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縁樹は時折、未来を視ることがある。
本人の意思とは無関係に予知夢は突拍子もなく現れ、目が覚めると消える。
残るのは曖昧な記憶だけである。
それは未来のいつどこで起こることなのか定かではなく、遠い未来であればあるほど不明瞭である。
縁樹がたびたび視るのは多くの人が死んでいく未来だ。
それが戦によるものなのか、天災によるものなのか、目覚めるとはっきりしない。
よって、どれほどの不運を夢に見ようがどうにもできないのである。
この能力に苦しめられながら100年以上生きた。
古い時代では刀を握り、戦に参加した。
人が多く死ぬ夢を幼い頃から見てきたから、人を救うべく行動したが、結局多くの人が死んだ。
新しい時代になり、あやかしの中でも最高位の者しか与えられない高級官僚の職が舞い込んだが、彼はそれを断って山奥の誰も近づけない場所へ結界を張りひきこもった。
およそ30年経ったある日、ひとりの女が縁樹のもとを訪れた。
それが香月だった。
久しぶりに見た彼女はずいぶん年老いていた。
香月は少しずつ縁樹を外の世界へ連れ出した。
町はすっかり変化しており、時代の流れについていけなかった縁樹に香月はさまざまなことを教えた。
ろくに会話のできない縁樹に香月は〈正しい言葉遣い〉を教え込んだ。
縁樹は香月と再会してからほとんど予知夢を見ない日が続いた。
香月と一緒にいる時間が長くなればなるほど、縁樹の妖力が制御され、遠い未来を視ることも少なくなっていた。
ところが、しばらく香月と会わなくなるとまた強い妖力のせいで縁樹は予知夢に苛まれた。
そのひとつに香月が死ぬ夢があった。
あまりにも近い未来なのではっきりとしていた。
縁樹は香月にそのことを話せず、久しぶりに訪れた彼女に健康に気をつけるよう言った。
香月は自分の寿命がわかっていた。
だから縁樹を外の世界へ連れだし、以前のような人間らしい暮らしを取り戻させたのだった。