椿さん、今日は寝込むくらい体調悪そうだったもんなぁ…。
とりあえず、幸次郎さんの気持ちは本物のようだし、せめて本人と合わないと関係は先に進まない。
ほんの少しの間だけれど、話をしてみて彼は良い人だとわかったし、椿さんに気持ちを伝える機会くらいはあってもいいのではないだろうか。
そう思った。
「椿さんの体調が1番大事ですし…。今日は少し期待してここには来たのですが、まぁ、しょうがないです。また機会を待ちますよ。葵さん、心配しなくても父には適当に言って椿さんとの婚約話の件は、誤魔化しておきますから」
フッと小さく微笑んだ彼はそれだけ告げると石造りのベンチから立ち上がる。
「そろそろ戻りましょうか。お手をどうぞ葵さん」
「……はい」
何もできない自分がもどかしい。
もちろん、こればかりは椿さんの気持ちが大事なんだけど…。
意外と椿さん、気に入りそうな気がするんだけどな。
ん〜、どうにかならないかな。
菊雄さん達が待つ部屋へと戻りながら、私は1人そんなことを考えていたのだった。