第四話 寝たら始まりました
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○ネズの旅立ち

寝転ぶマシロを見て笑うネズ。
ネズ「さあてと、俺は行くか。じゃあな、オウジサマ……ん? オウジサマ……?」

ネズが振り向くと一目散に逃げだしているその背中が見える。
その足音に気付いたのかマシロも顔を動かし部屋に王子が居ない事に気付く。
マシロ「お、王子……!」

ネズがマシロに背を向けながら呆れたように溜息を吐く。
ネズ「あ~あ、なっさけねえなあ。マシロ、あれがお前の仕えるオウジサマの姿だ」

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身体を必死に起こし、マシロがネズに嬉しそうに話しかける。
マシロ「ネ、ネズ……! 今、私をマシロ、と……」
ネズ「あ、やべ。」

ネズ、そーっと後ろを振り返る。
ネズ(コイツ、なんでか、名前で呼ぶとすげー喜ぶんだよな)

振り返った先で見えない尻尾をぶんぶんさせながら目を輝かせているマシロが。
マシロ「も、もう一度。もう一度呼んでくれないか」

ネズは頭を掻き、ため息を吐きながら荷物を纏め始める。
ネズ「やなこった。俺はもう仲間以外の言う事は信じない」

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マシロはなんとか立ち上がろうと膝に力を込める。
マシロ「な、なら、どうしたら、私はお前の仲間になれる?」

ネズ、めんどくさそうに考えている。
ネズ(俺はもうこの国に戻るつもりはない。こいつと会うのもコレが最後だろう。)

ネズ、ちらりとマシロを見ながら
ネズ(だが、コイツは悪い奴じゃない。コイツなら……。)

じーっと見つめてくるマシロに大きな溜息を吐くネズ。

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ネズがびしっとマシロに指をさす。
ネズ「まず、よーく寝ろ」

ネズは、そう言って笑って言葉を続ける。
ネズ「そんですっきりした頭で考えろ。今、何をすべきか。じゃあな」

マシロの何か言いたげな表情を見ないままにドアを閉め、ネズは旅に出る。
マシロはごろんと寝転がると空を見ながら呟く。
マシロ「ふ、ふふ……ネズ、やはりお前はかっこよいな、ネズ……」

あやしい笑い声が空に消えていった。


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○王国の外、草原を歩くネズ。

ネズは地図を眺めながらとぼとぼと歩いている。
ネズ「ふ~む、全員どこかの七光の所に捕まってるってんなら、まずは、どこから行くかな」

地図には文字が書き込まれていて、グリの情報がある。
ネズ「グリの奴、こういう情報をちゃんとかきこんでるあたり、妙~にしっかりしたところがあんだよなあ。え~となになに……」

イメージのグリが浮かんでくる。
グリイメージ「隊長へ どこの七光のところに誰がいるか書いておく。まあ、適当に助けに行ってくれ」

《page6・7》
○地図と七光と黒蝙蝠
グリ(まずは、東南にある水の都スィーラ。魔術師ギゼインが治める美しい水の都市だ。ここには、ライカとプリンが捕まっている)
女騎士ライカとお嬢様プリンの姿と水の都の絵が浮かぶ。

グリ(東には要塞都市ブタカ。魔術師兼研究者メジマソクの治める都市で帝国との争いが絶えないために魔導機兵の開発が盛んだ。ここにはスロウがいる)
のんびり本を持って笑っているスロウと機械都市が浮かぶ。

グリ(そこから北に行けば商業都市ネーマ、銭ゲバ魔導具使いシューセンドの所だな。エンが連れていかれた)
ブツブツと何かを呟きながらにやりと笑うエンと金と商品が飛び交う商業都市が浮かぶ。

グリ(北西にあるのは、娯楽街アルト。比較的若いナルシィがおさめ始めた街。ラスティの姐さんが連れていかれたらしい)
寂し気な表情を浮かべるラスティと踊り子や音楽家が騒がしい娯楽の街が浮かぶ。

グリ(西にあるのが闘技場で有名な強者の街スエム、ドエムスの野郎が仕切っている街で、ここにグラがいる。俺が向かう)
泣いているグラと筋骨隆々とした闘士たちが戦う闘技場が浮かぶ。

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○草原

地図を下ろしたネズはこともなげに言う。
ネズ「ま、近いところから行くかあ。ここから近いのは、ライカやプリンたちがいるスィーラだな」

ふと地図を持っている自分の手に視線を落とすネズ。

確かめるように手をぐっぱぐっぱさせる。
ネズ「さっき、マシロと戦った時の羊を数えたら魔力が高まるって教えてくれた声、あれは幻聴じゃあ、ねえよなあ」
???「当たり前でしょ!」

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ネズの背負っていた鞄。そこから飛び出したのは、蝙蝠のような姿の精霊だった。
ネズは驚きながらもその精霊に話しかける。
ネズ「精霊、なのか……?」

蝙蝠は胸を?張って鼻を鳴らす。
蝙蝠「そう! アタシの名は睡魔! 睡魔のすいちゃんとでも呼んで! よろしくね、ネズ!」

と、そこに手が伸びて睡魔の頭を掴む。
睡魔「んぎゃー!」

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睡魔を掴んで目の前に連れてきたネズが笑っている。
ネズ「よろしくね、じゃねーんだよ。お前誰だよ? ちゃんと説明しろ。俺はまだ寝たりねえから多少いらいらしやすいぞ?」

ネズの圧を感じて怯える睡魔。
睡魔「ぴえええい! 分かった! 分かったわよ! ちゃんと説明するから脅さないで、夢に出て来ちゃう!」

ネズに離してもらった睡魔ははあはあと息を切らせながらふらふら飛んでいる。
睡魔「まったくもう、魔神様ったら、とんでもないヤツの所にアタシを行かせるんだから……!」

ネズの後姿。耳がピクリと反応する。
ネズ「魔神?」

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再び頭をがしっと掴まれる睡魔。
ネズ「お前、あの魔人と知り合いか……どういうことだ……?」
睡魔「ぴやあああああ! せ、説明する! 説明するから! 頭掴まないで! 怖い! 夢に出てくる!」

頭を離してもらった睡魔は大きく深呼吸しネズの方を振り向く。
睡魔「あー、こわかったあ……えとね、じゃあ、説明するけど! アタシは魔神様の忠実な使い魔なの! それで、魔神様に仕えていたんだけど……この前の戦闘で魔神様がアンタのことをすんごく気に入っちゃったみたいで、アタシ達に手助けするよう頼んできたのよ」

ネズは納得いかない顔だが頷いている。
ネズ「ほおーん……って、アタシ達?」

睡魔がよくぞ引っかかってくれたと頷く。
睡魔「そうなのよ! アタシ『達』! なのに、あの子ったらいつまでも出てこないで、ねえ、でてきなさいよ! バク!」

鞄が再びもごもご揺れる。
バク「は、はいぃいいい~」


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鞄から飛び出してきたのはカピバラの着ぐるみを着たような小さな精霊の女の子。
睡魔にけしかけられている。
睡魔「ほら、話進まないからとっとと自己紹介しなさいよ」

バクはもじもじしながら自己紹介を始める。
バク「あ、あのー、夢喰いのバクです~。よろしくおねがいします~」

ネズは二人を見比べて、バクに話しかける。
ネズ「ふ~ん。で、手助けって何が出来るの?」
睡魔「あーちょっと! 今、アンタアタシの事バクに比べてめんどくさそうと思ったでしょ! なくわよ!」

睡魔のことをうっとおしそうにしていると、気を使ってかバクが慌てて話始める。
バク「あ! あの! ワタシ達は、魔神様に頼まれて、あなたの望んだ素晴らしい眠りをお手伝いさせていただきます!」

ぴくりと動くネズの耳

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気付けばネズが二人の目と鼻の先まで近づいていた。
ネズ「具体的には?」

怯える二人。
睡魔・バク「「ぴ、ぴやああああああ!」」

ネズが迫ってくる中で必死に説明するバク。
バク「あ、あの! ワタシの場合は、夢を操れるので寝ている時に良い夢が見られたり、あとは夢の中を操って色んなことが出来ます! そ、その、修行とか!」

ネズが冷静に手を振る。
ネズ「いや、修行とかはいい。だが、良い夢見られるのは最高。ようこそ、ネズの元に」

バクを歓迎するネズに対して頬を膨らませる睡魔。
睡魔「むぅうううううう」

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睡魔が間に割って入って自己アピールを始める。
睡魔「アタシだってすごいのよ!」
ネズ「へー」
睡魔「もっと食いつけー! アタシは、すごく短い時間でも何倍も寝たようにしてあげられるんだから!」

ネズが地面に頭をこすり付けていた。
バク・睡魔「ぴやあああああああああ!」
ネズ「ありがとうございます! ありがとうございます!」

ネズの喜びっぷりにちょっとかわいそうになってきた睡魔。
睡魔「う、うん! あのね、いっぱい寝られるようにしてあげるから、ちゃんと魔神様に頼まれたお役目を果たさせてね」
ネズ「はい! あ、ところで……」


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ネズが魔神の事を思い浮かべながら
ネズ「あの、魔神ってのは一体何者なんだ……俺の全ぶっこみ攻撃喰らっても笑っていやがったからな」

睡魔は返答にこまったような顔で口を開く。
睡魔「アタシ達も詳しくは知らないのよね。だけど、あのお方はとんでもない力を持っている。人々の願いをかなえる程の、ね?」

バクも同意するように頷く。

ネズも自分納得させるように呟く。
ネズ「まあ、こういう有難い事もしてくれてるんだし余計な詮索は無用か。ほんじゃあ、二人よろしくな」
バク・睡魔「「はい!(ええ!)」」

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睡魔がネズに近寄り話しかける。
睡魔「ところで、アンタが知りたがっていた羊を数えると魔力が上がる技なんだけど」
ネズ「おお、そういえば、アレなんなんだ?」
睡魔「まあ、詳しい事は置いといて。単純に羊を数えたら数えるほど魔力が上がる技くらいに考えてくれていればいいわ」

ネズは拳を見ながら頷く。
ネズ「ふ~ん、わかった」
睡魔「わかったの!?」

ネズ、怪訝な顔で睡魔を見る。
ネズ「なんだよ、聞いてほしいのか?」
睡魔「いや、そういうわけじゃないけど、そんなあっさり言われると拍子抜けって言うか……」


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ネズは笑いながら睡魔に話しかける。
ネズ「まあ、気になるけどよ。これから旅路を共にする仲間とはうまくやっていきたいからな。仲よくしたいんだよ」
睡魔「……!」

睡魔、顔を赤くしながら咳払い。
睡魔「こほん、殊勝な心掛けね。そんなアンタに命じて、一つだけ、この【羊数え】は大昔のノアの一族が使っていた技なのよ。だから、すごいのよ!」

自信満々に鼻を高くさせる睡魔の後ろで物思いにふけるネズ。
ネズ(ノアの一族……? どっかで聞いたことあるような……)

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ネズ、諦めた表情。
ネズ(ま、いっか)
睡魔「ねえねえ、ネズ! それでどこに行くかは決めたの?」

睡魔が話しかけてくるとネズは笑って応える。
ネズ「あー、やっぱり近くから。目指すは南東にある水の都、スィーラだ!」

バクが遠慮がちに話しかけてくる。
バク「あのー、スィーラに向かっているのは分かったんですが、もしかして、歩いていくつもりですか?」

ネズが大きく頷く。
ネズ「おう! まあ、大分身体も本調子になってきたしな」

バクが気まずそうに話し出す。
バク「あのー、大変申し上げにくいんですが」

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バクがネズの前ではっきり断言する。
バク「ネズ様の能力は睡眠不足により、まだ十分の一程度しか発揮できていません」
ネズ「嘘だろ」

逆側から睡魔がやってくる。
睡魔「それが本当なのよねー。魔神様との戦いのあと、アタシたちが精一杯眠りの秘術を使ったのに全然回復しなかったんだから。今。漸くプラスに向き始めてるって感じなのよね」
ネズ「嘘だろ」

ネズ、手を震わせながら見ている。
ネズ「じゃ、じゃあ、もっと寝たほうはいいってことか?!」

話始めた睡魔とバクが抱えられる。
睡魔「まあ、寝れば寝る程強くなれるわよ。アンタの場合って、きゃあ! 何すんのよ!」

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ネズが二人を抱えて駆け出している。
ネズ「善は急げだ! あの馬車にのせてもらって寝るぞ!」

ネズが見ているのははるか遠くを行っている馬車。
呆れた表情で見る睡魔。
睡魔「あのねえ、いくらあんたがすごくてもあんなに遠いんじゃ、あああああああ!?」

《page21》

ネズが風のような速さで駆け抜け始める。
ネズ「すげええええ! 俺、こんなに早く走ることが出来たのかよ! あはははは! しかも、まだ伸びるってか! あは、ははははは!」

ネズに抱えられ目を回す二人。
睡魔「早い怖いすごい! っていうか、これより早く強くなるってほんとぉおお!?」
バク「ぴきゆうううううう」

《page22・23》

ネズが笑っている。
ネズ「いよっしゃあああああ! いっぱい寝るぞ! いっぱい寝て、元気になって、仲間助けて、王国を出て……ゆっくり寝るぞオオオオオ!」


《page24》

真っ暗
御者「にいちゃん、にいちゃん! 着いたぞ!」

御者の声にぱっと目を覚ますネズ。
そして、馬車を下り始める。

ネズの顔はまだクマがあるもののどんどん艶を取り戻し始めていた。
ネズ「いやああ! 睡眠最高! 寝起きもいいし! 最高!!!!」

御者が感心したように笑う。
御者「いやあ、あんなに熟睡できる奴は初めて見たよ。あんた、大物になるよ、気を付けてな」

御者と握手を交わし、去っていく馬車を見つめる。
そして、姿が見えなくなると、振り返る。
そこには、大量の噴水や魔道具によって水が飾られた街スイーラがあった。


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きょろきょろと街を見渡すネズ。
ネズ「グリが送ってきた情報によると、イリアとライカが捕まっているらしいが……」

クソ真面目な女騎士ライカと、我がままお嬢様プリンのイメージが浮かび上がる。
ネズ「あの二人が大人しく捕まってるとは思えねえが……何か理由があるんだろうな」

ネズが手や身体を確かめるように動かし始めると、睡魔が首をかしげる。
睡魔「どうしたの?」
ネズ「ん?いや、大分深く眠っていたみたいで、身体の違和感が凄いんだよ……とはいえ、時間もないし、動き出すしかない。まずは、情報集めだな。」
睡魔「アタシ達目立つとややこしくなりそうだから隠れてるわね」

街の人「ようこそ、清らかな水の都スィーラへ!」

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ネズが振り返るとにこやかに話しかけてくるスィーラの民が。
その奥に控えている人たちも笑顔。
ネズ(どいつもこいつもニコニコと笑っている。のが、逆に気持ち悪いな)

ネズは近寄ってくるスイーラの民に嫌悪感を露にする。
ネズ「うさんくせえなあ」
男「まあまあ、そう言わずに楽しんで行ってくださいよ。この国では、皆が笑って暮らしているんですから」

ネズの呟きを聞いたのか、近くに居た男が声をかけてくる。
ネズ「そりゃあ良かったな。ところで聞きたいんだけどさ、ここの領主ってどんな奴?」

男は表情を明るくさせて大きな笑顔を浮かべてくる。
男「領主、ギゼイン様の事ですか? それはもう素晴らしい方ですよ! 困った人を放って置けない性格でしてね。他国の難民なんかにも手を差し伸べてくださるんですよ!」
ネズ「へぇーそいつぁ良い奴なんだな」
男「はい! なにせ、慈愛のギゼイン様ですから」

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ネズのいやそうな顔。
ネズ(慈愛のギゼイン。キレイな二つ名だ。そして、その名に違わぬゴミ一つないキレイな街だ。その理由はすぐ分かった。奴隷がゴミを掃除していやがる)

ネズの視線の先にはゴミ掃除をするボロボロの布切れを被った程度の男の子。
ネズは先程の男に話しかける。
ネズ「おい、奴隷いるぞ?」
男「え? そりゃあ、居ますよ。彼らは罪を犯した犯罪奴隷ですから。ですが、その罪を償う為にギゼイン様はあのような街への奉仕をさせているんです。お優しい」

ネズは納得いかなさそうな顔で奴隷を見ている。
ネズ「そっか。じゃあ、あの奴隷は何の罪で捕まったんだ?」
男「知りませんよ。奴隷の罪なんていちいち覚えていられません。ですが、ギゼイン様が捕まえられた奴隷です。何か愚かな事をしてしまったのでしょう」

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キレイな瞳でネズを見てくる男。
真っ黒すぎて濁りなんて見えない。

ネズがその瞳を見つめる。
ネズ(こいつらには汚いものが見えないんだろうな。いや、見ようとしないんだろうな。今、幼い奴隷がもたついて兵に鞭打たれて、他の奴隷が庇おうとしているのも。)

奴隷が奴隷を庇い代わりに鞭で打たれていた。

ネズ(周りの人間が罵詈雑言を浴びせているのも、掴まった理由も。)

ネズ、男の肩をポンと叩き、
ネズ「そっか。お前、一回寝た方が良いぞ」
男「え?」
ネズ「それ以上喋ると、俺がキレそうだ」

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ネズ、男を睨みつける。
ネズ(清らかな水の都、スィーラ。その水のキレイさの為に、地の底に粘りつくような泥を隠しているみたいだ。あのギゼインらしいやり方だ。)

男は構わずに真っ黒な目でネズに関わろうとする。
男「大丈夫ですか!? イライラは良くないことですよ! そうだ! ギゼイン様がお話を聞いて下さる会が今日あるのです。ウチも貧しくて困っていた時に聞いて、妻を屋敷の使用人に雇って下さってね。貴方も行くと良いですよ、きっと力に」

ネズ、男の身体をひっぱり真っ直ぐ目を見合わせようとする。
ネズ「俺の目を見て、俺が何考えているか想像して話してくれねえか? お前の正しさだけで話を進めるな」

《page30》
ネズが男の瞳を見つめると少しだけ恐怖で揺れていた。
ネズ(コイツが悪いだけではない。この目は……。)

ネズは微笑みながら拳を振り上げ。
ネズ「やっぱ一回寝ると良い。そしたら、多分すっきりしてるはずだ。大丈夫、すっきりしてる。すっきりだ」
男「……? 何故三回言ったのです」
ネズ「大事なことだからだよ」

ネズは魔力を纏わせた拳を男の腹に当て眠らせる。

《page31》

倒れ込む男。だが、その表情は穏やか。

それを見つけた街の人間が騒ぎ出す。
そして、奴隷達を連れていた兵士がネズを見て叫ぶ。
兵「お、お前は、ネズ! 大罪人ネズがいるぞぉおおお!」
ネズ「大罪人なの、俺?」

兵士の叫びが聞こえると、街中の人間が俺に向かって呪いの言葉を吐きかけてきた。
悪口の大合唱は、まさに悪意の波となってネズを飲み込もうとする。
怒り、怯え、恐怖、色んなものが混じっている。
こいつらは、正義の味方に、ギゼインの味方であることを証明したいだけだ。
ネズは、そんな悪意の雨を無視して、奴隷達を殴っていた兵士に近づく。

そして、一言。
ネズ「うるさい、寝てろ。」

《page32》

それだけ言って、兵士全員を一瞬で眠らせた。
俺が見渡すと、街の人間は静まり返っている。

ネズ「さあ! かかって来いよ! 清らかな心の水の都なんだろ!? 俺の目を覚まさせるほどの水かどうか確かめてやらあ」