「幸枝ちゃん、町に行くにはどうしたらいい…?歩いて行けるかな」
先ほど菖蒲寺へ向かって登っていた山道の途中に見えた景色。
そこから、遠目で町の様子も見えはしたが、幸枝ちゃんの家からも、まだまだ距離がありそうで私はおずおずと彼女に問いかける。
「そやねぇ…。歩いたら2時間はかかるよ。うちは車はないし…どうしようか…。うーん…あ!隣のおじさんが毎日朝早く町へ馬車で野菜を売りに行くんよ。それに乗せてもらえれば…」
「帰ったら頼みに行こう」そう言ってくれた幸枝ちゃんに私はコクリと頷いた。
本当に幸枝ちゃんにはお世話になりっぱなしだ。感謝してもしきれない。
「幸枝ちゃん、ありがとう…」
「ううん。困った時はお互い様やからね!ただ、私が明日は畑の手伝いせなやから、一緒に行けへんのよ。1人で大丈夫…?」
心配そうに私を見つめる幸枝ちゃんに私は一瞬、不安が脳裏をよぎったが、これ以上迷惑はかけられないと気丈に振る舞う。
「大丈夫。椿さんって言う名前をたよりに聞き込みすればいいんだもの。住職さんも大きな商家の娘さんだって言ってたし、きっとすぐ見つかるよ」
笑顔でそう言い放った私に安堵したのか幸枝ちゃんも「そやね」と呟き、小さく頷いた。