父親が再婚した。
 彼らの、挙式もなにもないシンプルな入籍祝いには、私も出席した。お祝いの席に着く人間自体が、父とその妻になる人と私だけ。そんなささやかなひとときだった。

 新幹線の時間まではまだ余裕がある。ふたりに余計な気を遣わせたくなくて、その辺をぶらぶらしてから帰るね、と告げて別れたのはつい三十分前のことだ。
 薄いピンク色のフォーマルタイプのワンピースに、それより少しだけ濃い色の花柄の傘。ここ一年伸ばし続けている肩下までの髪が、湿気を含んで重苦しく感じられてしまう。

 高校時代までを過ごした実家からほど近い小さな公園へ、自然と足が動いた。

 ここに来るのは避けていた。大学に入って以降はほとんど帰省しなかった分、なおさらその機会はなかった。
 今日は気まぐれに立ち寄ったが、大学と同じく都心部での就職を考えている以上、私はもう、この街には滅多に足を踏み入れなくなるに違いなかった。

 しとしとと降り注ぐ細い雨が、さして古くもない記憶を蘇らせる。
 街全体が特有の蒸し暑さに染まり始めた梅雨の時期、生ぬるい雨。あの日、この場所で浴びた雨はもっと勢いが強く、まるで肌を刺すようだった。傘を持たない無防備な私の肌を、心ごと何度も刺し貫いては凍りつかせた。

 今はまさにあの日と同じ季節で、けれど今日の雨はあの日の雨とは違う。
 今降り続けている細い雨は、私に痛みを連れてこない。刺すような鋭さも強さもない。

 不快な湿気が、身体と心にただ重くまとわりついてくるだけ。