第五話 寝たらたった一つの正義に気付きました。

《page1》

山となった兵士たちを見て息を呑む街の人々と、楽しそうに挑発するネズ。
ネズ「誰か、来いよ! お前らの平和を守ってくれてる正義の味方がやられたんだ! 自分の身を投げ出して、助けてやれる奴はいないのかよ! おい!」

街の人間が一人声を荒げる。
スイーラの人間「お、お前みたいな暴力でいう事きかせようなんて奴とわざわざ喧嘩するか! 法によって裁かれろ!」
スイーラの人間「そ、そうだそうだ!」

《page2》

その一言を皮切りに、再び始まる罵詈雑言の雨あられ。
そして、その興奮した群衆が更に沸き立ち始める。
一人の女魔導士がやってきた。

ネズ(見覚えがある、アイツは……。)

青い魔術師の服を着た茶色い柔らかそうな髪の毛を下ろしたままの女魔導士、レトワ。
レトワ「お久しぶりですね……大罪人ネズ」

ネズがにやりと笑う。
ネズ「ああ、久しぶりだな。レトワ」

《page3》
○レトワとの共闘の思い出。

首無し騎士と戦う黒蝙蝠とレトワ。
ネズ(レトワ。以前、首なし騎士との戦いで、俺達と一緒に肩を並べて戦ったことのある女だった。)

ネズの横で笑っているレトワ。
ネズ(俺よりも年上で、魔法が得意で、美人。)

ネズの傷を真剣な表情で治療するレトワ。
ネズ(回復魔法は、ウチの回復役も舌を巻くほどの腕前だった。)

《page4》

思い出の中のレトワがネズに向かって微笑む
レトワ『ふふ……私の力ではありません。神が私の日々の行いを正しいと認め、力をお貸しくださっているのです』
ネズ(清らかな心の持ち主だった。)
ネズ(清らかすぎる故に不安な程に。)

思い出の中のレトワがネズの手を取り頬を赤らめている。
レトワ『ネズ……貴方のように志美しい方に会えたのも神のお導きでしょう……どうか、私と……』
ネズ(清らかすぎる女だった。勿体ないほどに。)

《page5》

レトワの手をゆっくりと下ろさせるネズ。
ネズ(だから、断った。俺はそんなにキレイな人間じゃあない。)
ネズ(そして、もっと色んな人を見て欲しいと伝えた。)

思い出の中のレトワが目じりの涙を拭いながら笑う。
レトワ『では、もし、色んな人と出会い、やはり貴方しかいないと思った時は、もう一度想いを告げます、必ず』

レトワと背中合わせで別れ歩き始めるイメージ。
ネズ(そう言って別れた。)

《page6》
回想終了。思い出の中のレトワの輝くような瞳に重ねるように、冷たいまなざしのレトワがこちらを見ている。
ネズ(あの時の情熱的な瞳は見る影もなく、冷たい眼差しで俺を見ている。)

レトワが首をゆっくり振りながらネズに話しかける。
レトワ「ネズ、貴方には失望しました。大罪人と呼ばれるほどに堕ちてしまうだなんて」

《page7》

ネズは首をかしげる。
ネズ「なんのことだ?」
ネズ(王都の事か? いや、まだ王都での事は伝わるには早すぎる)

レトワは首をかしげるネズを馬鹿にしたように笑う。
レトワ「なんのこと? とぼけるのですね! 先の首なし騎士討伐! 私は貴方と共に戦えたことを誇りに思っていました! なのに……貴方はその報酬として、スィーラの若い女性達を望んだそうですね」

口をぽかんと開けるネズ。
「は?」

レトワは興奮した様子でまくしたてるように話し続ける。
レトワ「そして、ギゼイン様にそれを断られると、腹いせに攫って連れて行ってしまった! 許されざる罪です……! 正義とは見返りを求めないものです! それを……貴方は……!」

ネズが手を挙げている様子が分かる口元のアップ。
ネズ「あー、盛り上がってる所悪いが」


《page8》

手を挙げて困惑しているネズ。
ネズ「俺、全く記憶にないんだが」

レトワはその言葉を聞いて激昂する。
レトワ「言い訳でも並べるつもり?!」

ネズが困った表情で顔を引くつかせる。
ネズ(いや、言い訳っていうか、いう事がない。だって、本当に知らない。)

黒蝙蝠たちが重たい脚を引きずって次の場所に向かわされているイメージ。
ネズ(そもそも首なし騎士やった後、すぐに次に行かされたし、女どころか一つも報酬貰えてない。)

《page9》

迫るレトワを見るネズ。
ネズ「まあ、言いたいことは山ほどあるが、一つだけ。正義は見返りを求めないってマジで言ってんのか?」
レトワ「そうです!」

ネズは大きく溜息を吐き顔を落とす。
そして、顔を上げるとレトワを見て、
ネズ「じゃあ、その正義はどうやって食っていくんだ? なに? 霞?」

《page10》

言葉に詰まるレトワ。
レトワ「そ、それは……」

レトワに逆に迫るネズ。
ネズ「じゃあ、その見返りを与えないヤツは、助けてくれた相手にひどくない? それって正義じゃないんじゃない?」

レトワが必死に反論しようとするが、言葉は出ず表情が厳しくなるだけ。
レトワ「それは……!」

ネズの瞳が真っ直ぐレトワを貫く。
ネズ「首なし騎士にとって俺達は悪じゃないの? あっちの理由は知らないけど、確実に俺達は殺したよね?」
レトワ「それは……」


《page11》

ネズは俯いたレトワに対し諦めたように離れる。
ネズ「大体、俺は正義なんて名乗るつもりはねえよ。けどな……」

ネズは、振り返りざまレトワの横を、魔力を込めて思いっきりぶんなぐる。
ネズ(バクの言った通りだ。)

腕の筋肉が連動している様子。
ネズ(寝たら、身体が動く。)

魔力が漲っている。
ネズ(自由自在に動かせる。)

拳をじっと見つめるネズ。
ネズ「寝るって大事だな、うん」


《page12》

レトワが拳圧でよろめき、そのままさきほどの奴隷達の近くで転ぶ。
レトワ「あぐっ……!」

ネズは奴隷の子達を見つめて口を開く。
ネズ「おい、そこの奴隷、お前、なんで捕まった?」

奴隷は横にいるレトワにびくつきながら口を開く。
子ども「わ、わかりません……」

レトワは目を見開く。
レトワ「え……?」


《page13》
奴隷の子どもが涙目で必死に話す。
奴隷の子「あの……いきなり、兵士、の人に連れていかれて、お前らは罪人だって言われて、枷を付けられて……何故、僕が悪いのか分からないのです……あの、ギゼイン様の知り合いの人ですよね……教えてください、僕の何が悪かったんですか?」

小さな少年のまっすぐな瞳に射抜かれたようにレトワは動けなくなる。
レトワ「そ、その……」

レトワの初めてちゃんと奴隷を見たようなその表情を見たネズは溜息を吐く。


《page14》

ネズは奴隷の子の肩を力強く励ますように掴んでレトワを見る。
ネズ「教えてやれよ、何が悪いのか、何が正しいのか……教えてやってくれよ。まだ何も知らないガキによ」

レトワは困惑の表情を浮かべ、徐々に目に涙が。そして、黒く染まった瞳に輝きが戻ってきて揺れる。
レトワ「正義、とは……! せいぎとは……わかりません……! ただ、この街ではギゼイン様が正義なのです! 彼の言う事が正しいのです!」

絞り出すように叫ぶレトワ。もう自分を支えることも出来ずふらふらと地面に座り込む。


《page15》

その様子を見たネズはレトワを見下ろしながら切なそうな目でレトワに話しかける。
「もし、その奴隷が少しでも可哀そうだと思うなら、お前の回復魔法で治してやったらどうだ」

レトワはネズをきっと睨みつけ、そして、少年の痣だらけの身体に回復魔法をかけていく。

だが、うまくいっていないようで顔が歪む。
レトワ「どう、して……! どうして……!」

ネズが悲しそうに口を開く。
ネズ「最近は回復魔法を使う機会もなかったのか? みんなキレイなままだったのか? 多分、その裏ではお前らの何倍もの奴隷が使い捨てにされている」

レトワが涙目でネズを見る。助けを求めるように。
レトワ「なんで、貴方が、そんなことを……!」

《page16》

ネズの真剣な、レトワがネズに迫った時と同じように思いに溢れた瞳で。
ネズ「見れば分かる」

スイーラの不自然な街の様子。
ネズ(不自然すぎるほどにキレイな街並。汚れを見ようとしない人々。)

ネズ(ただただ、正しいことをしてるだけでこんなにうまくいくものか。)

ネズ(どれだけの街や国が痛みや汚れを抱えながら生きてると思ってるんだ。)

レトワをどかし、ネズは奴隷の少年に回復魔法をかけてやる。

レトワが、あ、と気付く表情。


《page17》

回想でレトワに教わる様子。
何度も何度も練習し、傷を治せた時に喜ぶネズと涙を流して感動するレトワ。

それを思い出し、唇を噛みしめ嗚咽を堪えるレトワ。


《page18》

ネズが頭を撫でながら子どもに謝っている。
ネズ「悪いな。俺の回復魔法じゃ、痛みがとれても、傷は治してやれねえ」

奴隷の子は顔を明るくさせて笑っている。
奴隷の子「ううん! ありがとう! やさしいお兄さん! 痛くなくなったよ……でも、」

奴隷の子は、レトワを見ている。
それに気付いたレトワは顔を背ける。
だが、奴隷の子は気にせずにレトワに近寄っていく。
きゅっと目を閉じるレトワ。
すると、子どもは……。


《page19》

子どもがレトワを指さし
奴隷の子「このおねーさんも痛そうだよ」

レトワが驚く。
レトワ「え……?」

奴隷の子がレトワを見て心配そうにしている。
奴隷の子「痛いのはいやだよ。だから、おじちゃん、直してあげて」

ネズが頭を掻きながらレトワ達に近づいてくる。
ネズ「なんで年上のレトワがおねーさんで、俺がおじさんなんだよ」

レトワの涙に手を伸ばすネズが写る。

《page20・21》

レトワの頭を撫でるネズ。
ネズ「おら、元気出せ」

レトワの瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。

《page22》

奴隷の子がネズを指さし責め立てている。
奴隷の子「あー、おじちゃん、やっぱり下手くそじゃん! おねーさん、泣いてるよー」

レトワが涙を拭きながら必死に喋ろうとする。
レトワ「ち、違うの! ちがうの……この人は悪くないの、この、ひとは……わるくないのに……わたしは……」

俯くレトワに気まずそうなネズはぽんと手を置き、立ち上がる。
レトワが顔を上げると、


《page23》

ネズの背中。
ネズ「あー、なんだ。あんま考えすぎるな。今は」

心配そうに

ネズが見つめてくる奴隷の子達の頭も撫でる。
ネズ「だーいじょうぶだ。おにーさんがお前らをすくい出してやるからよ」

ネズは立ち上がり、ギゼインの屋敷を見る。
ギゼインの屋敷の方からギゼインの配下たちが飛び出してきている。

どの配下たちも正気を失った目をしている。
ネズ「さあてと、いっちょやってやるかあ」


《page24》

ネズが大軍を見ながら二人を呼ぶ。
ネズ「睡魔。バク」

ネズの両サイドに現れる睡魔とバク。
睡魔「何よ、ネズ」
バク「お力になれることありますか~?」

ネズが二人を見ながら口を開く。
ネズ「睡魔、さっき回復魔法で魔力使い過ぎたから寝るから一瞬で頼む。バク、予知夢って見られるのか?」

睡魔が鼻を鳴らしている。
睡魔「ふふん! まかせなさい! そんで、アイツら思いっきりやっちゃいなさい!」

バクが少し困ったように
バク「えーと、正確には予知夢ではないんですが……予測できる未来をいくつか見せることは出来るかもですが」

ネズにやりとわらって。
ネズ「じゃあ、やってくれ」

《page25》

ふらりと倒れるネズを見て、ギゼインの配下たちはここぞとばかりに襲い掛かる。
奴隷の子達に見せないように覆いかぶさるレトワ。

レトワが顔を歪ませながらネズの方を見ると、ギゼインの配下たちの動きが止まっている。

そして、ネズを取り囲むひとだかりがぐらぐらと揺れる。

一瞬、ふわりと浮かんだかと思うと、


《page26・27》

ギゼインの配下が天高く飛んでいく。
ネズ「あー! よく寝た!」


《page28》

降り注ぐ人の雨の中、それに構わず襲い掛かってくる配下たちを鮮やかに躱しながら殴り飛ばしていくネズ。
殴り飛ばされた配下が他の配下にぶつけられてドミノ倒しになっていく。


《page29》

奴隷の子どもが襲われかけたところをレトワが庇い、そっちを見ずにネズが予測していたかのように石を拾ってなげつけていたお陰でレトワ達に触れることなく、ギゼインの配下たちが石に撃たれて倒れていく。

《page30》

一人立っているネズと、レトワに抱きしめられて固まっている子どもたち以外はすべて倒れている。

奴隷の子どもがネズを見て驚いている。
奴隷の子「す、すげー……お」

ネズの笑顔。

輝く笑顔で叫ぶ奴隷の子達。
奴隷の子たち「おにーさん!」
ネズ「良く出来ました。」


《page31》

ギゼインの屋敷に向かって歩き出すネズを見て、レトワが話しかける。
「待って、ネズ……じゃあ、貴方の正義は一体何なの? 貴方は何を正しいと思って戦っているの?」

ネズは振り返って困ったように頬をかく。
「いや、だから、俺は自分が正義なんて事は思っちゃいねえよ。ただ、そうだな……俺が言える正しいと思う事は一つだけ」

ネズは自分の身体から湧き上がってくる力を感じながら笑う。


《page32》

ネズが力強い目で前へと進んでいく。
ネズ「寝るのは大事。これは間違いなく、正しい。正義だ」