あれから3日後、ようやく食事が与えられるようになったが、月夜はまったく食欲がわかなかった。
 心の拠りどころを破壊されたような気持ちで、何も手につかなかった。

 祖母のくれた新しい書物を読む気にもなれない。
 ずっと楽しみにしていたのに、文字を目にすることも億劫だった。


 こんな思いまでして、どうして生きているのだろうか。
 その疑問がずっと頭の中にあったけれど、今まではそれを振り払うことができた。

 けれど今はもう、どうでもよくなっている。


 鬱々とした気分で寝床に横たわっていると、母が月夜の部屋を訪れた。
 月夜は慌てて身体(からだ)を起こし、正座する。
 寝転んでいたせいで髪が整っておらず、それを見た母は「ああ、醜い」とぼやいた。

 怒鳴りつけられるのではないかと月夜はびくびくしていたが、母は意外と落ち着いた様子で声をかけてきたのだった。


「お義母(かあ)さまがあなたをお呼びになっているわよ」

 月夜が虚ろな目で母を見ると、彼女はうんざりした顔を向けた。


「こんな子がわたくしの娘だなんて、ほとほといやになるわ」
「お母さま……」
「あなたを産むのではなかったわ」

 母はそれだけ言って立ち去っていく。

 何も感じなかった。というよりも、もう慣れた。
 昔から散々言われてきたことだ。

 月夜はひとりで部屋を出ていくことを許されていない。
 なので、使用人たちに連れられて祖母のところまで行くことになる。


 媛地家の広い敷地内にある離れの別邸。
 そこに祖母の暮らす部屋がある。

 手入れの行き届いた美しい庭園には立派な松がそびえ立ち、静かな池には赤い鯉がゆったりと動く様子が見られる。
 いつもは静観なその場所が、今日はやけに騒がしかった。

 庭先には多くの人が集まっていた。
 家の者だけではなく、親戚たちまで来ているのだ。

 月夜は訝しく思った。
 親戚たちが月夜の姿を見るとひそひそと話し始める。


「あの子は次女ではないかしら?」
「まだ生きていたのか。てっきり……」
「あまり見てはいけないわ。呪われるかもしれないわよ」

 辛辣な言葉の数々も、月夜は慣れている。


「月夜です」

 そう言って部屋に入ると、思いもよらない祖母の姿に月夜は愕然とした。
 祖母は横たわっていて、その表情は青白く生気がない。


「おばあちゃん!」