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「葵さん、準備はいいかい…?」

「はい…。とりあえず粗相のないように頑張ります」

隣に立つ菊雄さんに声をかけられ、私はコクリと頷く。

城崎家に居候を初めて2週間が経った。 
今日は、元々の目的である椿さん代理の"お見合い"当日。

約束通り2週間、私は椿さんと会っている時以外は立ち振舞い、話し方を含めて家庭教師をつけてもらった。

慣れない勉強に苦労をしたが、とりあえずできる限りのことはしてきたつもりだ。

ちなみに椿さんは、ここ数日体調を崩しており、私も気遣ってあまり部屋を訪れていない。

だから、今日のお見合いについてもバレることはなく、穏便に済ませる予定だ。

「今日の見合い相手は、吉澤家の次男、幸次郎くん。歳は君より2つ上だ…葵さん、1つよろしく頼むよ。それじゃ、この部屋に入ってからは君は椿として振る舞ってくれ。1時間ほどで終わるはずだから」

菊雄さんの言葉に再度頷くと、私は彼と一緒に見合い会場である料亭に足を踏み入れる。