住職の言葉に、幸枝ちゃんがハッとしたような表情を浮かべ、コクリと頷きつつ、そう答える。
「その日は夜中、山中から寺の周りまで総出で探したんやけど結局見つからんくて…誘拐されただの、野犬に襲われただの憶測が飛び交ったんだが…」
「それでどうなったんです…?」
「…朝方になって椿お嬢さんは、自分の足で帰ってきたんよ。特にケガもなくて、元気そうな様子で…。けど、不思議なことにお嬢さんにいくら聞いても、どこにいたのかは覚えてないの一点張りで…。あれは神隠しだったのだろうと当時は話題になったもんだ」
懐かしそうに目を細めて、住職は教えてくれた。
椿さんが神隠しに?
「葵ちゃん、もしかしたらその椿お嬢さんに会えば何か手がかりがあるかもしれないね…!葵ちゃんと同じような体験をしてるんだもの」
幸枝ちゃんが私に向かってそう声をかけてくれたので私も「うん」と首を縦にふる。
椿さんに会うことは、最初から考えていたことだし、住職が話してくれた"神隠し"の一件も、彼女の口から詳しく聞きたい。