顎に手を当てて考え込む住職に幸枝ちゃんは残念そうに肩を落とす。
「あの…!私、自分の家で寝ていたことはぼんやりと覚えてるんです。でも、気づいた時には畑で倒れていて…。ここがどこかもわからないし。き、記憶もないし…」
"記憶がない"ということは嘘だが、それ以外は全て本当のことだ。
「…そう言えば、数年前…。さっき話に出てた椿お嬢さんが数日行方不明になったことがあったなぁ…」
「え…!?葵ちゃんに似てるっていう?」
「その話、詳しく聞かせてください…!」
不意に思い出したように話し出した住職に私と幸枝ちゃんはそれぞれ身を乗り出した。
椿さんが行方不明…。
「そや、確か…まだお嬢さんが10歳くらいの頃やからもう随分前になるけれど、菖蒲寺への参拝帰りに行方不明になって、地元の住民も協力して探してなぁ…。幸枝ちゃんは覚えてないかい?」
「うーん…。夜中に父さんたちが女の子がいなくなったから探しに行くってことあったかもしらん…。それがその椿お嬢さんやったんやね」