そう思った私は、慌てて寝ていた布団を畳み、幸枝ちゃんから借りている着物に袖を通した。

数分後、準備ができた私が居間におりてくると。

「あ、城崎の旦那様…。あの女の子が今、うちで面倒みている葵…です。葵ちゃん、こちら城崎呉服店の旦那様よ。あなたに会いに来られたって…」

幸枝ちゃんのお母さんが、少し緊張した面持ちで私に声をかけてきた。

幸枝ちゃんのお母さんの右隣には、幸枝ちゃんのお父さんが座り、左隣には幸枝ちゃんが座っている。

そして、幸枝ちゃん家族と机を挟んだ向かい側。

高そうな着物に身を包んだ中年男性が私を見て、目を見開いていた。

この人が椿さんのお父さん。
私の"ひいひいお祖父ちゃん"になる人…。

「…あの、はじめまして。菊池葵と言います」

入口付近で佇み、ペコリと頭を下げ挨拶を交わす私に向かって。

「葵ちゃん、こっちにいらっしゃい」

幸枝ちゃんのお父さんが私に手招きをする。

私は「はい…」と呟いて、居間へと足を踏み入れた。