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媛地家では両親を独占している月夜のことを、相変わらず暁美は気に食わなかった。
これまで両親の言うことをすべて聞いてきたのだ。
彼らの言うとおりにやれば間違いないと教えられ、きつく叱られても耐えてきた。
そうやってこの家での安定を保ってきたというのに、何もしていない妹にすべてを奪われたのだ。
暁美の怒りは相当なものだった。
「なぜあの子が幸せになるの? 絶対に許せない」
暁美は頻繁に光汰の部屋を訪れては愚痴をこぼした。
そんな暁美に光汰は呆れたが、それでも彼女の培ってきたことが努力なしでは得られないことをよく知っている。
光汰はなだめるように暁美に話す。
「お前もう月夜のことを考えるなよ。放っときゃいいだろ。自分のことだけ考えろ。もうすぐ父さんが見合い話を持ってくるだろうからさ」
とにかく、暁美の思考を月夜のことから切り離してやりたかった。
しかし縁談の話を持ち出すと、暁美はさらに不機嫌になった。
「お兄さま、そのお相手のこと知ってる? 何の力もない貧相な家柄の男よ。どうしてあたしがそんな男のところへ嫁がなきゃいけないの? あたしにふさわしくないわよ」
暁美の縁談相手はあやかしの血筋を持たない人間で、その上爵位もない平民の男だ。
しかしその家は商売に長けており、海外とも取引きがあるようで、そこそこ金持ちであると聞いている。
それでも、暁美は結婚相手に名誉や家柄を重視するのだろう。
「烏波巳さまは新しい時代を切り開くために素晴らしい功績を残されたお家柄のお方なの。女学校でも有名だったのよ」
それを聞いた光汰は複雑な心境になった。
たしかに、烏波巳家は社交界で有名だ。
新時代を迎えるとき、彼の家門は多大な貢献をしたようだが、そのほとんどは謎に包まれている。
光汰は正直、月夜があの家に嫁ぐのも疑問だった。
「でもな、噂では烏波巳家は30年くらい前に分裂したって話だぞ。なんでも本家と分家が後継者をめぐって争ったという話だ」
暁美はそれにはまったく関心を示さない。
「どうでもいいわ。家柄のいいお方ならそれでいいのよ」
光汰は呆れ顔でため息をついた。