「城崎の旦那様、こちらでございます。吉澤様はまだおつきになっておられませんのでもうしばらくお待ちくださいませ」
「あぁ。わかった」
「お茶をすぐにお持ちいたしますので、お掛けになってお待ちくださいませ」
料亭の女将さんから案内された部屋は、風流がある掛け軸やら焼き物が置かれ、庭からは綺麗な景色が広がっている。
今日の私は、椿さんから借りた綺麗な朱色の振り袖を身にまとい、髪も結い上げてもらいお揃いの色の簪をつけてもらっていた。
軽く化粧も施し、なんとかいつもの姿よりはマシになっているはず。
「葵さん、緊張しなくて大丈夫だ。とりあえずは私が向こうの親とは話をするから、効かれたことだけ答えればいいからね」
菊雄さんも緊張しているのか、少しだけ笑顔が引きつっているように見える。
それはそうだ。
替え玉だと言うことがバレてしまえば体裁も良くないだろう。
しかし、身体の弱い椿さんに無理はさせられないし、居候させてもらっているのだからこのぐらいは役に立たないと。
「頑張ります…!」
小さく拳を握りしめ、私が腹を括った。
その時。