菊雄さんが"上手く言っておいた"という内容に関して察した私は、彼女に合わせるようにコクリと頷いた。

「お母様もね、もう少ししたら帰ってくるの!後で葵ちゃんも一緒に会いに行きましょうね」

終始笑顔の椿さんが私の手を取り、そう言った時。

「こらこら、椿。葵さんも着いたばかりで疲れてるんだ。とりあえずお部屋に案内してやったらどうかな?」

車の助手席から降りてきた菊雄さんが椿さんに向かって、声をかける。

一瞬、ハッとしたような表情を浮かべた彼女は私をちらっと見つめると少し落ち込んだように顔を伏せた。


そして。


「そうですね。お父様、つい嬉しくってはしゃいでしまいました…。葵ちゃん、ごめんね。疲れてるのに。お部屋はこっちよ」


私の手をキュッと握る彼女に私は素直についていく。

そんな私達の後ろ姿を寂しそうに見つめる菊雄さんと泰葉さんの視線にその時の私は気づけなかったんだ。