第二話 寝たら色々理解しました。

《page1》
○兵舎の部屋の中 喜びを全身で表現するネズを王子たちは驚愕の表情で見ている。

ネズの喜ぶ表情の奥でマシロが驚いている。
マシロ「な……!」

マシロ、ネズを睨みつけ声を荒げる。
マシロ「正気ですか!? 王国を追放されて喜ぶなんて!」
ユーダケデス王子「そ、そうだそうだ!」

そんな二人の肩をぽんと叩き力を『奪う』男
男(グリ)「まーまー、力も入ってない寝起きの人間にそんな叫ぶなって」


《pege2》
○グリとの再会

ネズ、振り返りグリの姿を確認すると嬉しそうに笑う。
ネズ「グリ……おはよう」

グリは、二人から手を離しひらひらとネズに両手を振っている。
更にその背後には力を吸われ、ふらついている兵士達。
グリ「随分と寝坊だったなあ、隊長~」

ネズは寝坊という言葉にひっかかり表情を変える。
ネズ「俺は、何日寝てた?」


《page3》
○ネズとグリの以心伝心

ネズとグリが言葉を重ねていく。
グリ「一週間、だ」
ネズ「マジかよ。まだそんだけ?」
グリ「隊長、いつから寝てなかったんだよ」
ネズ「一か月」
グリ「言えよ」
ネズ「『いや、俺全然寝てないわー力でないわー』ってか、ダサいだろ?」
グリ「……アンタらしいよ」
ユーダケデス王子「おい!」


《page4》
○王子の的外れ発言

グリが振り返り、ネズは見下ろしている。
グリ「あん?」

その先にはユーダケデス王子がぶるぶる足を震わせながらも指をさしている。
ユーダケデス王子「お前ら、王子を無視して会話するなどと失礼だろう!」

ネズとグリは顔を見合わせ呆れている。ガチャガチャと武器を持った兵たちが近づく音。
ネズ「いや、俺らは追放なんだろうが」
グリ「隊長、馬鹿にはつける薬がねえんだよ」


《page5》
○回復したグリ
グリが地面を蹴る。

そして、思い切り壁を蹴りつけ砕く。

外を眺めながらグリは後ろにいるネズに話しかける。さらに後ろではユーダケデス王子たちが驚いている。
グリ「隊長……もう大丈夫だよな」


《page6》
○残りの蝙蝠たちの行方

ネズ、身体をほぐしながらグリに答える。
ネズ「ああ、寝たからな」

グリはその言葉ににやりと笑う。
そして、すぐに真剣な表情に戻り、
グリ「手短に言う。アイツ等それぞれ純潔以外の七光に連れていかれた」

ぴくりと反応を示すネズ。
ネズ「なに?」

真剣な目で問いかけるグリ。
「迎えに行ってやってくれ。できるよな?」

《page7》
○誓い

ネズは淡々とした表情でこともなげに言う。
ネズ「ああ、寝たからな」

グリは呆れたように、それでいて、納得したように笑う。
グリ「なら、大丈夫だな」

ネズはグリに問いかける。
ネズ「お前はどうすんだ?」

壁にあけた穴に手を掛けるグリ。
グリ「オレは、グラのところに行く。あんなでも妹だからな。隊長も来てくれよ」


《page8》
○グリとの別れ

ネズ、腕を組み自信満々で言う。
ネズ「ああ、寝たからな」

グリは再び笑う。
グリ「そっか。じゃあ、またな、隊長」

グリは地面を蹴って飛び出して行く。
それを見送るネズ。
そんなネズを囲む影。


《page9》
○ユーダケデス王子のターン

ユーダケデス王子が再びネズを指さして叫んでいる
ユーダケデス王子「ネズゥウウ! 何をごちゃごちゃやってるんだあ!? 自分の状況分かっているのか、貴様ぁああ!」

王子をじっと冷静に見ているネズ。

王子はそんなネズの様子を見て、得意げに笑う。
ユーダケデス王子「どうした? 怯えて声も出ないか」

ネズは淡々と返す。
ネズ「いや、さっきからコイツ、同じポーズしかしてねえなーと、ほら、指さして叫ぶばっかりじゃねえ?」

思ってもいなかった言葉に驚き、鼻水を噴き出す王子。
ユーダケデス王子「なばっ……!」

後ろに崩れ落ちる王子とネズの間に割って入るマシロ。


《page10》
○純潔の美しき女騎士マシロ
マシロが再びネズの前に立ちはだかる。
マシロ「おやめなさい! ネズ! これ以上の無礼な振る舞いは七光が一人、【純潔】のマシロとして見逃せません!」

ネズの呆れた表情
ネズ(【純潔】のマシロ、ね……)

マシロの身体の一部ずつが表され、それぞれが美しい。
(【純潔】のマシロ。白く長い髪、そして、美しい雪のような肌。その麗しい見た目を見せつけながら舞うように敵を斬り裂く。そして、神から与えられた『純潔』という障壁を発する能力により、敵の返り血どころか自身に傷を負うことさえない。心揺らすことなく冷静沈着。戦場ですら顔をゆがめたところを見たことない為、人は彼女をこう呼ぶ)


《page11》
○純潔の美しき女騎士マシロの鼻水

マシロの美しい顔のアップ。
ネズ(【純潔】の女神、と……)
マシロ「ネズ……これ以上罪を重ねるな」

マシロがネズに必死の表情で説得を試みる。
マシロ「貴様は! この国に戻ってこれなくなっていいのか!?」

ネズ、あっけらかんな表情。
ネズ「うん」

マシロ、その表情と声に驚き、鼻水を噴き出す。
マシロ「なばっ……!」


《page12》
○鼻水の女神

マシロが、鼻水を流しながら口を開けてパクパクしてる。
マシロ「な……な……! 貴方、今、なんと言いましたか!?」

ネズ淡々と答えながらも鼻水をいやがりちょっと下がる。
ネズ「ん? いや、やっと寝られるって」

鼻水に気付き顔を赤らめて拭き取ろうとするマシロ。
「ずず……! あなた、自分の犯した罪を分かっているのですか!?」

ネズは頭を掻きながら不機嫌そうな表情になる。端には振り返りネズに背を向けるマシロ。
「罪、ねえ」

《page13》
○マシロの失望

マシロが悲しそうな表情を浮かべている。
マシロ「あなたは変わった、変わってしまった……!」

マシロが出会った頃のネズを思い出しながら叱責する。
マシロ「同じ騎士見習いとして出会った頃のあなたは、凛々しく強く正しく優しい騎士の見本のような人でした」

マシロはネズに言いづらそうに、少し顔を赤らめて目を伏せる。
マシロ「私は、そんなあなたに……!」

マシロ、キッとネズを睨みつける。
マシロ「けれど!」

《page14》
○マシロ劇場

マシロはネズに対し失望を込めて叫ぶ。
マシロ「今はもうあの頃の見る影もありません。落ちるところまで落ち、罪人になるなんて……! 最低です!」

無表情のネズ。
ネズ(何も響かない)
マシロの表情やユーダケデス王子、兵士達、ベッドの描写。
(もしかしたら、寝不足のままだったら、怒る、悲しむ、自分を責める、何かしてたのかもしれない)

ネズの溜息。
ネズ(けれど、今スッキリした頭で思うことはひとつだ)


《page15》
○ネズの呆れ

ネズは心から分からないという表情でマシロを見る。
「なにいってんの? お前」

再びマシロの鼻から鼻水
マシロ「はばあ!?」

マシロが鼻水を吸いながら顔を真っ赤にしてネズを睨む。ネズは汗をかいている。
「ずずずずず!」

真っ赤な顔でわなわなしながらネズに問いかけるマシロ。
マシロ「な、なにいってんのって……あなたこそ何を言ってるんです!?」

《page16》
○明かされる闇

ネズが呆れながらへやをうろつく。
ネズ「こんな国の罪人になって追放されたところで痛くも痒くも眠くもねえよ」

マシロは慌てながらネズに迫る。
マシロ「こ、こ、こんな国!?」
ネズ(おい、近づくな鼻水の女神)

ネズの真顔がまっすぐ正面を捉える。
ネズ「こんな国だろう? 一人の兵士を国の一周させて守らせた挙句に追放させるような国なんてよ」
《page17》
○闇は深く、残酷

マシロが驚いている声を上げるがネズは構わず話し続ける。
マシロ「え……?」
ネズ「最初に」

ネズが淡々とここまでの地獄の行軍について話し続ける。
ネズ「行かされたのは、ギゼインの東南だ。首無し騎士の討伐に参加せよって王子様の命令でな。次に、そのまま東のメジマソクの所で、対帝国の防衛戦。北に回って、シューセンドのところで盗賊団潰し、北西ナルシィのところに行かされ、西ドエムス、そして、南の魔人討伐……」

《page18》
○知らなかった純潔

ネズが溜息を溢しながら話し終える。
ネズ「まあ、俺が聞いたときは魔物討伐だったけどな。ともかく、全てオウジサマのご命令で俺はこの一か月間寝ることすらままならないまま戦い続けたわけだ」

小さな回想シーン。無理やり自分たちを起こす【黒蝙蝠】たち。
ネズ(覚醒魔法と痛みで己を起こし続ける地獄。アレはキツかった)

地獄を思い出しながらちらりと視線を送るネズ。
その先には震えるマシロ。
マシロ「そんな……!」

溜息を吐くネズの口元。
マシロそれを見て慌てて弁明をしようとする。
マシロ「わ、私は……!」

ネズ「知りませんでした、か?」


《page19》
○無知の罪
ネズは冷たい目でマシロを見ている。頭の中では、過去の地獄を思い出している。
ネズ「知ろうとしたか? 移動しながら飯を食い、風呂も入れず髪も髭も伸ばし放題、肌は荒れ、目は腫れあがり、身体は重く、意識は朦朧……その男を見て、お前は、罪人だといったわけだ」

マシロは力なく首を振っている。
マシロ「ち、ちが……!」

間髪入れず否定するマシロを否定するネズ。
ネズ「違わないね。お前が王国の中心にいる意味はなんだ? 正しく人々を導くためじゃあなかったか?」


《page20》
○思い出は美しい

回想。若かりし頃のマシロが少し頬を赤らめながら力強く宣言している。
若いマシロ「正しくある為に私が必要なのだ。だから、私はお前たちの為に中央で戦う」

回想終り。顔を青ざめさせた立派な服装のマシロが弱弱しく震えている。

若い笑っていたネズの面影は薄く、今のネズは疲れ果て怒っている。
「そう、昔言っていたな。 国の頂点にいる王族がやることは全て正しいと思っていたんじゃないか? じゃあ、純潔の女神様が同じ仕打ちに、お前の大切な人が同じ目にあっても正しいとお前は言えるのか」

マシロ、力なく膝をつく。大切な人と言われ思い出すのは追いかけ続けた背中。いま、目の前で自分を糾弾する男。その背中を守りたかった男。
マシロ「た、大切な人……」

《page21》
○後悔先に立たず

地面を拳で叩き泣き叫ぶマシロ。それを見下ろすネズ。
マシロ「あ、あ、ああああああああ!」
ネズ「お前もおかしくなってるわ。一回寝た方がいいよ、ほんと」
その二人の間に割って入る王子の声。
ユーダケデス王子「貴様~!」

《page21》
○王子の反撃

ユーダケデス王子が兵たちに支えられながらネズを睨みつけている。
ユーダケデス王子「罪人の癖に我が国の英雄を、【七光】を馬鹿にしおって!」

呆れるネズの発言に驚くユーダケデス王子。
ネズ「いや、実際馬鹿だろ、コイツ。まあ、アンタの方が馬鹿だろうけどな」

ユーダケデス王子は顔を真っ赤にして兵たちに命令を下す。従う兵達。
ユーダケデス王子「き、き、貴様~!! おい! お前ら、やれ!」
兵達「は!」

《page22》
○ネズ対王国兵達

ネズを取り囲む王国兵達。

それを呆然と見ながら呟くマシロ。
マシロ「わた、私は……」

そんなマシロにユーダケデス王子が命令死に近づく。
ユーダケデス王子「マシロ! 戦え! 戦うのだ!」

びくりと身体を震わせ混乱しながらも反射で王族に従ってしまうマシロ。
「は、はい……!」


《page23》
○ネズ対王国兵達とマシロ

マシロが瞳を揺らめかせながら立ち上がり、白銀の剣を構える。

ネズが敵に視線を巡らせながら考えている。
ネズ(七光の一人と、王子の親衛隊。コイツらと一人で戦えるヤツなんてこの国にいやしないだろう)

そして、下品な笑顔を浮かべる。
ネズ「俺がこの国から追放されたからな」

ネズが身体中の魔力がしっかり巡っていることを感じている。
ネズ(寝て頭がスッキリして分かる。)
ネズ(何故俺はこの国に従っていたんだろう。)
ネズ(俺は寝てればこんな奴ら、)

圧倒的な人数差を前にしてもネズは笑っている。
ネズ「相手じゃない」

《page24》
○漲る自信と魔力のネズの三回宣言

ネズが身構え、三回宣言をする。
「いよっし! 俺はお前らをぶったおす! ぶったおす! ぶったおすっ!」

ユーダケデス王子がビビッて後ずさりしながら虚勢を張る。
ユーダケデス王子「な、なぜ、三回言う?!」

にいっと笑うネズ。

《page25》
○ネズは不敵に笑う。

まだクマは残るものの瞳には輝きが宿り始めるネズの笑顔。
ネズ「大事なことだからだよ!」

過去の無邪気に笑うネズを思い出しハッとするマシロ。

それをかき消すようにユーダケデス王子が叫ぶ。
ユーダケデス王子「かかれぇえええ!!」

《page26》
○戦闘開始

ネズに向かって一斉に襲い掛かる王国兵達。

ネズは欠伸をしながら呟く。
ネズ「ふわ……遅い」

ネズ、王国兵の突きを左に逃げて躱し、腹に右膝。
上半身を倒し右肘で後頭部。
更に崩れ落ちる王国兵に対し、両手組んで叩き落す。
兵「ぐへっ!」

飛んでくる投擲武器。右、左、とネズ軽快に躱す。
躱しながら、下に叩き落とされた兵の悲鳴が聞こえる。
兵「あぎゃ……! 踏んで……」

ネズ、視線を素早く動かし状況確認を行う。
ネズ(さて)


《page27》
○ネズの空間把握。

ネズが全神経を張り巡らせ、全員の位置を把握する。

ネズ(右に二人)

ネズ(左に一人)

後ろに回っている影を感じながら前を見ている。
ネズ(後方に回ってんのが四人)

ネズの視線。6人の王国兵と、その奥にいるユーダケデス王子とマシロを捉えている。
ネズ(前方、待機が六人。計、残り十三人)
ネズ(その奥に、マシロとオウジサマ)


《page28》
○取り戻せた判断力

ネズ、ハッと気づき、左右からの投擲を掴んで投げ返す。悲鳴が小さく上がる。
ネズ(寝て一番に取り戻せたのは判断力だな)

ネズの視野は広く、色んな情報を掴み、危険度を付けていく。その間も手が動き、悲鳴が上がっている。
ネズ(情報取得、整理、選択)

一番危険と判断した後方の攻撃を見ずに蹴りとばす。
ネズ(これらがちゃんと出来るだけで、全てが大きく変わる)

ちらと視線を固定するネズ。
ネズ(だから)

《page29》
○圧倒的実力差

ネズがもう色々見る必要はないとじっと正面を見る。
ネズ「これでラストだ」

ネズが最初に転がした男を蹴り上げて正面からの投擲武器を防ぐ盾にする。

そして、そのまま当身を食らわせ、投げてきた男に針まみれの男をぶつける。
そのまま吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた男が十四人目。

《page30》
○死屍累々

右に五人、左に二人、後方一人、前方三人、足元二人、天井に突き刺さったの一人。
全員あっという間にやられていた。
ネズは欠伸をしながら手を払っている。
鼻水垂らして驚くユーダケデス王子とぽかんと見ているマシロ。


《page31》
○最後の決着

ネズ、手をぽきぽきながら近づく。
ネズ「さて……シメといこうか」

ユーダケデス王子に歩みを進めると、ユーダケデス王子は下がり、マシロがかばうように前に出る。

ネズはえへらと笑う。
ネズ「止めるか?」

動揺しながらも真剣な表情のマシロ。
マシロ「話を聞かせてくれ」

会話を重ねる二人。
ネズ「もう、遅い」
マシロ「何故だ」
ネズ「追放は決定だろう? それに……お前以外の七光が俺の仲間を奪った。あのクソ共に何されるか分からん。先を急ぐ」
マシロ「駄目だ。それに、あの人たちがそんなことをするはず……」
ネズ「お前のそれは盲信だ。判断出来ていない」

マシロが叫び、剣を強く握り、魔力を漲らせる。
マシロ「五月蠅い! では、私は何のために……! うあああああ! 私は、お前を、止める……『純潔』」


《page32》
○純潔のマシロ

マシロの体に白い軽鎧が浮かび上がる。
薄い白い障壁がマシロの身体を包んでいる。
マシロ「誰も傷つけることの出来ない……故に【純潔】! お前をこれ以上汚させない!」

ネズがじっとマシロを見定めている。