私はある人に電話をかける。

 その相手は、汐斗くんでもなければ、家族でも友達でもない。

 でも、私のことをちゃんと知ってくれていて、私のことを支えてくれる人。

 私の明日を閉じるということについて知っているこの世界でたった2人のうちの1人――汐斗くんのお姉さんだ。

 なぜか少し手が震える。お姉さんのところをタップした。

『もしもし、心葉ちゃん。今日はどうかしたの?』

 お姉さんは相変わらず私を安心させるような優しい声で話しかけてくれる。なんか、ずるいな。でも、今日は大事な話があるのだ。

「ここ3日間、汐斗くんお休みしてますけど大丈夫ですか? 休んでるので直接連絡するのはもしかしたらあれかなと思い、お姉さんに連絡させていただきました」

 私が今言った通り、汐斗くんは水曜日から金曜日までの3日間お休みしている。多分体調が悪いんだろうけど、それがあのことを知っている私にとってはかなり心配で、ずっと頭のどこかで気になっていた。大丈夫だと何度も自分に言い聞かせていた。

『あー、わざわざ心配してくれてありがとう。弟なら少し体調は悪いけど、なんとか大丈夫だよ。多分病気のあれだから、伝染らないとは思うし、もし心配だったら明日病院行くんだけど、ついてくる?』

「……じゃあ、もし、迷惑でなければ」

 勉強のことも前よりは考えなくてよくなったからそこまで勉強に焦る必要もないし、何と言っても汐斗くんが心配――もしかしたら汐斗くんが本当に明日を見られなくなっちゃうんじゃないかと心配だったので、私はできれば汐斗くんについていきたい。その趣旨をお姉さんに伝える。

『うん。私たちは全然迷惑じゃないから大丈夫だよ。じゃあ、午後1時に△△病院を予約してるから、その付近で。というか、心葉ちゃんが来てくれるってむしろ、汐斗は喜んでくれるんじゃないかな。こんなかわいい子に心配されてさー。汐斗は幸せものだなー』

「いや、私はそんな……」

 お世辞だとはなんとなく分かっていても、そう言われるのはやはり嬉しいことだ。でも、もちろん私は否定する。ここで認められるわけがない。

『ふふっ。事実だけどね』

 お姉さんは電話の向こうで少し笑っていた。これがどういう意図を表しているのか分からないけれど、自然と胸がキュンとしてしまう。

『それより、心葉ちゃんの心の方は大丈夫?』

「えっと、今は、大丈夫です。心はおかげさまで安定してます。……やっぱり汐斗くんのおかげです。本当に、私は汐斗くんには感謝しかないです。まだ、3週間しか経ってないけど、だいぶ変われた気がします。だから、あともう少しで……ってところです」

『おー。それならよかった! それに、汐斗からも少し聞いたけど、ちゃんと約束守れたみたいだね。自分の弟を褒めるのはあれだけど、汐斗、意外とやるでしょ。まあ、心葉ちゃんも色々忙しいだろうから私から言うのは、ここら辺にしておこうかな』

「じゃあ、お互い色々あると思うので、失礼します」

 私はそう言ってから、静かに電話を切った。それから少しだけ、教科書の内容を頭に入れた。今日はあまり難しい単語は覚えられそうにないから、短い単語を覚えよう。今日は、汐斗くんと最近カフェにいった時に2人で撮った写真を眺めてから眠りについた。

 

 お姉さんに言われた通り、△△病院に午後1時前の午後12時45分に着いて、汐斗くんが来るのを待った。それから5分ぐらい経ったところで前に汐斗くんの家に行った時にあったシルバーのワゴンカーが病院の駐車場に入ってきた。ナンバーも確認したけど、汐斗くんが乗っている車で間違いないだろう。

 その車が駐車場に止まり、完全に停車すると、中から汐斗くんとお姉さん、そして汐斗くんのお母さんが出てきた。

「あ、心葉ちゃん、わざわざありがとう」

「いえいえ、お姉さんもいつもありがとうございます」

「心葉、本当に来てくれたんだ」

「もちろん!」

 汐斗くんの様子は確かに顔の表情を見れば、体調が悪いと分かる感じだけれど、もう歩くことができないぐらいとか、すごく辛そうとまでの状態まではいってなかったので、少しだけ安心した。でも、体調が悪そうなのは事実なのでそこは少し心配だ。というか、汐斗くん、私が来ること嘘だと思ってたんだ。私は、そんなことに対して嘘をつかないし、汐斗くんが大切な存在だから来ただけなのに……。

「心葉ちゃん、お久しぶり。2人の方が汐斗も安心できるかしら……? じゃあ私たちは車で待ってるから、なんかあったら呼んでくれればいいから。というか、すごくいい人だね……心葉ちゃんは」

「……まあ、そうだな。いい友達だろ。なっ!」

 何か、汐斗くんのお母さんに勘違いされているところがある気もするけれど、私は特にはそこに触れなかった。どうやらお姉さんとお母さんは車にいるということだったので、私たちは2人で病院の中に入ることになった。ここの病院には小さい頃、夜中に高熱を出してしまったときや、自転車に乗ってて電柱にぶつかり怪我してしまったときなど何回かお世話になったことはあるけど、下から見下ろすとやはりその大きさに圧倒される。一体、何床のベッドがあるんだろうか。

 病院の中に入るためには駐車場にある横断歩道を渡る必要があるので、私たちは左右をよく確認して渡れるタイミングを待っている。

「ここで事故にあったら元もこもないからな。急に車が暴走することもあるかもだし」

「変なこと言わないでよ! ほら、今車いないから渡っちゃおう!」

 車が来ないことを確認してから横断歩道を渡り、病院に入ると、汐斗くんはささっと受付までを行なった。その一連の流れは本当にあっという間だった。私が瞬きすることもなかった。ただ、私は病院の匂いが嫌いなんだなと改めて感じた。

 どうやら、お医者さんに先に血液検査をしてから来るよう言われているらしいので、汐斗くんには血液検査を行なってからいつも行ってる科の前で待った。私は正直に言うと、あの痛い注射は嫌いだ。でも、血液検査を終えた汐斗くんは痛い顔一つせず、特になんともなかったという顔をしていた。きっと、慣れてしまったんだろう。

「体調はどんな感じ?」

「んー、なんとも言えないな」

 今までの汐斗くんならそこまで心配する必要ないとか言うのに、今日はそんなこと言わず、少し弱音を吐いたようにも見えた。顔の表情からはそこまでじゃないとさっきまでは思っていたけど、表情だけでは分からないところで苦しいのかもしれない。そう思うと、私の心配度は更に増してくる。

「あ、でも体調がまだ大丈夫だった火曜日までで染め物はだいたいできてきたから、もうそろそろお披露目かな!」

 私が心配してることを悟ったのか、私が少し元気になるような話題を汐斗くんは話してくれた。

「私も、後もう少し。だから、私ももう少しでお披露目できるよ!」

 私も海佳ちゃんのと汐斗くんのミサンガ作りを同時に進めているが、もう少しで完成しそうだ。久しぶりにやったので、昔よりクオリティーは劣るかもしれないけれど、簡単にそのミサンガが切れることはないだろうし、つけても恥ずかしくはない完成度になることは保証する。

「というか、心葉、カバンいたのか?」

「あー、まあお財布とかハンカチとか入ってるし、あとは紙も……なんか一応のために持ち歩いてる」

 汐斗くんが私の今持っているショルダーバッグを指摘してきたので、その中に何が入っているのか触りながら少しあさった。

「紙……?」

「いや、何でもないかな」

 この紙のことについて考えると、また厄介なことになりそうだから、そこで話を止めた。それからすぐに、汐斗くんの名前が呼ばれた。

 私は、よいしょと言って立ち上がり、汐斗くんを気にしながら呼ばれたところの診察室に入った。汐斗くんの歩き方が少しぎこちなく見えた。

 汐斗くんがドアをノックして診察室に入ると、よく見る診察室の光景が広がっていた。やっぱり私、こういう所ちょっと苦手。ガタイのいいお医者さんがたくさんの資料が散らばっているデスクの前に座っている。

 ちょうど椅子が2つあったので、後ろの方にあった椅子に座る。椅子が妙に硬い。座り直してしまう。

「こんにちは。えっと、あれだよね。少し最近体調が優れないと。それで来た感じだよね。じゃあ、最近どんな感じが教えてくれる?」

「あ、はい――」

 汐斗くんはお医者さんにそう言われて、最近の状況を時系列順にして話していく。お医者さんはただ聞いた内容をキーボードで打っていくだけでなく時々質問を挟んだりしながら、診断を進めていく。私もただ聞いてるだけではなく、汐斗くんの言ったことを頭で整理していく。

「――ていう感じです」

「分かった。薬はいつも通りちゃんと飲んでる感じ?」

「はい、続けてます。副作用とかは特に大丈夫です」

「そうですか。あとあれですよね、来た時に血液検査もしましたよね。結果がもうすぐ出るので、少々お待ちください。でもこれ、あれなんじゃないかな……」

 お医者さんは首を少しかしげた後に、失礼するよと言って少しどこかに消えて行って――私たちを置いて行ってしまった。私はお医者さんが首をかしげた意図が分からず、さっきよりも不安という文字が頭の周りでぐるぐると回転している。いつもはそんな様子を見せない汐斗くんも少し不安なのか、足を揺らしていて落ち着きがない様子だった。私も同じだ。自分のことみたいに心配だ。私の体調はいいはずなのに、心拍数がいつもより断然早い。元々嫌いな病院の空気がまとわりつく。

 2、3分経ったところでお医者さんが何か1枚、紙を持ってきた。それが血液検査の結果だろうか。

「えっとですね。こちらが先程の血液検査の結果です」

 その紙をデスクに置いて、私たちに見せてきた。でも、こういうようなのを見たのは、私は初めてなのでただ数値が嫌なほど沢山書いてあるものにしか見えない。だから、どこの数値がどういう値ならいいのかまたはよくないのかというのは、私には全くと言っていいほど分からない。

 でも、汐斗くんは声を少し震わせながら、

「本当ですか……」
 
 とだけ呟いた。

 でも、その意図が私には分からない。だけど、この状態で汐斗くんにどういう意味なのかを聞くこともできない。何も考えることの出来ない放心状態のように思えたから。この状況では声をかけていいのか分からなかった――怖かったから。

 すると、汐斗くんの顔を見たお医者さんが説明を始めた。

「……そうです。この紙に書いてある数値の通り八山さんの病気の原因となっている細菌の値が前回の検査より、かなり低くなりました」

 お医者さんはあるところの数値を手で差しながら、汐斗くんに対してそう説明した。ということは、つまり――

「なので、完全に完治したわけではないですが、完治の方向に向かっているということだと思います」

 つまりそれは、汐斗くんの病気が治ってきているということ。そのことを、今、このお医者さんは確実に私たちに言った。もしかしたら、明日を見る君が、明日を見られないという考えてはいけない最悪の事態も想定したけれど、どうやら逆だったみたいだ。汐斗くんが一番最初に私に病気を告白した時に言っていた『現代の技術は進歩してるから治るかもしれない』という言葉が今、現実になった。

「本当ですか!?」

 汐斗くんは驚きを隠せない様子だった。私も自分のことのようにすごく嬉しい。人生で一番嬉しい瞬間が今なのかもしれない。でも、汐斗くん以上に喜んじゃだめだと思って、表には出さず、心の中で喜んだ。汐斗くんの病気が完治しそうなことと、汐斗くんが普段見せないような喜びに満ちたような表情を見せてくれたこと、どちらも嬉しい。許されるのならずっと見ていたい顔だった。

「うん、ここまでよく頑張ったよ。色々苦しいときもあったと思うし、辛い治療にも耐え抜いた。その結果だよ。もちろんまだ少しの間は様子見は必要だけど。数ヶ月経てば完治すると思うよ。おめでとう。もう、大丈夫だよ」

「そうですか。……じゃあ、この体調は?」

 そうだ、汐斗くんの体調がよくないから来たということをさっきの喜びで少し忘れかけていた。でも、お医者さんの表情はまだ明るいままだった。

「あー、これはねー。この病気には関係なさそうだし、薬の副作用でもなさそうだから、たぶんただの風邪かな。症状聞いてる感じそんな感じだし。でも、一応それについても風邪薬ぐらいは出しときますね」

 お医者さんはサラリとそう言った後に、再びキーボードを打っていく。それから、お医者さんはお薬の説明を軽くしてから、私たちはその診察室を後にした。まだ病院に行く必要も少しの間はあるみたいだけど、再発の可能性も現時点では低いという。

 私たちは今は会計を待っている途中だ。患者さんが少し多い印象を受けるので、会計が終わるのはもう少し時間がかかるだろう。なのでその間に、私はお祝いの意味も込めてというわけではないけれど、病院にあったコンビニで温かい飲み物を買ってきた。それを1本、椅子に座って待っている汐斗くんに渡す。

「汐斗くん、よかったね。私もすごく嬉しい」

「あー、飲み物ありがとう。ちょっと信じられない気持ちだけど、本当にお医者さんに感謝しかないな。もちろん、心葉にもだよ。ありがとう」

「いや、私は何もできてないと思うよ。むしろ、汐斗くんにいつも迷惑かけっぱなしだよ」

 汐斗くんはそう言ってくれているけど、私は汐斗くんの病気を治してなんかないし、心の不安定な私を気遣わなくてはいけなかったり、それに私が色々相談したり……むしろ悪化させてないか少し心配だった。何も力になんてなれていない。

「いや、そんなことないけど。でも、まあこの話はいいや。完治に向かってるっていうのは事実だし」

 そう、それは事実だ。

 あの日は――明日を閉じたい私と、明日の見たい彼……だった。

 でも、今は書き換えられて、少し複雑だけれど、――明日を閉じてしまうかもしれないけど少しずつ開いていきたいと思っている私と、明日の扉を開くことができるようになった彼。こんなところだろうか。

 お互いが変われた。でも、汐斗くんは私より変わることができているんだと思う。だから、私もそんな風に変わりたい。

 だけど、汐斗くんが変われたのが嬉しすぎて今は汐斗くんのことしか考えることができない。

 まるで夢の中にいるようだ。

 そんな世界にいるからか、少しだけ雫が瞳から垂れてきてしまった。

 嬉しいよりも、よかった……その気持ちが勝ってしまったのだろうか。

「ん? どうした? 心葉もどこか痛いのか?」
 
「いや、違うの。あのさ、正直に言うと、私はもし汐斗くんを失ってしまったら、どうすればいいんだろうってあの日からずっとずっと思ってた。汐斗くんを失うのが、自分を失うより何倍も怖かった。怖くて怖くてたまらなかった。でも、それは汐斗くんの前では隠してた。人の心配するなら自分の心配しろとか怒られると思ったし、必要以上に心配されるのが、逆に汐斗くんを苦しめてしまうと思ったから。でも、今だから言うね。だからさ、怒られちゃうかもしれないけど、汐斗くんが明日の扉をちゃんと開けられるようになったことが、私は、仮に自分が明日を確実に開こうと思える……そんな日が来たときよりも何倍も何倍も嬉しい。だから、ありがとう。汐斗くん」

 私は病院ということを少し気にしながらも控えめに汐斗くんにハグをした。そしたら、汐斗くんも何も嫌がる顔をすることなくハグをしてきてくれた。私はただただ安心したかった。汐斗くんが近くにいることをこの手で確かめたかった。温かくなってくる。汐斗くんの体温を静かに私は奪ってるんじゃないだろうか。

 それから、汐斗くんが口を開いた。でも、汐斗くんが今から言うことは、聞かなかったとしてもだいたい分かる。汐斗くんの過ごしていけば何を言うかなんて簡単に分かってしまう。

「あのさ、心葉。僕の心配するなら、自分の心配しろ。僕は、明日を開きたいと思えるようになった心葉を見たいんだから。そのために、今日まで頑張っていろんな治療を耐えてきたんだから」

 ほら、やっぱり。私が考えていたように優しく怒られてしまった。でも、後半の言葉は私は考えていなかった。そんな私を汐斗くんに見せられる時が来るのか私には百パーセントの自信はない。でも、汐斗くんが頑張ったのなら、私も頑張りたい……そう思うし、それが私にとってある意味、義務なんだと思う。お互いに頑張らないといけないのだから。たとえ正反対の2人であっても。正反対じゃない部分もあるんだから。

 流石に長時間病院内で小さくしているとはいえ、ハグしてるのはおかしいかなと思ったので、すぐにそれはやめた。それをやめた途端に、待ち構えていたかのように会計から呼ばれ、汐斗くんはお会計を済ませてきた。でも、一瞬だけだけど、その温かさで私の心を少し動かしてくれたような気がした。

 お会計が終わると、近くの薬局で薬を受け取り、車で待っている汐斗くんの家族にもさっきのを報告したが、お姉さんもお母さんもどう表現していいのか分からないぐらい喜んでいた。家族として、ずっとずっとこの瞬間を待ち望んでいたんだろう。

  行きの車内では黒い雲のようなものも漂った雰囲気だったみたいだったけど、今、汐斗くんの家の車の雰囲気はそんなものを破り、溢れるばかりの太陽の光が注いでいた。私は、お母さんに帰りは車で送ってあげるよと言われたので、お言葉に甘えて乗せてもらっている。

「そう言えば、汐斗、風邪の方は大丈夫なの?」

「あー、そう言えば僕、風邪だったな。でも、あれの喜びが大きすぎてただの風邪は治ってるかも。お姉ちゃんもありがとうな。今日まで色々助けてくれて」

「風邪、治っちゃったって、何だそれ。まあ、それならそれでいっか。こっちこそ元気な弟が見られて嬉しいよ」

 私は、少しの間汐斗くんとお姉さんの会話を聞いていた。なんだか楽しそうだ。流石、姉弟っていう感じ。仲がいいからか会話が次々と続いていく。車内がその空気に包まれる。

「ねえ、心葉、俺んちまた寄ってく? ちょっと言いたいこともあるし」

「うん、別にいいよ」

 なんだろうと思いながらも、私は迷わずにそう言う。

「そうか。あっ、でもまだあの染め物は見せられないけど」

「えっー! 少しだけでもだめー?」

「んー。いや、ちゃんと完成したいのを見せたいから無理かも! もう少し待っててくれ!」

 私は、汐斗くんの病気が治ったんだし、私たちはだいぶ仲良くなれたんだし少しぐらい駄々をこねてもいいかなと思って、ねだってみたけれど汐斗くんは理由をつけてそれを断った。でも、その言葉が見れる日を余計に楽しみにした。

「へー、汐斗、今、染め物してるんだ。ていうか、2人、打ち解けてるねー。いいじゃん」

「変な顔するなよ」

 私たちのこの雰囲気にお姉さんが優しく言葉を添える。確かに、お互いのことが分かってきたのもあって、私たちは家族の一員いなれるかのようにかなり打ち解けてきてるのかもしれない。それは今のやり取りから見ても十分感じられる。汐斗くんは私にとってのある意味、親友なのかもしれない。

「ねぇ、心葉ちゃん。もちろんこれは冗談だけど、汐斗を恋人にするのはどう……?」

「おい、お姉ちゃん……!」

 お姉さんは、私と汐斗くんがどうしてこのようにいるのか、私が相談した時に言ったから知っているはずなのに、少し意地悪な質問をしてきた。汐斗くんを恋人にする……? どうなんだろう。今までどんな名前を付けるのが正しいのか分からない関係で過ごしたけれど、もし、汐斗くんと私が恋人という名前の関係になったのなら……。正直、イメージができない。でも、お姉さんは冗談とは言ったけれど、ここでなにかを答えないと流石に汐斗くんに悪い。でも、どうなんだろう。私は本当のことを言うのなら、汐斗くんを恋人にするのも嫌ではない。だけど、正直イメージができない。でも、嫌ではないというと恥ずかしいので、私はもう一つ思っている言葉を言うことにした。

「汐斗くんみたいな人は、私よりいい人を簡単に見つけられると思うので、それは、汐斗くんにとってもったいないかなって……。それぐらい、汐斗くんはすごい人だから、もっといい未来を描ける人とそういう関係になったほうがいい気がします!」

 これが、今答えるべき内容でのベストアンサーなのではないか。もちろん嘘なんかじゃなく、これが私の本音だ。きっと私なんかよりいい人は沢山いるし、その人といることで汐斗くんの世界がもっと輝く……その姿を見れることの方が私は望んでるんだと思う。

「おー、そうか。でも、私が思うに、心葉ちゃんはいい人だと思うけどなー」

「いや、過大評価ですよー」

「そうかなー」

 本当のところ、どうなんだろう。私は、いい人なんだろうか。私には、お姉さんの言ってくれたことが過大評価にしか思えない。そんなに私はいい人じゃない気がする。

 でも、いい人になりたい。