一体どれほど叩かれたのだろうか。
月夜の頬は赤く腫れ、口が切れて血の味がし、腕も足も傷だらけになった。
見えないところにも傷がある。
しかしながらこの傷は時間が経つと塞がっていく。
一日も経たないうちに怪我はきれいに治るのだ。
それを知っているせいか、父は容赦なく月夜に暴力を振るう。
化け物だと罵りながら。
地下室に放り込まれた月夜は両親から罵倒された。
「お前のせいで干野川さまとの縁談がなくなってしまったわよ! なんということをしてくれたの?」
母は涙ながらに叫ぶ。
媛地家の財政がひっ迫していることは使用人たちの噂で月夜も知っていた。
母はこの縁談に賭けていたのだろう。
それが破談になり、衝撃と怒りで感情を制御できないようで、すべてを月夜にぶつけている。
「どうしてあたしの大事な結婚を邪魔するのよ!」
ふらつきながら起き上がろうとする月夜の身体を、暁美が泣きながら突き飛ばした。
どうすればよかったのだろうか。
あのとき、どうすればこんなことにならなかっただろう。
月夜は何度考えてみても、どうにもならなかったと思ってしまう。
「もういい。お前は遊郭に売り飛ばしてやる」
父は冷たい口調でそう告げた。
月夜は驚き、父を見上げる。
だが、彼は汚いものを見るような目で月夜を見下ろした。
となりで暁美が涙ながらに笑って言う。
「そうよね。その無駄な美貌を男のために役立てられるんだもの。よかったじゃない?」
月夜は絶望のあまり、無理だとわかっていても母にすがりついた。
「お母さま、お助けください。私は……」
「お前を娘だと思ったことなど一度もないわ」
母は冷たくそう言って、月夜に背中を向けた。
「時を見計らって月夜は病死したと世間に公表する」
それが父の決定だった。
月夜が必死に懇願するも、父も母も姉も冷たい視線を投げつけるだけだった。
彼らが無言で去ったあと、月夜は泣きじゃくりながら亡き祖母に訴えた。
「おばあちゃん、どうしたらいい? 私はどうしたらいいの?」
小さな灯りの炎がゆらりと揺れる。
だが、答えなどあるわけがなく、月夜は次第に声を上げる気力さえ失った。
ぼんやりしていると、くしゃくしゃになった紙きれが落ちていることに気づいた。
近づいて拾ってみると、それはいつかの誕生日に届いた手紙だった。
『あなたの明日がしあわせであることを祈っています』