「…菖蒲(あやめ)?椿さんがこの人に向けて書いたのかな?」


封筒の表面には日記と同じ達筆な字で"菖蒲へ"と書かれている。


…封が切られた様子はないし、書いたはいいものの何か理由があって渡せなかった…とか?


「…とりあえず、勝手に捨てるのもよくないし、お母さんたちに後で聞いてみよ」


そう考え、日記帳と手紙をもとの木箱の中に戻し、私は、他の荷物を片付けるべく、目の前にあったダンボール箱に手をかけたのだった――。



✼•✼•✼


その日の夕食の時間。

私は、母たちに椿さんと言う人の日記帳を見つけたことを話していた。

「…え、椿?あぁ!椿おばあちゃんね!私と菫のおばあちゃん。つまり、葵のひいおばあちゃんにあたる人よ」

「…ひいおばあちゃん?」

母の口から出たのは、予想もしていなかった曾祖母の話。

正直、会ったこともないし、ピンとこない。

「そうそう、何でも母さんを生んだ後、すぐ亡くなったらしくて私も実際に会ったことはないのよね。たしか…ほら、写真がどこかにあったはず…」

母は、そう言うと古い戸棚から日に焼けた小さなアルバムを取り出した。