「これは驚いた…。泰葉と椿の話は本当だったんだな」

しげしげと、私の顔を見つめる中年男性は感心したようにポツリと呟く。

珍しいものでも見るかのような視線に若干、居心地の悪さを感じつつ、私は口を開いた。

「あの…!椿さんのお父さんですよね?」

「あぁ。すまないね、自己紹介もなしに…。はじめまして。葵さん。私は椿の父で城崎菊雄(きくお)だ。実は、昨日君がうちの屋敷を訪れたことを椿から聞いてね」

うっ…。やっぱりその話だ。

知らない私が、家に入ったことを咎められるのだろうか。不可抗力とはいえ、お父さんの不在中に勝手に入ってしまったわけだし…。

内心、冷や汗が止まらない私は小さく息をつく。

どうせ怒られるなら、早めに非を認め謝ったほうがいいだろう。

そう思った私が

「昨日はすみませんでした…!」と勢いよく頭を下げたのと。

「葵さん、君に折り入って頼みがある…!」

そう言い放った菊雄さんが私に向かって深々と頭を下げたのは、ほぼ同時だった。