起爆装置を片手に、僕は3車線の道路のど真ん中を歩いていた。炎天下、大粒の汗が頬を伝う中、意識が朦朧していたが、あの時の僕は革命を起こすことで頭が一杯だった。それだけは間違いなく覚えている。
 僕が暮らす街は大都会とだけあって、ただでさえ昼間は騒音でまみれているのに、その日はいつも以上に騒がしかった。全方位からクラクションが耳を裂いたり、さまざまな怒号が僕に降り注いだ。そして、なんだか遠くから徐々にサイレンが近づいている。更には、高くそびえ立つガラス張りのビルの強い反射光、室外機から溢れ出る熱風と轟音、付近の駅から湧いて出る雑踏などが僕のステージを盛り上げた。
 要するに、舞台は整ったのである。ついには、たくさんのパトカーが僕を包囲しつつ、ドアの隙間から警官が拳銃突き出している。けど、まあいいや。これだけ人が集まれば、最高の「祭り」になるに違いない。そう思い、僕は一思いに起爆装置のボタンを押下した。

「さあ、祭りの始まりだよ」

 刹那、至る所で消火栓が破裂し、いくつもの水柱が生じた。爽快な破裂音の後に群衆の怒号がどよめきに変化した。そして、頭上から大量の水しぶきが、煌めく夏の陽射しを含みつつスコールのように降り注ぎ、大都会に立ち込める熱を消火した。つまり、先刻まで怒号、クラクション、サイレンなどの熱気で満ちていた都会が、涼しげな表情に一変したのである。複数の警察官が僕に畳み掛けて身柄を拘束する中、僕はこの上ない満足感を感じていたのだった。そして、後に手錠をかけられた僕は犯行理由として、こう述べた。

「暑くて仕方がなかったので。皆が涼める祭りを催したかったんです」

 夏の暑さと、爽快感を引き換えに、僕は少年院送りになった。そんな、夏の思い出。


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