なんだか急に懐かしい感覚におそわれる。

おかしいな…見たことないはずの花を懐かしく思うなんて。

菖蒲寺は椿さんの手紙にあった"菖蒲"という人に関係あるのだろうか?

1人考え込みながらも、足を進めていた時だった。

「葵ちゃん、ついたで。ほらこの石段の上が菖蒲寺やよ」

前を歩いていた幸枝ちゃんからそう声をかけられ、私はゆっくり顔を上げる。

「これが…菖蒲寺?」

20段ほどある石段の上には木造の立派な山門。

その奥には仏像が飾られている本堂があるようだった。

「どうどう?なんか思い出した?」と、ワクワクした様子の幸枝ちゃん。

しかし、案の定というか、特段ピンとくることはなく…。まぁ、来たことないから当たり前なんだけどね。

「ううん…今のところは何も」

苦笑いでそう返答すると。

「そっか…まぁ、とりあえず住職と話したらまた何か思い出すかもやしね。とりあえずお寺さんの中入ろう」

少し残念そうな彼女。