今日のエスコートプランも、『キラキラ』のAIガイドがいくつか示してくれたものだ。
こういう流れに慣れていない人間にはとてもありがたい。
このイタリアンの店も勧められたレストランのひとつで、堅苦しすぎず、かといって砕けすぎもせず、ちょうどいい雰囲気だ。適度に賑やかで、誰もこちらを気にしないし、一対一を意識しすぎて緊張が張り詰めることもない。

「こう見えて私、仕事大好き人間なんですよ」
「そうなんですね」
「だいたい月に一度イベントがあって、それに向けて何をどう準備しようとか考えるのが好きなんです」
「なるほど。その気持ちはわかりますが、僕はどうしても仕事と聞くと気が重いですね」
「ふふっ、普通はそうですよね。私の場合は、メイクやファッションも仕事のうちなので、そういう点も大きいかも」
「それはあるかもですね。自分もやっぱりプロとして、体調管理はしっかりしようとは心がけてます」

ユウリさんはなかなかお喋りで、表情もコロコロ変わるし、一緒にいて飽きない。すっかり主導権を握られている感じではあるが、こちらが話すときは自然に聞いてくれるし、少なくとも自分にとってはストレスがない。これはなかなか珍しいことだ。それだけ、ユウリさんのコミュ力が高いということなのだろうけれど。
やっぱり世の中は広い。こんな人もいるんだな。

「あの……変なこと聞いてもいいですか?」

ひとしきり会話が盛り上がった後、少し違ったトーンで、ユウリさんが切り出してきた。

「ヤマトさんは、『キラキラ』は初めてだって言ってましたよね」
「ええ」
「その前に、『これは運命の人だ』って思う経験は、ありましたか?」

なかなか核心を突く質問が飛んできた。
ユウリさんに乗せられて、ずいぶんすらすらと話せていたが、ぐっと言葉に詰まる。

「あ、言いたくないのであれば、無理には」
「いえ……」

はぐらかすこともできなくはない。でも、ここは正直に、真実を言ったほうがいいだろう。

「あることはあります。でも……叶いませんでした」
「……そう、なんですね」

過去に好きになった人がいないわけではない。
勇気を出して、思いを伝えたことだってある。
でも、自分の難儀な性分のせいもあって、いつもダメにしてしまってきた。
そのたびに、もう自分には色恋沙汰は向いていないと思い込もうとしてきた。
でも、やっぱり、諦めきれない。
この世のどこかには、自分を受け止めてくれる人がいるのかもしれない。
だからこのアプリにすがって、相性の人が見つかればと思ったんだ。

それでも、やっぱり、不安になる。なってしまう。

「……私は、何度か『キラキラ』でマッチングして」

ユウリさんが呟くように口を開いた。

「でも、こんなに相性が良さそうと思えたのは、ヤマトさんが初めてだったんです」
「え?」
「プロフィールを確認させてもらって、少しメッセージを交換して。それだけでもう、理想の相手なんだなって思えてきて」

そんなふうに思ってくれていたのか。

「だから、どうしても逢いたいって、早々と都合をつけてもらって……あの、ご迷惑じゃなかったですか?」
「いえ、そんなことないです。こちらこそ、そう言ってもらえると嬉しいです」

嘘偽りのない本音だ。

「あの、私、もうお気づきかもしれませんが、……少々、重い女で……今まで、何度かそれで敬遠されちゃったりして……今日だって、グイグイ行きすぎですよね。その……引きませんでした?」
「あ、それははい、全然……むしろ、自分なんかにはありがたくて」
「本当ですか?」

ユウリさんは、少し強張っていた表情を、ぱあっと輝かせた。

「じゃあ……私たち、やっぱり、本当に『運命の人』なんですね!」

心からの言葉だった。少なくとも、そう見えた。
確かに重い、グイグイ来すぎだと感じる人もいるのだろう、とは思う。でも、自分にとっては全く負担じゃない。
これが、相性というものなのか?
やはり僕とユウリさんは、『運命の人』と言っていいんじゃないか?

だけど。
――こんなにうまくいくものなのか?
『キラキラ』の力は、それほどまでに凄いのか?
何か、見落としていることはないか?
この期に及んでも、どうしても僕は、マイナスの要因を考えてしまう。

「あの……」

ユウリさんは、ごくりと唾を飲み込んでから、切り出してきた。

「二人きりになれる場所に……行きませんか?」

あれこれ考えて立ち止まってばかりの僕の疑心暗鬼を吹き飛ばす一撃だった。
そういう意味で、やっぱり、相性はぴったりだと言えるのかもしれない。

……もしかしたら、正常な判断ができなくなっているのかもしれない。
でも、それでも、いい。
今夜このチャンスを、逃したくない。