決して大きい訳では無いのに、良く通る声だ。顔を見なくとも、不良だと分かる声音である。
 教室でお弁当を広げていたクラスメイト達が皆口を噤み、声を上げた男子生徒の方へ視線を向ける。かく言う私も釣られてその男子生徒に視線を向けてしまっていたのだが、男子生徒は物怖じする事無く「このクラスに白雪姫が編入してきたって聞いたんだけど、どの子?」とへらりと笑って言った。
 廊下側の窓枠に両肘を突いてクラス中に話し掛けるその男は、確実に校則違反である金髪を緩く巻き、銀のピアスを左耳に大量に付けた一年生の中でもそこそこ名の知れた不良だ。確か不良の先輩達と仲が良く、安易に声が掛けられない危険人物、と言われていた気がする。しかし整った顔立ちから女子生徒からはかなり持て囃されている様で、更にはそこに女好きも加わって彼女は週一で変わっているらしい。私からすれば、週一で変わろうと彼女を複数作らず一人に限定している時点でまだ幾らかマシだと思うのだが、言わずもがな、私は絶対に関わり合いたくない相手である。

「白雪姫じゃないよぉ! 白川〝くん〟!」

 椎名さんが席から立ち上がり、媚態全開でその不良生徒に届く様に声を張り上げる。

「白川〝くん〟? 男なの? なんだ、姫じゃねぇじゃん」

「遠海さんの隣の席だよぉ、今度見に来てあげて」

 椎名さんに突然名前を出され、肩が跳ね上がる。なんで名前出したんだ馬鹿、放っといてくれ。

「遠海って誰?」

「ほら、そこの窓際の」

 椎名さんが私を指差し、不良生徒を含めたクラスメイト達の視線が一気に私に向く。

「へぇ、君が遠海ちゃんね。覚えとくわ」

 覚えなくていい。
 そんな心の叫び虚しく、その不良生徒がふにゃりと表情を緩め私に向かって手を振った。なるほど、そりゃ女子も落ちるわけだ。甘さのある整った顔に柔らかな微笑みが浮かべば、殆どの女子生徒が見惚れるに違いない。
 本来であれば無視を決め込むところだが、こういう不良を怒らせたらどうなるか分からない。平穏な日常を守る為にも、パンに口を付けたままぺこりと会釈した。