「葵ちゃん、とりあえず色々不安だろうけどしばらくうちでゆっくりしてってな」
そう言って、微笑む幸枝ちゃんに私も小さく笑いかける。
その日の夜、行く場所もない私を不憫に
思ってれた幸枝ちゃん家族のお言葉に甘え、私は泊まらせてもらうことになった。
「幸枝ちゃん…それに、幸枝ちゃんのお父さん、お母さん…ありがとうございます」
深々と頭を下げる私に対して。
「そない、頭さげんと。ほら、顔を上げて。気にせんでええからね。困ってる時はお互い様やないの。ねぇ、あんた」
「そうやな。記憶もなくてさぞ不安やろう…。葵ちゃんの気の済むまでうちにいてくれてええからな」
そんな優しい言葉をかけてくれる幸枝ちゃん両親に私は思わず泣きそうになるのをグッとこらえる。
…最初に会ったのが、幸枝ちゃん達みたいな優しい人達でよかった。
「父さん、母さん。明日、うちは葵ちゃんと一緒に山のお寺さんに行ってくる。住職なら何か知ってはるかもしれん」
「それがええわ。神隠しやら記憶がない理由もわかるかもしれん。まぁ、今日はもう遅いしゆっくり休もう」
「そやね。あ、幸枝。葵ちゃんに着物を貸してやり。その洋装だとここらじゃ悪目立ちするわ」