優しくしてくれる幸枝ちゃん達に嘘をつき続けるのは心苦しい。
けど…。
"タイムスリップ"なんて突拍子もない話した所で頭がおかしいと思われるだけだろうな。
私が幸枝ちゃんの立場だとしたらそんなこと…きっと信じられないもの。
だから、このまま"記憶喪失"ということにしておくのが、お互いに良いのだと私は自分に言い聞かせた。
「よし、そろそろ行こうか?菖蒲寺の名前に聞き覚えがあるなら、実際に見ればもっと何かを思い出すかもしれんよ」
座っていた石からサッと立ち上がった幸枝ちゃんは、私に手を差し出し、笑顔でそんなことを言ってくれる。
「うん、そうかもしれないね」
私も彼女の手を掴みながら、曖昧に微笑んだのだった。
その後、さらに15分ほど山を登っただろうか?
道が少しずつ開けてきて、山中の所々に紫色の花が目に入ってくるようになる。
これ、もしかして菖蒲…?
花には詳しくないので、実物は見たこともないが、私はふとそう感じた。