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4月。高校2年生として初登校の今日。
天気は快晴。
数日振りに味わう外の空気はどこか透き通っているような気がした。
桜の花びらがひらひらと宙を舞い、偶然にも手元まで飛んできた。
両手ですくうようにして捕まえた花びらに息を吹きかけてその行方を目で追う。
また1年が始まろうとしている。そんな実感が改めて湧いてくる。
「って、こんなのんびりしてる場合じゃないんだった」
全速力で階段を駆け上がり、改札を抜ける。
やっぱり引きこもりは身体に悪い。
少し走っただけで簡単に息が上がってしまう。
春休みに不規則な生活を送っていたせいで体内時計が狂ってしまったオレは見事に寝坊をかまし、普段乗っていた電車を4本も遅らせてしまった。
初日から遅刻は流石に不味い。
変な意味で目立ってしまうからな。それだけは避けたいところだ。
駅から高校までは徒歩15分圏内。
始業の鐘が鳴る8時30分までは残り15分。
このまま走ればギリギリセーフといったところだろう。
当然ながらこの時間に歩いている生徒の姿はない。
新クラスの発表も同時に行われている関係上、早めに登校している生徒が多いのだろう。
クラスを確認してから教室に向かわなくてはならないのだから当たり前か。
頭を無にして走っていると、高校の最寄りにある駄菓子屋の前で女子生徒が唸り声を上げながら頭を抱えていた。
「うーーーん、なんで!! なんで出ないの? おばちゃん、これ本当に入ってるの?」
足元には大量のガチャガチャのカプセル。
赤、青、黄色。カラフルなカプセルが少女の足元に転がっている。
今時ガチャガチャって。
てか、何円使ったらこんなことになるんだよ。
全部無くす気か?
それよりも遅刻するぞ。
頭の中でツッコミを入れていると少女と目が合ってしまった。
「ナイスタイミングッ! ねぇ、君! 100円貸してくれない?」
「は?」
思わず心の声が漏れてしまう。
「100円だってば! シークレットのうさぎが出ないの!」
少女が右手でガチャガチャを指差しながら、「お金ちょーだい!」と近づいてきた。
肩上で切り揃えられた黒髪が風で靡く。整った顔立ちに丈の短いスカート。可愛い。
じゃない。危ない危ない。可愛さに惑わされるところだった。
まさか話したこともない少女に喝上げされる日が来るとは夢にも思わなかった。
「なんでオレが……」
「次で出そうな気がするの! だからお願い!」
そんなうるうるした目で見てきても貴重なお金をあげる理由にはならない。
「お願い!!」
ならない。
が、これ以上足止めを食らっていたら本当に遅刻をしてしまう。
「分かったよ。1回やってダメだったら諦めて学校に行くぞ。このままじゃ遅刻する」
「やった! ありがとっ! 思った通り君は良い人だ!」
手を握られ、ぶんぶんと振り回される。
そんな簡単にスキンシップを取ったら世の男子高校生は勘違いしてしまうぞ。
「ほら、渡すから早くしてくれ」
財布から100円玉を渡す。
「ニッヒッヒ、出でよ私のうさぎちゃん!!」
少女がレバーを回すと、見るからに大当たりと思われる金色のカプセルが出てきた。
「うさぎちゃんゲット!」
うさぎの頭に体は人型というよく分からないキーホルダーを見せびらかすようにオレの目の前に突き出した。
「そうか、それは良かったな。じゃあ、オレは急いでるから先に行くぞ」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
少女を置いて再びオレは走り出した。
様子を窺うべく一瞬振り返ると、少女は足元に散らばったカプセルを一生懸命鞄に詰め込んでいた。
全く、朝からとんだ災難だ。
4月。高校2年生として初登校の今日。
天気は快晴。
数日振りに味わう外の空気はどこか透き通っているような気がした。
桜の花びらがひらひらと宙を舞い、偶然にも手元まで飛んできた。
両手ですくうようにして捕まえた花びらに息を吹きかけてその行方を目で追う。
また1年が始まろうとしている。そんな実感が改めて湧いてくる。
「って、こんなのんびりしてる場合じゃないんだった」
全速力で階段を駆け上がり、改札を抜ける。
やっぱり引きこもりは身体に悪い。
少し走っただけで簡単に息が上がってしまう。
春休みに不規則な生活を送っていたせいで体内時計が狂ってしまったオレは見事に寝坊をかまし、普段乗っていた電車を4本も遅らせてしまった。
初日から遅刻は流石に不味い。
変な意味で目立ってしまうからな。それだけは避けたいところだ。
駅から高校までは徒歩15分圏内。
始業の鐘が鳴る8時30分までは残り15分。
このまま走ればギリギリセーフといったところだろう。
当然ながらこの時間に歩いている生徒の姿はない。
新クラスの発表も同時に行われている関係上、早めに登校している生徒が多いのだろう。
クラスを確認してから教室に向かわなくてはならないのだから当たり前か。
頭を無にして走っていると、高校の最寄りにある駄菓子屋の前で女子生徒が唸り声を上げながら頭を抱えていた。
「うーーーん、なんで!! なんで出ないの? おばちゃん、これ本当に入ってるの?」
足元には大量のガチャガチャのカプセル。
赤、青、黄色。カラフルなカプセルが少女の足元に転がっている。
今時ガチャガチャって。
てか、何円使ったらこんなことになるんだよ。
全部無くす気か?
それよりも遅刻するぞ。
頭の中でツッコミを入れていると少女と目が合ってしまった。
「ナイスタイミングッ! ねぇ、君! 100円貸してくれない?」
「は?」
思わず心の声が漏れてしまう。
「100円だってば! シークレットのうさぎが出ないの!」
少女が右手でガチャガチャを指差しながら、「お金ちょーだい!」と近づいてきた。
肩上で切り揃えられた黒髪が風で靡く。整った顔立ちに丈の短いスカート。可愛い。
じゃない。危ない危ない。可愛さに惑わされるところだった。
まさか話したこともない少女に喝上げされる日が来るとは夢にも思わなかった。
「なんでオレが……」
「次で出そうな気がするの! だからお願い!」
そんなうるうるした目で見てきても貴重なお金をあげる理由にはならない。
「お願い!!」
ならない。
が、これ以上足止めを食らっていたら本当に遅刻をしてしまう。
「分かったよ。1回やってダメだったら諦めて学校に行くぞ。このままじゃ遅刻する」
「やった! ありがとっ! 思った通り君は良い人だ!」
手を握られ、ぶんぶんと振り回される。
そんな簡単にスキンシップを取ったら世の男子高校生は勘違いしてしまうぞ。
「ほら、渡すから早くしてくれ」
財布から100円玉を渡す。
「ニッヒッヒ、出でよ私のうさぎちゃん!!」
少女がレバーを回すと、見るからに大当たりと思われる金色のカプセルが出てきた。
「うさぎちゃんゲット!」
うさぎの頭に体は人型というよく分からないキーホルダーを見せびらかすようにオレの目の前に突き出した。
「そうか、それは良かったな。じゃあ、オレは急いでるから先に行くぞ」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
少女を置いて再びオレは走り出した。
様子を窺うべく一瞬振り返ると、少女は足元に散らばったカプセルを一生懸命鞄に詰め込んでいた。
全く、朝からとんだ災難だ。