「遠海、次化学室。テルミット反応の実験だって」
〈は? 一人で行け〉
「辛辣」
そろそろ空腹を感じ始める、四時限目が始まる前の小休み。
次の授業は移動教室なのだが、
「実験って怖くね? 俺の事だから何かやらかしそう」
どれだけ突き放そうと、白川は何故だか私が支度を終えるのを待っている。片手に教科書類を持ち此方を見つめている白川になんとなく気まずさを感じながらも、向かう先は同じ故に仕方なく共に教室を出た。
白衣とか着れんのかな、白衣はロマンだけど保護メガネはダサいよな、などと隣でぼやいている白川は、何故だか私と歩調を合わせている。他のクラスメイトは、もうとっくに化学室へと向かっていて、既に到着している生徒も少なくは無いだろう。
何故こうも彼は私に構うのか。今まで誰一人として私に深く関わろうとした人物は居なかったというのに。鈍く頭が痛み、溜息をつきながらこめかみを押さえた。
――白川が編入してきて、早くも一週間。
二日目の朝、白川がバスに乗せてくれたのはただの気まぐれだと思っていたが、彼は何を考えているのかこの一週間欠かさず私と同じ時刻のバスに乗り、私がバスに乗るのを補助してくれる。
それだけでは無い。初日のあの自己紹介は何だったというのか、彼は必要以上に私に話し掛けてくる。そのせいで、今までタブレットの充電は一日で半分も減らない程度だったのに、昼頃にはもう充電が一桁になってしまい自身の人生には無縁だと思っていたモバイルバッテリーを購入する羽目になった。
バスに乗る補助をしてくれているのは助かっているが、無駄な荷物を増やした挙句、モバイルバッテリーの充電作業という余計な手数を増やした白川には正直恨みしかない。しかしそう思いつつも話し掛けられれば無視は出来ない。そんな自分が、大概嫌になる。
――授業が終わった後の昼休み。
普段なら白川は当たり前の様に私の後を付いてきて、頼んでもいなければ許可もしていないのになぜか私と共に自席に並んで昼食をとる。その間も白川はずっと喋り続ける為、私は片手で文字を書きながら食事をしなければならなかった。
しかし今日の白川は、運が悪く先生に捕まり、授業で使った小道具の片付けを手伝わされていた。これはチャンスだ、と思い、私は痛む足を引き摺り急いで教室に戻り、買っておいたパンを抱えて一人屋上へと向かった。
――そして、今に至る。
この暑い九月に、わざわざ屋上で昼食をとる生徒は居ない。広い屋上に、私一人きりだ。
フェンスを背凭れにして座り、パンをちびちびと齧る。
「……」
やっと、一人になれた。ペンを片手にパンを食べるのは大変だったのだ。やっと白川と離れる事が出来た。せいせいする。
なのに、心中にはもやもやとした気持ちの悪い感情が回っていた。
なんで先生に捕まってるんだよ、断って逃げれば良かったのに。白川がいつも通り私と一緒にいれば、私はこうして痛い足に鞭打って屋上なんかに来なくて済んだのに。
矛盾した考えなのは分かっている。そんな事を思うのなら最初からこんな場所に来なければいいだけであり、小道具の片付けだって手伝ってやることも出来た。白川から逃げ、屋上を選んだのは他でも無い私だ。なのに、それを白川のせいにするだなんて間違っている。
回り続ける嫌な感情に食欲が失せ、食べかけのパンを袋の中に戻した。
〈は? 一人で行け〉
「辛辣」
そろそろ空腹を感じ始める、四時限目が始まる前の小休み。
次の授業は移動教室なのだが、
「実験って怖くね? 俺の事だから何かやらかしそう」
どれだけ突き放そうと、白川は何故だか私が支度を終えるのを待っている。片手に教科書類を持ち此方を見つめている白川になんとなく気まずさを感じながらも、向かう先は同じ故に仕方なく共に教室を出た。
白衣とか着れんのかな、白衣はロマンだけど保護メガネはダサいよな、などと隣でぼやいている白川は、何故だか私と歩調を合わせている。他のクラスメイトは、もうとっくに化学室へと向かっていて、既に到着している生徒も少なくは無いだろう。
何故こうも彼は私に構うのか。今まで誰一人として私に深く関わろうとした人物は居なかったというのに。鈍く頭が痛み、溜息をつきながらこめかみを押さえた。
――白川が編入してきて、早くも一週間。
二日目の朝、白川がバスに乗せてくれたのはただの気まぐれだと思っていたが、彼は何を考えているのかこの一週間欠かさず私と同じ時刻のバスに乗り、私がバスに乗るのを補助してくれる。
それだけでは無い。初日のあの自己紹介は何だったというのか、彼は必要以上に私に話し掛けてくる。そのせいで、今までタブレットの充電は一日で半分も減らない程度だったのに、昼頃にはもう充電が一桁になってしまい自身の人生には無縁だと思っていたモバイルバッテリーを購入する羽目になった。
バスに乗る補助をしてくれているのは助かっているが、無駄な荷物を増やした挙句、モバイルバッテリーの充電作業という余計な手数を増やした白川には正直恨みしかない。しかしそう思いつつも話し掛けられれば無視は出来ない。そんな自分が、大概嫌になる。
――授業が終わった後の昼休み。
普段なら白川は当たり前の様に私の後を付いてきて、頼んでもいなければ許可もしていないのになぜか私と共に自席に並んで昼食をとる。その間も白川はずっと喋り続ける為、私は片手で文字を書きながら食事をしなければならなかった。
しかし今日の白川は、運が悪く先生に捕まり、授業で使った小道具の片付けを手伝わされていた。これはチャンスだ、と思い、私は痛む足を引き摺り急いで教室に戻り、買っておいたパンを抱えて一人屋上へと向かった。
――そして、今に至る。
この暑い九月に、わざわざ屋上で昼食をとる生徒は居ない。広い屋上に、私一人きりだ。
フェンスを背凭れにして座り、パンをちびちびと齧る。
「……」
やっと、一人になれた。ペンを片手にパンを食べるのは大変だったのだ。やっと白川と離れる事が出来た。せいせいする。
なのに、心中にはもやもやとした気持ちの悪い感情が回っていた。
なんで先生に捕まってるんだよ、断って逃げれば良かったのに。白川がいつも通り私と一緒にいれば、私はこうして痛い足に鞭打って屋上なんかに来なくて済んだのに。
矛盾した考えなのは分かっている。そんな事を思うのなら最初からこんな場所に来なければいいだけであり、小道具の片付けだって手伝ってやることも出来た。白川から逃げ、屋上を選んだのは他でも無い私だ。なのに、それを白川のせいにするだなんて間違っている。
回り続ける嫌な感情に食欲が失せ、食べかけのパンを袋の中に戻した。