目が覚めるとそこは、見慣れない部屋だった。
今まで暮らしてきた部屋とは違い、広くて天井も高い。
何より異なるのは、月夜が眠っていた布団は西洋式の寝台の上に敷かれたものだということ。
ふわふわであまりにも心地よくて、昨夜は横たわるとすぐに寝入ってしまった。
布団から出て素足で床に立つと、冷たい感触がなかった。なぜなら絨毯が敷かれてあるからだ。
素足のままでもよかったが、どうやら屋内ではスリッパを履くらしい。
部屋には他に西洋家具や簡易テーブルと椅子、それに骨董品などが置かれている。
天井にはシャンデリア、窓にはカーテン、そして月夜が着ているのはネグリジェという寝間着だ。
どれもこれも初めてのものばかりで戸惑った。
驚くのはそれだけではなかった。
しばらくすると女性の使用人が数人やって来て、月夜の世話を始めた。
彼女たちはにっこり笑い、てきぱきと月夜の着替えを手伝った。
「あの、自分でできるので」
そう言っても彼女たちは聞かず、あっという間に月夜は赤紫の着物に着替えさせられた。
髪は伸ばしたまま、整えられている。
使用人に案内されてダイニングルームへ行くと、テーブルに数々の料理が並んでいた。
根野菜の煮物とたまご焼き、焼き魚と漬物、湯豆腐に天ぷらまである。
使用人に促されて椅子に座ると、すぐに白飯と味噌汁が運ばれてきた。
「すごい、ご馳走……」
こんなに食べられるだろうか、と月夜は訝しく思いながらも、腹の虫は豪快に鳴った。
しばらくすると縁樹が現れた。
彼は簡素な着物に髪は長いまま緩くひとつにまとめてある。
帯が緩いせいか胸もとがはだけており、月夜は目のやり場に困った。
「おはようございます」
と縁樹が抑揚のない声で言うと、月夜は慌てて返した。
「おはよう、縁樹さん」
「よく眠れましたか?」
「はい、とっても」
「それはよかったです。僕は女子の好みがいまいちわからないので、メアリーに内装を頼んだらあんなことになりました」
「そうなのね。かわいい部屋ですごく素敵。異国のおうちに泊まったみたい」
「あの部屋で落ち着いて眠れるのか正直疑問でしたが、心配無用でしたね」
縁樹の目の前に白飯と味噌汁が置かれると、彼は手を合わせて「いただきます」言った。
月夜も一緒に手を合わせて「いただきます」と言った。
朝食を終えると縁樹はいつもの紺の着物にマフラーを巻いて洋装の帽子をかぶり、出かけていく。
もちろん髪はすっきり短く整えている。
彼は異国との貿易に関する仕事をしているらしい。
「何かあれば彼に訊いてください。話はわかります。しゃべりませんが」
そばにいた黒い洋装姿の執事がぺこりとお辞儀をした。
月夜もぺこりと頭を下げた。