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 昇降口に張り出された新クラスの名簿。
 1組から順番に自分の名前を探していくがなかなか見つからない。
 まさかあまりにも影が薄いから名前を入れ忘れられたなんてことはないよな。
 見落とすことがないように人差し指で上から名前をなぞっていく。 
 そうこうしている間に始業の鐘が鳴ってしまった。

「あ、あった。6組か」

 2年6組に佐伯道長(さえきみちなが)の文字があった。
 2年生の教室は校舎の3階だ。
 ただでさえ走ってきたから息が上がっているのに階段を駆け上がらなければならないと思うと気が滅入る。
 それもこれも全部あの喝上げ少女のせいだ。

「いた! 君、置いていくなんて酷いよ!」

 風船を破裂させたかのような大声を背後から浴びせられた。
 振り返るとビシッと人差し指を立てた少女が頬を膨らませて立っていた。
 ズシズシと効果音が入りそうな勢いで近づいてくると、上目遣いでオレのことを睨む。

「君、名前は?」

「は?」

「名前だよ。な・ま・え!」

「さ、佐伯道長だけど」

「そっか」

 少女はオレの名前を聞き出すと物凄い速さでクラス名簿に目を通し始めた。
 何というか表情がコロコロ変わる子だな。
 感情の赴くままに生きていて、オレだったら疲れてしまいそうだ。

「おい、もう行くけどいいか?」

「6組か。同じクラスだね。私は児玉灯(こだまあかり)! よろしくね道長くん!」

 さっきまでの怒りはどこへやら。児玉が「よろしく」と手を伸ばしてきた。
 勢いに圧倒されていると児玉は強制的にオレの手を取り笑顔でぶんぶんと上下に振った。

「おい児玉、オレたち絶賛遅刻中なんだが」

「灯でいいよ。私を置いて行ったのもうさぎちゃんを当ててもらったのでちゃらにしてあげる!」

 都合の悪い部分だけ聞こえない特殊な耳を持っているのか遅刻という言葉には触れなかった。

「分かった。灯、いい加減腕を振るのをやめてくれないか?」

「あ、ごめん。恥ずかしかった?」

 小馬鹿にしたようにクスクスと笑う。

「遅刻してるんだよ!」

「!? なんでそれを早く言ってくれないの?」

「言ったけど聞かなかったのはお前の方だ!」

 上履きに履き替えて階段を上がる。
 その後、2人揃って担任に怒られたことは言うまでもない。