ざあああっと雨の音が耳に響く。
 窓のない部屋で育ったときは外の景色を見聞きすることができなかったので、不思議な感覚である。

 雨の音は心地いい。けれど月の出ない夜は不安だった。
 月夜は布団にくるまって眠りにつこうとするも、妙に胸がざわついて寝つけなかった。

 幼少期にはじめて暗い部屋へ閉じ込められたときのような恐怖感が襲ってくる。
 あのときは自分が死んでしまうのではないかと思った。
 今はひとりじゃないのに、なぜか怖くてたまらない。


 ようやくうつらうつらとしてきた頃、冷たい気配に目を覚ました。
 風もないのに蝋燭の灯りが揺蕩(たゆた)う。
 次の瞬間、布団に横たわる月夜の眼前に、暁美の姿が飛び込んできた。


「お、お姉さま!?」

 月夜はまったく気配に気づけなかった。それどころか、暁美が障子を開けることすら気づかなかったのだ。
 暁美は真顔で突っ立っており、月夜を冷たく見下ろしている。

 その瞳は紅く、髪の色も半分白くなっている。
 そう、まるで月夜と同じ姿になっているのだ。

 慌てて身体を起こすと、いきなり暁美に肩を押され、布団に叩きつけられた。


「お姉さま、何を……」

 薄明りの中で、暁美の腕がいつもより大きくなっていることに気づく。
 これはやはり、能力の覚醒だ。今の暁美は4歳の頃の自分と同じ状態になっていると、月夜は思った。


「お姉さま……放して……」

 月夜は力を込めて暁美の腕を振り払おうとするが、びくともしない。
 樹木を破壊するほどの妖力を持っているはずの月夜が、覚醒したばかりの暁美の力に敵わない。

 月夜はハッとして先ほど食べたシチューのことを思い出す。
 ひと口しか食べていないのに、にんにくの効果はこれほどまで強いのか。

 とにかく落ち着いて姉と話がしたかった。
 しかし、暁美はそうではないようだ。
 不気味な笑みを浮かべながら月夜を見下ろして言った。


「月夜、あんたはもう必要ないの。あたしがこの家のあやかしだから」
「何言って……ぐっ……!」

 暁美は月夜の首を絞めつける。
 苦しくなり、もがく月夜に対し、暁美は平然と笑っている。


「お、ねぇ……さ……」
「月夜、どうして生まれてきたの? あんたがいなければ、あたしが烏波巳さまのお嫁さまになれるはずだったのよ。おばあさまもきっと、あたしを選んだに決まっているわ」

 月夜は必死に姉の腕に爪を立てるも、皮膚が硬くて傷ひとつつかない。


「ねえ、月夜……どうしてあたしの邪魔をするの?」