「そう言えば帰ってきた時、玄関先で菊雄さんがそんな話をしてたわね。えぇ、ぜひその子にも会いたいわ。入っていらっしゃいな」
柔らかな口調で話す椿さんの母親に少しホッとした私は、椿さんの後に続いて部屋へと足を踏み入れる。
そして。
「はじめまして。菊池葵です。今日からお世話になります」
ペコリと頭を下げて挨拶をした。
「お母様、葵ちゃんは私と同い年なのよ」
そんな椿さんの補足に「そうなのね」と相づちを打つ母親が私に視線を移した時、驚いたように目を見開いた彼女の形の良い唇が「ゆり…」と確かにそう動いたのを私は見逃さなかった。
「お母様…?大丈夫?」
「あら、ごめんなさい…。いやね、私ったら…ぼーっとしちゃって。葵さん、はじめまして。椿の母の城崎撫子(なでしこ)です。よろしくね」
心配そうな表情の椿さんに声をかけられ、撫子さんはすぐにふわりと柔らかな笑みを浮かべ、自己紹介をしてくれる。
「葵ちゃんと私、顔が似てるでしょう?泰葉さんとか和菓子屋の奥さんも私と間違えたのよ」