白川が教室に戻って来たのは、不良生徒が消えて大分経ってから。昼休み終了五分前を告げる予鈴が鳴ってからの事だった。

「色んな先生と話させられた。昼飯食い損ねたんだけど」

 聞いてもいないのに報告をしてくる白川に、暫し迷った挙句〈ご愁傷様〉とだけタブレットに書く。

「次の授業寝てても良いかなぁ」
 
 嘆く様に白川が呟く。

「飯食ってないし疲れたわ」

 次の授業は数学だ。数学担当の先生は厳しいで有名であり、授業中に居眠りでもしようものなら放課後説教コースだ。単位に関わる事は無いが、追加で課題を課されるなど悲惨な目に遭うらしい。

〈数学の授業だけは真面目に受けておいた方がいい〉
 
 タブレットにそう書いて、白川に見せる。

「なんで?」

〈先生が厳しい人だからだ。ふざけた態度を取ったり寝てたりすると、悲惨な目に遭うぞ〉

「悲惨な目……」

〈編入初日から目を付けられたくなかったら真面目に受けておけ〉

 それは、隣の席の私がとばっちりを受けない為の忠告でもあった。居眠りしている隣の席の生徒を起こさなかった、注意しなかった、というだけでも説教対象になり兼ねない。しかし何故だか、白川があの数学教師に叱責され、課題を課せられる姿は見なくないな、なんて思ってしまった。

「職員室で話した時は、温和そうな先生だったんだけどなぁ」

〈別に怖い人だという訳では無い。授業外では優しいし、比較的温和だ。生徒と仲良く話している姿もたまに見かける〉

「ふぅん」

 噂をすれば、ガラガラと教室の扉が開き数学担当の先生が入ってきて、散らばっていたクラスメイト達が自席に戻っていく。白川との会話も自然とそこで途切れ、タブレットの電源ボタンを押し、ディスプレイを消した。
 尚、忠告してやったというのに白川は爆睡をかまし、先生に叱責されたのち編入初日から放課後居残りコースになったのは言うまでもない。

     *