんとおじいちゃんにいつも誕生日プレゼントを贈ってくれてありがとうだとかの感謝の気持ちを伝えてきました……その時やっぱ言葉って大事なんだな……そう思えました。以上です」

 さっきのように拍手が起こる。その通りだ。言葉の大切さは私も日々感じている。でも、その言葉が私を追い込むみたいに苦しめることもある。仮に悪気はなかったとしても、人によっては辛い言葉だってこと、そこだけは私自身も頭のどこかに置いておかなければいけないのかもしれない。言葉というのは私たちが知らない力が宿っている。

「うん、素敵なエピソードもありがとうございます。どんどんいきましょう」

 前の人たちの発表が続々と終わっていく。前の人は、1人が戦争がない時代だったという平和な面を述べていたが、もう1人は災害があるというさっきとは反対の面を述べていた。

 ついに私の番だ。もちろん宿題はやってきてはいるけれど、少しドキドキしている。でも、これごときでそこまで緊張する必要もないと思い、私は少し深呼吸をした後に、席を立った。

「皆さんの発表の後にこんなのであれなんですけど、」

「自分の調べてきたやつで全然大丈夫ですよ」

「はい。私は今も平安時代もおしゃれを気にする部分は似ていると思いました。平安時代はもちろん身分の関係でおしゃれができない人も多くいましたが、髪飾りなどをつけている人もいました。現代でも髪飾りなどをつけておしゃれする文化がるため、ここが似ていると思いました。余談で、今はやってませんが私は中学2年生の夏ぐらいまではアクセサリーを作るのが好きで、よく作っていました。以上です」

 少し恥ずかしいけれど、余談も添えて私は、話を終えた。ゆっくりと席につく。さっきと変わらないような温かい拍手が包み込んでくれる。少し恥ずかしい。でも、やっぱり嬉しい。

「おー、そうなんですね。アクセサリー作りが趣味だったんですか。素敵ですね」

「ありがとうございます」

 私は先生に向かってお礼をした後に席に座った。

 それから、先生は少し補足したり、今やっている教科書本文の解説をしたりしていつの間にかこの授業は終わっていた。

 次はお昼だ。妙にお腹が空いている。これは、今日は自分の作る別に美味しいわけでもない弁当ではなく、汐斗くんのお母さんが作ってくれた弁当だからかもしれない。これから1ヶ月は、私の明日を閉じたいという気持ちを変えるため汐斗くんが一緒にお昼を食べてくれることになっている。もちろん、お弁当を食べる際も学習本は必須だ。

「心葉ちゃんって昔はアクセサリー作ってたの?」
 
 どこまでも透き通っていく声。私の前の席の女の子――海佳(うみか)ちゃんがさっき私が話した話題について話してきてくれた。

「うん、まあ、今は作ってないけどね」

「私は作ったことはないけど、つけるのは好きだな。ねえ、お弁当、たまには一緒に食べない? お勉強道具、持って行ってもいいから。班活動とか以外のときは、心葉ちゃん、頑張って勉強してるからなかなか話しかけづらくて……。でもなんかやっぱり話したいなって! もちろん無理にとは言わなけど」

 確かに私に話しかける隙を見つけるのはかなり難しいかもしれない。でも、今回、海佳ちゃんはここだと思って話しかけてくれた。そんなものを断るわけにはいかない。

「食べるのはいいんだけど……」

 勉強道具を持ってどこかで食べるのはいいんだけど、汐斗くんとの約束がある。だから、私のことを気にしてくれて言ってくれたのに、断ることもできない。そう思ってると、汐斗くんと目が合い汐斗くんはスマホを手で指してきた。なんだろうと思いながらスマホを見てみると、誰かからラインが来た。私は少しごめんねと謝った後に、そのラインを確認する。そのラインの相手は汐斗くんだった。

『俺とはいいから、その子と食べなよ。そっちのほうが楽しくなるって。というか、アクセサリー作りが趣味だったんだね』

 そういうことが書かれていた。やっぱり、汐斗くんって人は――。

『うん、じゃあお言葉に甘えて。まあ、さっきも言ったけど今はあれだけどね』

 私はそう返信する。

「うん、じゃあ、食べよう!」

 私は普段はあまり見せることのない明るい笑顔をしながら、海佳ちゃんの誘いにのった。

「でも、2人だけだとあれだね。誰か他に1人ぐらい誘わない?」

「じゃあ、私と中学同じ子なんだけど、唯衣花(ゆいか)ちゃん、誘ってもいい?」

「あ、唯衣花ちゃんね。いいよ、いいよ! そうしよう」

 最初は汐斗くんを誘おうかとも思ったけれど、汐斗くんとは学校で話したことはほぼないので、急に誘って、海佳ちゃんになにか感じ取られても少し困るし(海佳ちゃんはそういう子ではないと思うけれど)、すでに汐斗くんは他の友達とどこかに行っていたので、中学が同じで私ともある程度仲のいい唯衣花ちゃんを誘う子ことにした。

 私が唯衣花ちゃんに声をかけることになったので、私は唯衣花ちゃんの席の近くに行く。といっても、高校生になってからはずっと勉強づくしだったし、話したことがあったけ? というレベルだから、少しだけ緊張した。数年ぶりに会う幼馴染に話しかけるみたいに。

「唯衣花ちゃん。よかったら一緒にお昼食べない? 海佳ちゃんもいるんだけど」

「うん、今日は特に約束とかはしてないからいいよ。というか、心葉から誘ってくるの珍しいね。それよりも、話すの久しぶりだね」

「そうでした。お久しぶりです」

 私はペコリと頭を下げる。

「ふふっ。何その対応? というか、私のことちゃん付けになってない? 前みたいに呼び捨てしてくれていいのに」

 そう言えば、唯衣花ちゃんのことを中学の時は呼び捨てしていた気がする。たぶん、私が今回ちゃん付けしてしまったのは、話すのが久しぶりすぎたということを間接的に表しているんだろう。

「じゃあ、唯衣花も行こう」

「うん」

 今日は天気がいいからということもあって、外にあるベンチで食べた。本当は屋上か外のベンチどっちがいいかと聞かれたのだけど、私は外のベンチの方が人いなさそうじゃないといったのでこっちになった。本当にこっちの方が人が少ないのかは分からないけれど、屋上で食べると昨日みたいな行動をしてしまわないか不安だったからそう答えた。

「っていうか、この3人メンバーでお弁当食べるのは多分初めてだね」

 3人が座ったところで、真ん中に座っている海佳ちゃんがそれぞれ端にいる唯衣花と私を見回しながら、そう言った。言われてみればそうかもしれない。なので私はそうかもねと相槌をとる。この姿を写真に収めたらきっと青春色で輝いているんだろう。

 私は空腹に耐えられず、早速お弁当箱を開ける。パカッ。

 ――流石、汐斗くんのお母さんだ。

 想像していたもの以上のクオリティーだ。卵焼き、ミニハンバーグに鮭、そしてほうれん草とコーンのソテー……栄養バランスまでも気遣ってくれている。こんな私のためにしてくれるなんて本当に感謝しかない。

 ――いただきます。

 私は早速食べ始めた。流石、見た目を裏切らない美味しさ。

「そういえば、心葉ちゃんはアクセサリー作ってたっていけど、どんなの作ってたの?」

 海佳ちゃんが唐揚げを食べながら私のことについて聞いてくる。

「んー、花の髪飾りだったり、ミサンガだったり、腕輪だったり色々と作ってたかな……」

 今も中学の時に作った私のアクセサリーコレクションは押し入れだけどそこに大切に保管されている。でも、もう何年も開けていない。だから実質ただ置かれてるだけだ。

「私も、中学の時に心葉にミサンガもらったよ。ピンク色の」

「あ、そういえば中学の時にあげたね。私、ピンク色が好きだから、唯衣花にはピンクの色の糸を使ったんだ」

 数年前のことだけど、唯衣花にはピンクに少し黄色の糸を混ぜて作ったミサンガをプレゼントした気がする。

「今もまだつけてるよ」

 そう言って唯衣花は足を見せてきた。――あ、あの時にあげたミサンガだ。少し色が薄れたりしてはいるけれど、たしかにあの時私があげたミサンガで間違いない。あの時の唯衣花の喜んでくれた顔が懐かしい。

「中学2年の夏頃にもらったから、2年少しつけてるのかな」

 私の中学ではミサンガを付けることは禁止されてなかったので、私があげてからずっと今日までつけてくれたんだろう。今日までそんなものをずっとずっと大切にしてくれたなんてあの出来事はあったけれど、ものすごく嬉しい。私はありがとうと素直にお礼を言った。
 
「でも、なんで今はやらなくなったの? 勉強に専念したいから?」

「それもあるけど……、ちょっと色々あって」

 今、アクセサリー作りを私がしてない理由。もちろん、勉強に専念したいからという理由もある。でも、中学の時にある出来事があったのだ。それも大きく関係していると思う。そういう背景もあって多分私は、もうアクセサリー作りをすることはないんだと思う。だから、染め物を作るという趣味というか目標のある汐斗くんが、なんだか高い位置にいるように思えてしまうのだ。
 
「そうなのか。でも、もしまた作る気になったときは私にもちょうだい!」

「……まあ、作る気になったらいいよ」

 海佳ちゃんは少し遊園地に行く前の子供みたいに楽しみだよという顔をしながら、そう私にお願いしてきたが、それは少し難しい。希望に添えそうになくて申し訳ないけど、一応そう答えておいた。

 私は汐斗くんのお母さんのお弁当を美味しくいただき終わると、心の中で汐斗くんのお母さんにお礼を言い、漢字のテキストを見始めた。まだ2人はお弁当を食べている様子だったので、邪魔にならないように配慮して。

「おー、勉強か。偉いなやっぱ」

「でも、こうやってもテストの順位は全然なのが現実だけど」

「まだ花が咲いてないだけで、これからまだ伸びてくんだよ。だから、応援してる! 努力は必ず実るわけじゃないけど、心葉ちゃんの努力はきっと実るはずだよ」

 そういうことを言ってくれると、頑張ろうと思える源になる。でも、羨ましいな。2人が。もちろん2人も私の考えている以上に努力をしているんだるけど、クラスの中でも2人のテスト順位は上位だ。でも、私はその反対。なにが違うんだろう。努力の違い? だけど、私は自分で言うのはあれだけど、できるだけ空いている時間は勉強に費やしているし、一体2人と何が違うんだろう。何をすればもっと……。

「あ、これ、汐斗のインスタグラムじゃん! なになにこれ、昨日のやつ? なんだ彼、どこのかは分からないけどカフェでパフェとかパンケーキとか、それにサンドイッチまで、色々テーブルにのってるじゃん! 学校の帰り道にでも寄ったのかな? 心葉は勉強してるっているのに羨ましいよねー」

 漢字のテキストを赤シートで隠しながら、正解したものはそのまま、間違ってしまったものにはチェックをつけてというやり方で勉強を進めていた時、2人がそんなことを話していた。

 汐斗くんのインスタ? カフェ? パンケーキ? サンドイッチ?

 さらに、昨日?

「ん、どれどれ」

 まさか昨日の私が汐斗くんといったやつかもと思い、私も2人が見ていた汐斗くんのインスタグラムを覗く。

 確かに昨日の光景がそこに広がっていた。私をとった写真はあげられていなかったのでよかったが、これらは昨日、私が食べたやつで間違いない。

「ねー、ずるいよねー。心葉ちゃんはその時、勉強中なのにね」

 海佳ちゃんが私の顔を見てそう言う。あ、ごめんなさい。その空間に実は私もいるんです。さらに、汐斗くんのおごりで食べてしまいました……そんなことは到底言えそうにはない。心葉ちゃんはその時、勉強中なのにねと言われれば尚更だ。

「……まあ、そうかもね」

 ここに、汐斗くんがいなかったことが救いだった。いや、彼ならこういう嘘は許してくれるのかもしれない。

「なんか、それに誰かの手が映ってるから汐斗以外のやつもやっぱいるんじゃん。羨ましいー。私も連れてってほしかったな」

 海佳ちゃんが次に見た写真でも引き続き美味しそうな料理の写真が映っていた。でも、その端の方でなにやら手のようなものが映っていた。ごめん、それが私の手です……とは流石に言えない。でも、ぎりぎり手のひらのところだけなので、私と判断される可能性が低くて助かった。

「でも、心葉も休めるときは休みなよ。教科書を見たり、問題を解いたりとかするだけが、テストの点をあげたりするわけじゃないから」

 唯衣花がひょいっと顔を出して、そう言ってくる。確かにその通りだとは思うけど、やり方を変える……それが不安定な橋を渡るかのように怖い。

 ――キンコーン、カーンコーン。

 午後の授業まで10分前だよということを知らせる予鈴が鳴ったので、私たちはお弁当を片付けて、教室に戻った。



 汐斗くんの私をいつでも気にかけてくれるというのは、色々な場面でそうしてくれた。例えば、汐斗くんからの提案で、私の勉強がだいたい終わる時間の夜の12時半ぐらいに5分間ぐらい、毎日電話する時間を設けた。5分ぐらいならと私はそれに承諾したので、何日かたった今日も、私から電話をかける(私の都合のいい時にかけられるようにと汐斗くんからではなく私からかけるということになっている)。

 ――プルルル、プルルル。

 数秒間このような音がなった後に、汐斗くんの声がした。いつもと変わらない、私を安心させてくれる声だ。私が聞きたかった声。

『もしもし、今日も何も変わりないか?』

 今日もまた、決まった言葉かのように、最初にこの言葉を言ってきた。なんだかこの言葉の繰り返しに私は微笑してしまう。でも、この言葉に汐斗くんの色々な気持ちが現れているのだろう。

「うん、大丈夫。いつも通り、変わりないよ」

 特に今日も変わったことはなかった。いつも通りの一日だった。ただ、少しだけ私には生きる意味があるんじゃないかとか、私が生きる場所があるんじゃないかと思えてきている。だから、もっとそう思えるような自分になりたい。この汐斗くんと作る1カヶ月で。

『よかったよかった』

「そう言えば、明日は英単語の小テストがあったよね?」

 私はそう言えば、明日は英単語テストがあったような気がして、聞いてみる。とは言っても、私は普段から英単語の練習をするという習慣をつけているので、いつ英単語の小テストのテストがいいように対策はしている。

『うん、5時間目にあるよ』

 やっぱり、汐斗くんは流石だ。即答した。

「分かった。ありがとう」

『他に今なんか言っときたいことはないか? 苦しかったこととか? 辛かったこととか?』

 そしてこれもまた、お決まりのような言葉だ。私が何か相談したときには、汐斗くんはまるでカウンセラーの人みたいにきっちりと私の隅々の部分まで聞いて解決策を見つけたり、私の心を締めているものを緩くしてくれる。

 でも、今日は特にはなかった。そういえば、最近はあの時にお昼を食べた、海佳ちゃんと唯衣花と少し仲良くしてもらっている(と言っても私は基本的に休憩時間は勉強をしているのであまり話す時間は取れていない。それでも、2人は仲良くしてくれている)。

「そういうのはないけど……よかったら明日一緒に行かない? 公園に?」

『あー、午前中はそれだったな。全然いいよ。あとで、この電車乗らないかっていうのはラインに送っとくから。というか、今考えれば、それで午後授業あって、英単語テストとか体に応えるよな』

「本当にそうだよね」

 今、汐斗くんに言った公園に行くとは、この高校は自然の多い市にあるため、数ヶ月に1回市内の公園に行くという行事的なものがある。先生いわく、自然の力で心を休めるとかいう目的があるらしい。明日行く公園は市内で一番大きくて、そして人気な公園なので、もちろん何回かは行ったことあるけど、その一瞬だけは勉強について忘れられるので少し楽しみだ。

 それで、汐斗くんを誘ったのは学校に通っている電車はそれぞれ違うけれど、明日行く公園へは途中からお互い乗り換えて行かないと行けないけど、その乗り換える電車が同じだからだ。唯衣花や海佳ちゃんと行きたい気持ちもあったけれど、気づいたのがついさっきだったので、誘うのを忘れていたのもあって汐斗くんを誘うことにした(2人はもう12時よりも前に寝ているらしいので、今ラインしても難しい)。ただ、少しだけ異性を誘うというのはそういうことをほとんどしたことのない私にとっては恥ずかしかった。でも、汐斗くんは私の不安を吹き飛ばすかのようにいいよと言ってくれた。

「ちなみにだけど、汐斗くんも体調の方はどう?」

 私は、気遣ってばかりいるだけではだめだと思って、逆質問してみる。汐斗くんだって悩みというか事情を抱えているのだから、その部分は私も少なからず気にしないといけない。大切な人なのだから。

『おー、ありがとうな、気遣ってくれて。今は安定してる。というか、少しよくなってる気がする。薬のおかげかな? もちろん、心葉のおかげもあるよ。ありがとうね』

「私は関係ないよ。でも、そうならよかった」

 どうやら、汐斗くんの方はよくなっているようだ。私も汐斗くんと同じようで前よりはよくなっている。多分、どこかの病院が汐斗くんという薬を私に処方してくれたんだろう。

 ――明日が少しずつ見えてこられるようになった彼と、明日を閉じることを違うと思えてきた私。

 そんな風になれるといいな。

『じゃあ、おやすみ、心葉。また明日』

「うん、おやすみ。また、明日」

 私は汐斗くんとの電話を切った。それから、汐斗くんからのラインを待つついでにに明日の英単語の練習をもう少しした。多分明日は公園に行くので疲れてあまり昼休みは見返す時間が取れないと思うから、できる限り追い込んだ。追い込むことが私にとって効果的なのかは分からないけれど、私はこれで今までやってきたんだ。だから、そうするのが一番いいんじゃないか、そう思ってラストスパートをかける。

 少し経ってから、汐斗くんから電車についてのラインが来ると、その電車を確認する。それからあくびも出てしまったため、眠りについた。