縁樹は異国人の集団の中へ月夜を連れていった。
 そのうちのひとりの少女が縁樹に気づいて手を振ってきた。

「カラスサン!」

 縁樹は軽く会釈をする。


「お久しぶりです。今日はあなたの遠い親戚の子を連れてきました」

 月夜は少女の前で緊張のあまり固まった。

 少し金の入った白髪(はくはつ)(あか)()の少女だ。
 色白の肌にすらりとした体型。月夜よりも背が高く、顔立ちは異国の人そのものだ。

 月夜は祖母の書物で異国の言葉を少し学んだが、話せるわけではない。
 挨拶がしたいと思ったけれど、とっさに言葉が出てこなかったので西洋式挨拶(カーテシー)をおこなった。

 すると少女は明るい笑顔で同じ挨拶を返した。


「アタシ、メアリー。よろしく!」

 少女が右手を差し出したので、月夜はおずおずとその手を握った。
 少し、緊張がほぐれた。

「月夜です」
「ツキヨ、ハウキュート」

 月夜がぽかーんとしていると、縁樹はとなりでぼそりと言った。

「かわいいと言っています」
「えっ……」

 月夜は赤面し、もじもじしながら小声で話す。

「あなたも、とってもきれいです」

 メアリーはきゃあっと声を上げながら両手を広げて月夜を抱きしめた。
 驚いて硬直する月夜に縁樹が冷静に説明する。

「西の国の挨拶です」
「え? えっ……」


 呆気にとられる月夜をよそに、メアリーは縁樹と異国の言葉で会話を始めた。
 月夜はまったく理解できず、ただ黙って見ているだけだ。

 彼らは時折、月夜のほうへ目を向けて話している。
 一体、何を話しているのか、月夜は不安に思った。


「オッケー! だいじょーぶ!」

 メアリーは急に明るい声で月夜に笑いかけた。
 そしてそのまま立ち去ってしまう。
 ぼうっとしている月夜に、縁樹が先ほどの会話の内容を説明した。


「彼女は君と同じ血を()いでいますが、太陽の光を浴びても平気なんです」
「そうなの?」
「その方法を教えてくれるというので、今日は来てよかったですね」
「あ、もしかしてそのために私をここへ?」

 縁樹は落ち着いた口調で穏やかに話す。


「これから僕と暮らすと、少なからず君に影響が出ます。なるべく妖力を抑えるようにしますが、できるだけ君に負担をかけたくないので」

 そこまで考えてくれていたとは思わず、月夜は胸の奥がじんとした。