その時。
「葵さん、今日はうちの妻も一緒にいるんだ。椿と同じで少し身体が弱くてね。昨日まで入院していたのだけれど今日からしばらく外出許可がおりてね。1週間ほどうちに帰ってくれることになったんだ。よければ、挨拶をしてやってくれるかい?」
助手席に座っていた菊雄さんがくるりと振り返り、私に声をかけてくる。
…椿さんのお母さんも、身体が弱いんだ。
しかも入院してたなんて。
この前、椿さんの話にお母さんが出てこなかったのはそのせいなのかな?
「もちろんです。これからしばらくお世話になりますし、椿さんのお母さんにも会えるなんて私も嬉しいです」
「そう言ってくれると私も安心したよ。撫子も驚くだろうなぁ。椿にそっくりな葵さんを見たら…そう、まるで…。いや、すまない。なんでもない」
…?
何かを言いかけて、途中で口をつぐんでしまった菊雄さん。
私も内容が気にはなったが、それ以上詮索することもできずその場は流れてしまった。