1人頭の中で悶々と悩んでいると。
「ねぇ…!今度は葵ちゃんの話を聞かせてよ。菖蒲寺の麓出身…ではないわよね?言葉遣いにあまり訛りがないから…。もしかして出身は東京の方?」
椿さんが私が持ってきたお饅頭に手を付けながら、問いかけてきた。
「あ…えっと、その。よくわからないの」
「よくわからないって…?どういうこと?」
「実は…」
こうなったら、幸枝ちゃん達にも話した"記憶喪失設定"で話を持っていこうと私は懸命に言葉を選びながら椿さんに説明をする。
気づいた時には、菖蒲寺の麓にある畑に倒れていたこと。
それよりも以前の記憶がないこと。
幸枝ちゃん家族に助けられたこと。
そして、菖蒲寺の住職から椿さんの話を聞いたことも。
"自分の記憶がない"という部分以外は、全て真実を語った私。
椿さんは、そんな私の話を終始真剣な面持ちで聞いてくれていた。
「…というわけで、本当は今日、椿さんに会いに来たの」
全て語り終わった時、彼女は「うーん」と考え込む素振りを見せる。
「あまりにも突飛な話で…。正直驚いたわ」
そうだよね…。それが普通の反応だよ。