おしとやかなお嬢様のイメージだった彼女の思いがけない行動に私はギョッとして目を見開く。
そんな私の表情を見た椿さんは、シーッと顔の前に指を持ってきた。
そして。
「うふふ。手がふさがっちゃってたからつい。お父様にはナイショね。怒られちゃうから」
と声をかけつつ、部屋の中にある机の上にお盆を置いて腰をおろす。
「ビックリした?本当は、私、全然おしとやかって柄じゃないの」
私の前に持ってきてくれたお茶と羊羹を差し出し、椿さんはあっけらかんとそう言い放った。
「一応、城崎呉服店の顔もあるし、人前では素を出さないように気をつけてるのよ?でも、葵ちゃんの前だとなんか安心するっていうか…。ふふ、ついね」
パクっと爪楊枝に指した羊羹を口に運び、楽しそうに語る彼女は、初対面の時よりも年相応というか随分とあどけなく見える。
「椿さんも大変ですね…」
「まぁねぇ。でも、しょうがないわ。兄か弟でもいれば別でしょうけど、今は私しか子どもはいないし」