「お父さんが…?」

少し目を伏せて、寂しそうに笑う椿さんの表情が気になった。

「えぇ…。実はね、私、小さい頃菖蒲寺付近で行方不明になったことがあったらしくて」

…え、それって。

私は、彼女の言葉に目を見開く。

「…行方不明?」

「そうなの。ただ、私、その時のことあまり覚えてなくてね?気づいたら山の中の木の幹で寝てたの。不思議よねー。神隠しって当時はウワサになったらしいんだけど」

"覚えていない"

椿さんのその言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃がはしった。

椿さんと会うことで、私が元の時代に戻る手がかりが見つかるはずと、どこか安易に考えていたのかもしれない。

これからどうしたらいいんだろう…。

その情報源がたたれた今、どうしようもない不安が私の心の中を支配していた。

「大変な目にあったんだね…。怖かったでしょう?」

小さく顔を伏せ、私は言葉を紡ぐ。

その時。

「でもね…」

椿さんが明るい口調で話だしたから、私は思わず顔をあげた。

「きっと、そんなに怖い目にあったわけじゃないと思うの。だって、今でも菖蒲寺に行くの私は好きだもの」