「葵ちゃん大丈夫…??」

突然、黙り込んでしまった私を心配した幸枝に声をかけられ、思わずハッとする。

「う、うん。ゴメンね…大丈夫。その…昭和になったっていう記憶がないっていうか…」

心配をかけないようにと微笑んでみたが、きっとぎこちない笑みだったのだろう。

今度は幸枝がハッとしたように目を見開いた。

「うち聞いたことある。もしかして、葵ちゃん、記憶喪失ってやつやないの…?」

記憶喪失…。

タイムスリップよりは、現実的な提案だと心の内で思った私はつい、コクリと頷いてみせる。

記憶がないってことにすれば、この時代のことに詳しくなくても変ではないだろうし…。

「そ、そうみたい…。名前はわかるけど今の時代とかどこから来たのとか私…思い出せない」

「やっぱり…!神隠しにおうて記憶がなくなったんやろか…?まずはお医者様に診てもろうたほうがええかもしれんよ。うち父さん達に聞いてみる!」

パタパタと駆け足で外に出ていく彼女を見送り私は小さくため息をついた。

せっかく親切にしてもらってるのに嘘をつくのが忍びなかったのだ。