父は申し訳なさそうに、うつむきがちになりなから、組んだ手をモソモソと落ち着きなく動かしていた。

 我が国は、資源豊かなもののあまり大きくはない。

 だいたい田舎ずぎて、今まで皇帝の目にも止まらなかったというのに。

 それが今になって急に……。しかも良く聞けば、皇帝の目的は他でもない私だったらしい。

 そりゃあね、ぱっちりお目目に薔薇色の唇。お金をかけまくってる、スベスベのお肌。

 そして宝石のようにやや青く輝く瞳に、艶やかな漆黒の髪。

 惹かれるのも惚れてしまうのも、自分でも分かる。分かるけどさぁ。

 すでに国中から美女たちをこれでもかってかき集めてるのよ?

 さらには私と同じくらいの歳の王子や王女も何人かいたはず。

 しかもわざと身分の低い妃にするということは、きっとただの嫌がらせでしょう。


「皇子でさえ、私と同じかそれ以下の歳ではないですか!」

「それはワシも分かっておる。だが、断れるような立場ではないだろう」

「何かやりようはなかったのですか?」


 目の中に入れても痛くない娘のために、頑張ってよ、もぅ。

 私だって父が決めた人のところに嫁に行くのが嫌なわけではない。

 それが翁主の役目と言われたら、諦めるけど。それとこれとは、次元が違いすぎるわ。


「要求に応じなければ、このままココに攻め込むと……。この国は皇帝の治める国の中の小さな国でしかない。断れるだけなどないだろう」

「兵を、ですか」


 差し出さないのなら、力ずくでってことね。しかも首都から、ココまでは馬で数時間ほど。

 急襲されれば……、されなくてもまぁ、ダメでしょうね。

 兵力もないし。

 たかが嫁を得るためだけに、ここまで実力行使してくるなんて。

 狂ってる。

 頭がおかしいとしか、思えないわ。私、そんなところに嫁がされるのね……。

 急激に重くなる現実に、私は目眩を覚えた。

 そしてあれほど戻りたくないと思った向こうの世界が急に恋しくなる。


「逃げてしまいたい」

「翁主様!」


 私がもらした言葉に、その場に集まったたちは蒼白な顔をしながら声を上げた。

 私が逃げてしまえば、その先の結果は目に見えてるものね。

 その気持ちは分かる。

 フツーの翁主様だったら『分かりました。民のためになら』と言う場面なんだろうなぁ。


「だいたい、たった17歳の翁主に命運を任せて恥ずかしくないのですか?」

「それは……だなぁ」

「それはではありません。いくら皇帝の力が強大だからといって、地方がなんでもかんでもその要求を飲んでしまっては、どんどん力の格差が出来てしまうではないですか!」


 誰も彼の顔色を伺うだけで、何の対策も取ってこなかったことが今回の原因なんじゃないかな。

 あのハーレムに何人収容してんのよ。たぶん少なくとも千人は下らないでしょう?

 こんな数になる前にどうして誰も止めようと思わないのよ。

 暴君は排除するって、鉄則でしょうに。

 どうせ変えられない運命ならと、私はすべての思いを吐き出すことにした。