《page1》
○純潔のマシロ対不眠将軍
対峙するマシロとネズを見ながらユーダケデス王子が笑っている。
ユーダケデス王子「くっくっく! そう! 無傷の女騎士! 正に無敵! 【七光】の【純潔】! 対するお前は、傷だらけの汚いゴミ! 付いたあだ名は不眠将軍だったかなあ? 勝敗は明らかだ! やってしまえ! マシロ」
騒ぎ立てる王子を無視して向かう合い続ける二人。
地面を先に蹴ったのはマシロ。
《page2》
○確かな実力
マシロが白銀の剣をきらめかせながらネズに迫る。
マシロ「てやああああああ!」
マシロの剣が美しい剣閃を描く。
ネズはそれを見ながら
ネズ(美しい太刀筋だ)
ネズ(故に、)
ネズは冷静にその剣を瞳に映し、
ネズ「読みやすい」
マシロの流れるような連撃を、ネズ流れるように躱す。
《page3》
○読まれるマシロ
マシロ全て躱されたことに動揺しながら後ろに下がる。
マシロ「く……な、なぜ!?」
足を踏ん張らせるマシロと欠伸を噛み殺すネズ。
ネズ「教科書通りの攻撃されてもな」
マシロ、少し顔を赤くしながらも剣を構え、再び地面を蹴る。
マシロ「な! ならあ!」
《page4》
○マシロの届かない攻撃
無数の突きを放ってくるマシロ。白い刃のカーテンがネズに迫るが、当たらない。
信じられないという表情のマシロと、理解できないと表情のユーダケデス王子。
ユーダケデス王子「な、何故……何故! 当たらないぃいいい!」
呼吸が途切れ、右に飛ぶマシロ。その後方にユーダケデス王子。
マシロ「はあっ……! はあ……!」
《page5》
○傷だらけの理由
ネズが身体中の傷を見せつけながら笑う。
ネズ「俺が傷だらけだから回避能力に劣ると思ったか? 残念。この傷は俺が自分でつけた傷だ……」
ネズが淡々と、そして、過去の自分の眠気を覚まさせる度に自分を色んな方法で傷つけたことを思い出す。
ネズ「眠気をごまかす為にな」
衝撃の事実に顎が外れかける程驚くユーダケデス王子。
「なああああああん!?」
《page6》
○傷の代償
身体中の傷と、寝不足の思い出が走馬灯のようによみがえる。
ネズ(そう、俺は自分で自分を傷つけた。)
ネズ(眠かったから。)
ネズ(でも、寝たら死ぬから。)
ネズ(自分で斬って痛みで目を覚ました。)
ネズ(そういう意味でもちゃんと寝られてよかった。)
ネズ(もう痛い思いをしなくてすむ。)
ぼそりと呟くネズの口元。
「傷つく辛さを知れば知るほどやさしくなれる、と吟遊詩人は言っていたがアレは嘘だな」
《page7》
○ネズ、思い出しキレ。
ネズは傷だらけの手をコキコキ鳴らしながら嗤う。
ネズ「やりかえしたくて冷たくなれるわ」
背筋がぞおっとする二人。
マシロに向かって駆け出し拳を握るネズ。
《page8》
○マシロの盾対ネズの矛
マシロがネズの攻撃に対し構える。
マシロ「来るか……攻撃は無意味です!」
ネズが拳に魔力を漲らせる。
ネズ「無意味かどうか試してみようぜ。俺は、お前をぶっとばす。絶対にお前をぶっとばす。お前をぶっとばすんだ」
マシロもまた魔力を高める。
マシロ「だから、何故いつも三回言うのです!?」
ネズが拳を振りかざす。
ネズ「大事なことだからだっ……よ!」
床を蹴り、マシロに飛び掛かる。
《page9》
○マシロの盾対ネズの矛2
ネズの強烈な一撃を、マシロの純潔の壁が防ぐ。
《page10》
○マシロの盾
ネズ、後方に飛び着地。殴った拳をぷらぷらさせる。
ネズ「流石、腐っても【七光】ってところか」
マシロ、白い光を漂わせながら決意漲る瞳でネズを見つめている。
マシロ「腐ってなどいない。私はずっと変わらない。あの頃から、ずっと!」
回想に入っていく。
若いマシロ「ネズ! 前に出過ぎるなとあれほど言ったろう!」
《page11》
○回想。騎士見習いとして村の防衛任務に当たっているネズ達。
若いネズは、頭に包帯を巻いて、治療を受けている。
若いネズ「いや、だってよお、危なかったから」
若いマシロは、ネズの声を遮るように注意する。
若いマシロ「その結果、お前がそんな大けがを負う事になったのだぞ!」
ネズがたじたじ。
若いネズ「わ、わかったよ。わるかったよ」
ネズの反省した様子を見て、マシロはほっとした表情で笑う。
若いマシロ「くす」
《page12》
○若い二人
ネズがバツが悪そうにマシロを見る。
若いネズ「な、なんだよ……?」
マシロは口元を手で隠しながらネズの隣に遠慮がちに、だが、頬を薄く桃色に染めて意を決して座る。
若いマシロ「いやな、お前は純粋だな、と」
ネズ、思っても見なかった言葉に驚く。
若いネズ「はあ!?」
《page13》
○純粋な二人
隣で座りあう二人が顔を合わせている。ネズは怪訝な表情だが、マシロは嬉しそう。
若いマシロ「お前は素直じゃないところがあるが、こういう時は一番素直だな」
マシロはにこりと微笑み、まっすぐネズに言葉を伝える。
若いマシロ「それに、私は知っているぞ。お前が身体を張る時は誰かの為だって」
ネズ、ぷいとよそを向きながらパンを頬張り始める。
マシロはその様子を見ながらくすりと笑う。
マシロは空を見上げて呟く。
若いマシロ「私はそんな真っ直ぐ突き進むお前の背中を守りたいんだ……」
《page14》
○別の回想。城内の二人。
マシロが喜びながら駆けている。
若いマシロ「はあっ……はあ……」
その先にいるのはネズ。
若いマシロ「ネズ!」
ネズ、呼び止められて立ち止まる。
《page15》
○違う二人。
マシロ、息を切らせながらも喜びを隠せない表情で必死に言葉を紡ぐ。
若いマシロ「聞いてくれ! ネズ! 私もなれたぞ! 【七光】に!」
ネズの口元は苦笑い。
若いネズ「あー、わりいな。マシロ。俺は【七光】じゃねーんだわ」
マシロ、ネズの言葉に驚く。
若いマシロ「え……? なんで、お前の実力なら……」
ネズが振り返る。
《page16》
○黒蝙蝠のネズ
顔がはれ上がったネズが苦笑いを浮かべている。
マシロ、その顔に驚き、唇を震わせる。
若いマシロ「ネズ……なんで……」
ネズ、背中を向けて歩き出す。
若いネズ「まあ、なんでもねーよ。ちょっとな、ムカつくことがあって暴れただけだ」
マシロ、裏切られた気持ちになり表情を硬くする。
若いマシロ「は……?」
ネズは背中を向けたままあるいていきながら、黒蝙蝠の紋章を見せる。
若いネズ「俺は、黒蝙蝠になったわ」
マシロ、ネズの言葉と紋章に驚く。
若いマシロ「く、黒蝙蝠って……国の雑用係……」
《page17》
○届かない背中
ネズの背中。
若いネズ「まー、精々、七光さん方の為に、働かせてもらいますよ」
そう言って去っていくネズを見つめるマシロ。
若いマシロ「ま、待て! ネズ! こんなのおかしいだろう! なんで、お前は、そんな簡単に諦められるんだ! 私は! お前と!」
《page18》
ネズの背中に向かってマシロが叫ぶ。
マシロ「ネズーーーー!」
少しして城での任命式。
気もそぞろな表情のマシロ。
《page19》
○場所・謁見の間。聞こえない真実
マシロの背後でマシロを見つめながら噂をする貴族達。
貴族A「アレが、例の黒蝙蝠が熱を上げているという……」
貴族B「そうそう、自分のモノにしようとした~~殿がボコボコにされて……」
貴族C「でも、ソイツも罰を受けたのでしょう」
マシロにはその声は届かず、ぼうっと外の空を窓ガラス越しに眺めている。
ユーダケデス王子「マシロよ!」
マシロ「は、はい!」
ユーダケデス王子に呼ばれ、膝をつくマシロ。
ユーダケデス王子「どうした? ぼーっとして、寝不足か?」
マシロうっすらとクマを浮かべた顔で笑う。
マシロ「は……その、七光の任命式という事で、緊張してしまい……」
《page20》
○七光
ユーダケデス王子が笑いながらマシロに対して頷いている。
ユーダケデス王子「まあ、そうだろう! 七光は、王族ともいえる存在だからな。お前に相応しい位だ。これからも活躍を期待している! 病床の父もお前には期待しているという事だ」
ユーダケデス王子に肩を持たれながらマシロは期待という言葉に頬を緩ませ、俯いて表情を隠す。
マシロを囲む6人の影に気付く。
《page21》
○七光の影
???「純潔のマシロよ、これから頼むぞ」
???「人を束ねるという事、人を動かすという事は容易ではない」
???「だからこそ、我々のような強き者が必要なのだ」
???「下々には分かってもらえぬこともあるやもしれん」
???「それでも、我々は戦わねばならんのだ」
???「分かるかい?」
七光に向かって震えながらも真っ直ぐな瞳で答えるマシロ。
マシロ「は、はい! 分かります!」
???「よろしい、国の為に尽くせよ。【純潔】」
マシロ、顔を下げ決意を新たにする。床にぼんやりとネズの顔が思い浮かぶがすぐに振り払う。
《page22》
○回想3、マシロの仕事部屋。
仕事部屋で書類を読み続けるマシロ。
部下A「マシロ様、こちらの書類はチェック終わりました」
書類を受け取るマシロ。
マシロ「ありがとう、問題はなかったか?」
部下は意味ありげに笑い、
部下A「はい。『問題』はありませんでした」
マシロは頷きながら書類に再び視線を落とす。
部下A「ああ、問題と言えば……黒蝙蝠が」
マシロ、ハッとするが顔は上げない下を向いたまま。
マシロ「奴らがどうした?」
《page23》
○下を向いたまま
部下A「また、暴れて余計な被害を出したようです」
マシロ、眉間に皺を寄せ、ため息を吐く。
マシロ「はあ……またか。奴らにまた、処罰を与えておいてくれ」
部下は厭らしい表情を浮かべているがうつむいたままのマシロは気づかない。
部下A「はい、かしこまりました」
差し込まれた報告書をどんと叩くマシロ。
マシロ「私は正義の為に戦っているというのに……ネズ……!」
《page24》
○回想終り、兵舎に
ネズを睨みつけているマシロ。
マシロ「私は変わらないままだっ!」
ネズを光の壁で吹き飛ばすマシロ。
吹き飛びながらもしっかりとした着地をするネズ。
ネズ「かてえな……」
マシロは光の障壁を浮かび上がらせたままネズに向かって叫ぶ。
マシロ「私は変わっていない! なのに、なのに、お前は!」
《page25》
○痛いところを突く
ネズは、じいっとマシロを見ながらぼそりと呟く。
ネズ「お前は、変わってないんじゃない。変われないふりをしているだけだ」
マシロの表情が歪む。
マシロ「なんだと……?」
ネズがマシロに向かって真剣に話しかける。
ネズ「お前は、お前が変わらない為の都合の良い情報だけを拾って聞こえないふりをして見えないふりをして壁を張って変わらないふりをして生きて来ただけだ」
《page26》
マシロ、ネズの発言にぎくりとする。
マシロ「な、なにを……」
ネズ、再び拳を構え、魔力を高める。
マシロのその様子を見て笑う。
マシロ「お前では破れない! 私の壁は……」
ネズ「残念だったな」
ネズが笑う。
ネズ「俺は日々変わり続けているんだ。寝たからな」
《page27》
○マシロの盾対ネズの矛
マシロが障壁の枚数を増やしていく。
マシロ「やれるものなら、やってみろぉおお!」
ネズ、マシロの障壁を見ながら
ネズ(さーて、どうしたもんかなあ)
???「羊を数えなさい」
ネズ「んあ? 羊?」
ネズの奥底から声が聞こえる。
???「羊を数えるの。眠りの民よ」
ネズ、欠伸をしながら
ネズ「ん~、よく分かんねえが……ま、うまくいきそうな気はするなあ。羊が一匹……」
《page28》
○羊が増える
ネズが唱え始めた瞬間、ネズの魔力が跳ね上がる。
ネズ「はは……羊が二匹、羊が三匹……」
ネズが羊を数える度にネズの魔力がどんどん高まっていく。
マシロが驚愕の表情を浮かべている。
マシロ「な、なんだそれは……!?」
《page29》
○ネズの矛
ネズがじっとあふれ出る魔力を拳に凝縮させながら笑う。
ネズ「これがてめえをぶち破る一撃だ。コイツでテメエの顎をかちあげる! テメエの顎をかちあげる! てめえの顎をかちあげる!」
マシロが大量の障壁を出して防御に回る。
マシロ「何故!? 三回言うのだ!!」
ネズの叫び!
ネズ「大事な! ことだからだよ! マシロォオオオ!」
ネズが地面を蹴ってマシロに迫る。
《page30》
○盾をぶち破る純粋な力
バキバキイという音を立て障壁を破壊するネズ。
マシロ「な、何故!? 私の壁が……!」
ネズが笑う。
ネズ「テメエの目を覚まさせるためなら、俺は全部ぶちやぶってやらあ!」
全ての障壁をたたき割り、ネズのアッパーが顎の手前で止まる。
思わず避けたマシロの視界に飛び込んできたのは……。
マシロ「あ……空……」
グリが開けた壁の大きな穴の向こうに澄んだ空が広がる。
《page31》
ネズが眠そうにふらつきながらマシロに話しかける。
ネズ「ちょっと寝ろ。そんで、判断力取り戻せ。そんで、もっかい思い出せ。お前がなりたかったものがなんなのか」
マシロが顔を動かすと、あのころと同じように笑うネズの顔が。
マシロ「なりたかったものか……そうだな。ちょっと疲れた。寝てまた頑張るか」
大の字になって空を見上げるマシロ。
《page32》
閉じた目には涙が。そして、マシロは笑っていた。
ネズ「おやすみ、【純潔】」
○純潔のマシロ対不眠将軍
対峙するマシロとネズを見ながらユーダケデス王子が笑っている。
ユーダケデス王子「くっくっく! そう! 無傷の女騎士! 正に無敵! 【七光】の【純潔】! 対するお前は、傷だらけの汚いゴミ! 付いたあだ名は不眠将軍だったかなあ? 勝敗は明らかだ! やってしまえ! マシロ」
騒ぎ立てる王子を無視して向かう合い続ける二人。
地面を先に蹴ったのはマシロ。
《page2》
○確かな実力
マシロが白銀の剣をきらめかせながらネズに迫る。
マシロ「てやああああああ!」
マシロの剣が美しい剣閃を描く。
ネズはそれを見ながら
ネズ(美しい太刀筋だ)
ネズ(故に、)
ネズは冷静にその剣を瞳に映し、
ネズ「読みやすい」
マシロの流れるような連撃を、ネズ流れるように躱す。
《page3》
○読まれるマシロ
マシロ全て躱されたことに動揺しながら後ろに下がる。
マシロ「く……な、なぜ!?」
足を踏ん張らせるマシロと欠伸を噛み殺すネズ。
ネズ「教科書通りの攻撃されてもな」
マシロ、少し顔を赤くしながらも剣を構え、再び地面を蹴る。
マシロ「な! ならあ!」
《page4》
○マシロの届かない攻撃
無数の突きを放ってくるマシロ。白い刃のカーテンがネズに迫るが、当たらない。
信じられないという表情のマシロと、理解できないと表情のユーダケデス王子。
ユーダケデス王子「な、何故……何故! 当たらないぃいいい!」
呼吸が途切れ、右に飛ぶマシロ。その後方にユーダケデス王子。
マシロ「はあっ……! はあ……!」
《page5》
○傷だらけの理由
ネズが身体中の傷を見せつけながら笑う。
ネズ「俺が傷だらけだから回避能力に劣ると思ったか? 残念。この傷は俺が自分でつけた傷だ……」
ネズが淡々と、そして、過去の自分の眠気を覚まさせる度に自分を色んな方法で傷つけたことを思い出す。
ネズ「眠気をごまかす為にな」
衝撃の事実に顎が外れかける程驚くユーダケデス王子。
「なああああああん!?」
《page6》
○傷の代償
身体中の傷と、寝不足の思い出が走馬灯のようによみがえる。
ネズ(そう、俺は自分で自分を傷つけた。)
ネズ(眠かったから。)
ネズ(でも、寝たら死ぬから。)
ネズ(自分で斬って痛みで目を覚ました。)
ネズ(そういう意味でもちゃんと寝られてよかった。)
ネズ(もう痛い思いをしなくてすむ。)
ぼそりと呟くネズの口元。
「傷つく辛さを知れば知るほどやさしくなれる、と吟遊詩人は言っていたがアレは嘘だな」
《page7》
○ネズ、思い出しキレ。
ネズは傷だらけの手をコキコキ鳴らしながら嗤う。
ネズ「やりかえしたくて冷たくなれるわ」
背筋がぞおっとする二人。
マシロに向かって駆け出し拳を握るネズ。
《page8》
○マシロの盾対ネズの矛
マシロがネズの攻撃に対し構える。
マシロ「来るか……攻撃は無意味です!」
ネズが拳に魔力を漲らせる。
ネズ「無意味かどうか試してみようぜ。俺は、お前をぶっとばす。絶対にお前をぶっとばす。お前をぶっとばすんだ」
マシロもまた魔力を高める。
マシロ「だから、何故いつも三回言うのです!?」
ネズが拳を振りかざす。
ネズ「大事なことだからだっ……よ!」
床を蹴り、マシロに飛び掛かる。
《page9》
○マシロの盾対ネズの矛2
ネズの強烈な一撃を、マシロの純潔の壁が防ぐ。
《page10》
○マシロの盾
ネズ、後方に飛び着地。殴った拳をぷらぷらさせる。
ネズ「流石、腐っても【七光】ってところか」
マシロ、白い光を漂わせながら決意漲る瞳でネズを見つめている。
マシロ「腐ってなどいない。私はずっと変わらない。あの頃から、ずっと!」
回想に入っていく。
若いマシロ「ネズ! 前に出過ぎるなとあれほど言ったろう!」
《page11》
○回想。騎士見習いとして村の防衛任務に当たっているネズ達。
若いネズは、頭に包帯を巻いて、治療を受けている。
若いネズ「いや、だってよお、危なかったから」
若いマシロは、ネズの声を遮るように注意する。
若いマシロ「その結果、お前がそんな大けがを負う事になったのだぞ!」
ネズがたじたじ。
若いネズ「わ、わかったよ。わるかったよ」
ネズの反省した様子を見て、マシロはほっとした表情で笑う。
若いマシロ「くす」
《page12》
○若い二人
ネズがバツが悪そうにマシロを見る。
若いネズ「な、なんだよ……?」
マシロは口元を手で隠しながらネズの隣に遠慮がちに、だが、頬を薄く桃色に染めて意を決して座る。
若いマシロ「いやな、お前は純粋だな、と」
ネズ、思っても見なかった言葉に驚く。
若いネズ「はあ!?」
《page13》
○純粋な二人
隣で座りあう二人が顔を合わせている。ネズは怪訝な表情だが、マシロは嬉しそう。
若いマシロ「お前は素直じゃないところがあるが、こういう時は一番素直だな」
マシロはにこりと微笑み、まっすぐネズに言葉を伝える。
若いマシロ「それに、私は知っているぞ。お前が身体を張る時は誰かの為だって」
ネズ、ぷいとよそを向きながらパンを頬張り始める。
マシロはその様子を見ながらくすりと笑う。
マシロは空を見上げて呟く。
若いマシロ「私はそんな真っ直ぐ突き進むお前の背中を守りたいんだ……」
《page14》
○別の回想。城内の二人。
マシロが喜びながら駆けている。
若いマシロ「はあっ……はあ……」
その先にいるのはネズ。
若いマシロ「ネズ!」
ネズ、呼び止められて立ち止まる。
《page15》
○違う二人。
マシロ、息を切らせながらも喜びを隠せない表情で必死に言葉を紡ぐ。
若いマシロ「聞いてくれ! ネズ! 私もなれたぞ! 【七光】に!」
ネズの口元は苦笑い。
若いネズ「あー、わりいな。マシロ。俺は【七光】じゃねーんだわ」
マシロ、ネズの言葉に驚く。
若いマシロ「え……? なんで、お前の実力なら……」
ネズが振り返る。
《page16》
○黒蝙蝠のネズ
顔がはれ上がったネズが苦笑いを浮かべている。
マシロ、その顔に驚き、唇を震わせる。
若いマシロ「ネズ……なんで……」
ネズ、背中を向けて歩き出す。
若いネズ「まあ、なんでもねーよ。ちょっとな、ムカつくことがあって暴れただけだ」
マシロ、裏切られた気持ちになり表情を硬くする。
若いマシロ「は……?」
ネズは背中を向けたままあるいていきながら、黒蝙蝠の紋章を見せる。
若いネズ「俺は、黒蝙蝠になったわ」
マシロ、ネズの言葉と紋章に驚く。
若いマシロ「く、黒蝙蝠って……国の雑用係……」
《page17》
○届かない背中
ネズの背中。
若いネズ「まー、精々、七光さん方の為に、働かせてもらいますよ」
そう言って去っていくネズを見つめるマシロ。
若いマシロ「ま、待て! ネズ! こんなのおかしいだろう! なんで、お前は、そんな簡単に諦められるんだ! 私は! お前と!」
《page18》
ネズの背中に向かってマシロが叫ぶ。
マシロ「ネズーーーー!」
少しして城での任命式。
気もそぞろな表情のマシロ。
《page19》
○場所・謁見の間。聞こえない真実
マシロの背後でマシロを見つめながら噂をする貴族達。
貴族A「アレが、例の黒蝙蝠が熱を上げているという……」
貴族B「そうそう、自分のモノにしようとした~~殿がボコボコにされて……」
貴族C「でも、ソイツも罰を受けたのでしょう」
マシロにはその声は届かず、ぼうっと外の空を窓ガラス越しに眺めている。
ユーダケデス王子「マシロよ!」
マシロ「は、はい!」
ユーダケデス王子に呼ばれ、膝をつくマシロ。
ユーダケデス王子「どうした? ぼーっとして、寝不足か?」
マシロうっすらとクマを浮かべた顔で笑う。
マシロ「は……その、七光の任命式という事で、緊張してしまい……」
《page20》
○七光
ユーダケデス王子が笑いながらマシロに対して頷いている。
ユーダケデス王子「まあ、そうだろう! 七光は、王族ともいえる存在だからな。お前に相応しい位だ。これからも活躍を期待している! 病床の父もお前には期待しているという事だ」
ユーダケデス王子に肩を持たれながらマシロは期待という言葉に頬を緩ませ、俯いて表情を隠す。
マシロを囲む6人の影に気付く。
《page21》
○七光の影
???「純潔のマシロよ、これから頼むぞ」
???「人を束ねるという事、人を動かすという事は容易ではない」
???「だからこそ、我々のような強き者が必要なのだ」
???「下々には分かってもらえぬこともあるやもしれん」
???「それでも、我々は戦わねばならんのだ」
???「分かるかい?」
七光に向かって震えながらも真っ直ぐな瞳で答えるマシロ。
マシロ「は、はい! 分かります!」
???「よろしい、国の為に尽くせよ。【純潔】」
マシロ、顔を下げ決意を新たにする。床にぼんやりとネズの顔が思い浮かぶがすぐに振り払う。
《page22》
○回想3、マシロの仕事部屋。
仕事部屋で書類を読み続けるマシロ。
部下A「マシロ様、こちらの書類はチェック終わりました」
書類を受け取るマシロ。
マシロ「ありがとう、問題はなかったか?」
部下は意味ありげに笑い、
部下A「はい。『問題』はありませんでした」
マシロは頷きながら書類に再び視線を落とす。
部下A「ああ、問題と言えば……黒蝙蝠が」
マシロ、ハッとするが顔は上げない下を向いたまま。
マシロ「奴らがどうした?」
《page23》
○下を向いたまま
部下A「また、暴れて余計な被害を出したようです」
マシロ、眉間に皺を寄せ、ため息を吐く。
マシロ「はあ……またか。奴らにまた、処罰を与えておいてくれ」
部下は厭らしい表情を浮かべているがうつむいたままのマシロは気づかない。
部下A「はい、かしこまりました」
差し込まれた報告書をどんと叩くマシロ。
マシロ「私は正義の為に戦っているというのに……ネズ……!」
《page24》
○回想終り、兵舎に
ネズを睨みつけているマシロ。
マシロ「私は変わらないままだっ!」
ネズを光の壁で吹き飛ばすマシロ。
吹き飛びながらもしっかりとした着地をするネズ。
ネズ「かてえな……」
マシロは光の障壁を浮かび上がらせたままネズに向かって叫ぶ。
マシロ「私は変わっていない! なのに、なのに、お前は!」
《page25》
○痛いところを突く
ネズは、じいっとマシロを見ながらぼそりと呟く。
ネズ「お前は、変わってないんじゃない。変われないふりをしているだけだ」
マシロの表情が歪む。
マシロ「なんだと……?」
ネズがマシロに向かって真剣に話しかける。
ネズ「お前は、お前が変わらない為の都合の良い情報だけを拾って聞こえないふりをして見えないふりをして壁を張って変わらないふりをして生きて来ただけだ」
《page26》
マシロ、ネズの発言にぎくりとする。
マシロ「な、なにを……」
ネズ、再び拳を構え、魔力を高める。
マシロのその様子を見て笑う。
マシロ「お前では破れない! 私の壁は……」
ネズ「残念だったな」
ネズが笑う。
ネズ「俺は日々変わり続けているんだ。寝たからな」
《page27》
○マシロの盾対ネズの矛
マシロが障壁の枚数を増やしていく。
マシロ「やれるものなら、やってみろぉおお!」
ネズ、マシロの障壁を見ながら
ネズ(さーて、どうしたもんかなあ)
???「羊を数えなさい」
ネズ「んあ? 羊?」
ネズの奥底から声が聞こえる。
???「羊を数えるの。眠りの民よ」
ネズ、欠伸をしながら
ネズ「ん~、よく分かんねえが……ま、うまくいきそうな気はするなあ。羊が一匹……」
《page28》
○羊が増える
ネズが唱え始めた瞬間、ネズの魔力が跳ね上がる。
ネズ「はは……羊が二匹、羊が三匹……」
ネズが羊を数える度にネズの魔力がどんどん高まっていく。
マシロが驚愕の表情を浮かべている。
マシロ「な、なんだそれは……!?」
《page29》
○ネズの矛
ネズがじっとあふれ出る魔力を拳に凝縮させながら笑う。
ネズ「これがてめえをぶち破る一撃だ。コイツでテメエの顎をかちあげる! テメエの顎をかちあげる! てめえの顎をかちあげる!」
マシロが大量の障壁を出して防御に回る。
マシロ「何故!? 三回言うのだ!!」
ネズの叫び!
ネズ「大事な! ことだからだよ! マシロォオオオ!」
ネズが地面を蹴ってマシロに迫る。
《page30》
○盾をぶち破る純粋な力
バキバキイという音を立て障壁を破壊するネズ。
マシロ「な、何故!? 私の壁が……!」
ネズが笑う。
ネズ「テメエの目を覚まさせるためなら、俺は全部ぶちやぶってやらあ!」
全ての障壁をたたき割り、ネズのアッパーが顎の手前で止まる。
思わず避けたマシロの視界に飛び込んできたのは……。
マシロ「あ……空……」
グリが開けた壁の大きな穴の向こうに澄んだ空が広がる。
《page31》
ネズが眠そうにふらつきながらマシロに話しかける。
ネズ「ちょっと寝ろ。そんで、判断力取り戻せ。そんで、もっかい思い出せ。お前がなりたかったものがなんなのか」
マシロが顔を動かすと、あのころと同じように笑うネズの顔が。
マシロ「なりたかったものか……そうだな。ちょっと疲れた。寝てまた頑張るか」
大の字になって空を見上げるマシロ。
《page32》
閉じた目には涙が。そして、マシロは笑っていた。
ネズ「おやすみ、【純潔】」