今は…?
"今は"という椿さんの言葉が少し気にかかった。
だって、その言い方だと"前は"他に子どもがいたみたいに聞こえてしまう。
私が不思議そうな表情をしたのを感じ取ったのか椿さんは一瞬、寂しそうに微笑むと。
「実はね私、本当は双子だったの。双子の妹がいたんだ…小さい頃に事故で亡くなったんだけど」
そう小さな声で呟いた。
「妹さんが…」
椿お祖母ちゃんに妹がいたというのは、初耳で私も目を丸くする。
お母さんや菫おばさんからも聞いたことがなかった話につい反応してしまった。
「そう。百合って名前でね。今は菖蒲寺に埋葬されてるの。だから、私も定期的に菖蒲寺にお参りに行ってたわ」
なるほど、そういう理由があったのね。
正直、体調を崩しやすい椿さんが、なんであんなに遠い山奥の寺にお参りに来ていたのか不思議に思っていた私。
妹が埋葬されているという話を聞いてようやく合点がいった。
「だからかな…。私に似てる葵ちゃんを見てるとね、妹…百合が帰ってきたみたいな気分になるのかもしれないわ。姉妹みたいに感じちゃってるから、きっと素が出ちゃうのね。そう言えば、葵ちゃんは兄弟はいるの?」