第一話『寝たら追放されました』
《page1》
○王国の兵舎 主人公ネズが第一王子ユーダケデスに追放を宣告される
ブクブクと肥えツルツルと輝いている第一王子ユーダケデスが嬉しそうに真正面に向かって指をさしている。後ろには兵士達と、白髪の美しい女騎士が睨んでいる。
ユーダケデス「『黒蝙蝠』隊長、ネズよ! お前をこの国から追放する!」
指さした先には、胸元に不機嫌そうな黒蝙蝠の紋章を付けたネズ(顔は口元だけ)、茫然と口を開けている。
部屋の汚さに対して妙に綺麗なベッドで上半身だけ起こしたネズが震えている姿越しにユーダケデス王子が得意そうに鼻を鳴らしている。
ネズ「や……!」
上から見たベッドとネズ。ベッドの横には、『眠い眠い眠い眠い眠い眠い……』と書かれた日記や『短時間で寝る方法!』という題名の本、現実世界の栄養ドリンク的なものの空瓶の山やとにかく睡眠の願望を具体化した仲間達の残骸
ネズ「やっ……!」
歴戦の戦士を思わせる傷だらけの手を握りしめるネズのどデカいクマまでが見える。
震える口元は喜びがあふれかけている。
《page2》
○主人公の喜び爆発
上からの視点ベッドに寝転びながら身体全体で喜びをあらわすネズと、それを見て驚くユーダケデス王子や白髪の女騎士、兵士達。そして、ネズの他に2人の男性隊員が居たと思わせる痕跡と、ネズのベッド周りだけ何故か大量の戦闘の痕(ネズを巡る女の闘い)が見える。
ネズは大きなクマをつけた目から大粒の涙を溢し、両手でガッツポーズ。
左手には、怪しげな紋様が浮かんでいる。
ネズ「やったぁああああああああああ! これで寝られる!」
《page3》
○逆に驚く王子たちと呆れるネズ
ユーダケデス王子たちはネズの喜びを見て目玉が飛び出る位驚いている。
ユーダケデス王子たち「なっ……!」
ネズ、眠ることのできる喜びをかみしめながら涙を流している。
ネズ(ああ……! やっと、やっと、しっかり寝られる日々が始まるんだ)
ユーダケデス王子が怒り心頭と言った顔でネズを責め立てる。
ユーダケデス「おい! ネズ、貴様自分がやったことを分かっているのか!?」
ネズがちょっと不機嫌そうに振り返る。クマがひどいので相当凶悪な顔。
ネズ「あん?」
ユーダケデス「ひぃいい! こわい!」
睨むネズと怯えるユーダケデス王子の二人の後ろから白髪の女騎士マシロが割って入ろうとする。
マシロ「おやめなさい! ネズ!」
ネズは眠そうな呆れたような目で視線を動かす。
ネズ「マシロか……」
《page4》
○【純潔】の女騎士、マシロがネズを責め立てる。
白銀の軽鎧を纏った白髪の美女マシロがネズを睨んでいる。
マシロの背後に回り込んだユーダケデスがいやらしそうな表情を、兵士たちは見惚れるような表情を浮かべている。
王国七光【純潔】のマシロ。
マシロ「ネズ! 私は貴方を許さない!」
ベッドに座り込んだネズに喰ってかかるマシロ。
マシロ「いいですか、ネズ! 貴方は仲間殺しをしたのですよ!」
ネズ「いや、殺しちゃいねーんだワ。寝不足で殺しかけたの」
マシロが腕を組みながらぷりぷり説教を垂れているのを欠伸をしながら聞くネズ。
マシロ「あなたのその凶悪顔に違わぬ、短絡的、傍若無人、失礼千万、とにかく好き勝手に暴れる貴方達の尻ぬぐいは私達がやってきました!」
ネズにぐいと迫るマシロの怒り顔も美しいがネズは無反応。
マシロ「しかし! 魔人討伐においての貴方の罪はもはや庇い切れるものではありません」
ネズ(魔人討伐、か……)
回想に入るように暗くなっていく。
《page5》
○ネズが眠るように過去を思い出そうとし始める。
ユーダケデスやマシロたちの叱責がうっすら聞こえる中、ネズは眠りにつくように回想に入り始める。
ネズ(そうだったなあ……あの、魔人討伐のおかげで俺は眠ることが出来たんだったな……ありがとう……魔人……)
マシロ「ちょっと! ネズ……! 何寝てるのよ! 無視しないでよ……こ、こほん! 寝るな! ネズ! ネズ!」
ユーダケデス「おい! ネズ! 王子の前で無礼だぞ! ネズ! ネズ!? ネズゥウウ!」
兵士達「貴様! 寝るな!」「起きろ! 大罪人!」「ネズ!」
徐々に暗くなっていく。
《page6》
○寝不足で行軍を続ける『黒蝙蝠』。夜も更け始めた王国の外れにある荒野。
下ろした瞼により真っ暗な世界の中で声が聞こえる。
グリ「隊長!」
はっと目を覚ましたネズの目の前に魔物の拳が迫る。
ネズは、欠伸を噛み殺しながら魔物の拳をうつらうつらで流し、顔を蹴り上げる。
ネズ「眠い……」
そのまま顔を蹴り上げた魔物を凶悪な顔で投げ飛ばす。投げ飛ばされた魔物は悲しそうな顔で飛んで、他の魔物にぶつかる。
ネズ「眠いんだよぉおおおおおお!」
疲れ果てて溜息を吐くネズがちらりと前方を見る。
ネズ「にしてもよお……多すぎだろ」
《page7》
○圧倒的数量で絶望感を煽る魔人の軍勢
ネズの視線の先には、悪夢のような数の魔人の軍勢が並んでいる。
ネズ「魔人のやつ、どんだけ魔物連れて来てんだよ」
溜息つくネズの後ろで、青紫髪の男が苦笑を浮かべている。
グリ「隊長が、考えなしに突っ込んでいくからだろ」
不機嫌そうに隣の青紫髪の細身の男に振り返りながら呟くネズ。その背後から魔物が二体襲い掛かってきている。
ネズ「うるせえよ、グリ。考えなんて持てるか」
ネズとグリが獣のような目で魔物に向かっていく。
《page8》
○黒蝙蝠のグリとネズ
魔物は憤怒の化身となった二人に思い切り顔を掴まれ驚愕の表情を浮かべる。
魔物達「……!」
メキメキと音を立てさせながら疲れ果てた表情で怒っているグリ。
こぼれる八重歯が凶悪さを際立たせている。細身で腕は震えているがそれはストレスの為、巨体の魔物を軽々と持ち上げている。
グリ「へいへい……」
グリは魔物を掴んだまま空いた手で頭を掻いてとぼとぼをネズから離れる。
グリ「まあー……正直眠すぎて頭……」
ギラリと八重歯が輝く。
《page9》
○ネズとグリの睡眠不足怒りのコンビネーション
グリが思い切り振りかぶって魔物を投げつけようとする。
グリ「回んねえよなあぁああああ!」
その先にいるのは同じように魔物を掴んでいたネズ。
グリ「おらぁああああああああああ!」
ネズもまたにやりと笑い、魔物を投げつける。
ネズ「そう言う事だオラアアアアアアアアア!」
ぶちゅんと潰れる魔物の血の雨を浴びながら、グリが後方を振り返る。
それに気付いたローブ姿のふくよかな少女。
グリ「おい、オレと隊長だけじゃなくて、オメーも働けよ、グラ」
《page10》
○黒蝙蝠のグラ
両手いっぱいにオークの骨付き肉を持ってかぶりつきながら謝る赤紫髪を三つ編みにした女魔法使い。両手は塞がっているが、魔力で生み出した口のようなモノ達が魔物を喰らい尽くしている。
グラ「ごふ……! ご、ごべえん」
グリとネズが話しながら魔物を殺し続けている。
ネズ「おい、グリ。あんま自分の妹いじめんなよ」
グリ「だって、アイツ。絶対運動不足ですよ」
美味しそうに肉を頬張るグラの元に、二人のすらりとした女性、鎧とドレスが近寄ってくる。
ライカ「グラ、お前はいつも食べ過ぎなのだ……! 身体を壊しても知らんぞ! もっと体を鍛えろ!」
プリン「下品な筋肉女、いらいらしすぎよ! さっきからうるさい! 世界一繊細なワタクシの耳が潰れてしまうじゃない!」
《page11》
○女騎士ライカと魔法令嬢プリン
金髪をポニーテールに纏めた女騎士ライカは雷を纏わせた剣でプリン側にいる魔物を切り上げながら、ブロンドの緩いウェーブがかった髪でドレスに近いローブ姿のプリンは扇で起こした風でライカ側にいる魔物を吹き飛ばしながら互いを睨んでいる。
ライカ・プリン「「はあぁあああ?!」」
もそもそとそれでも新しいオーク肉にかぶりつき始めるグラ。
グラ「ごめぇん。わたしも最近身体が重くてなんか落ち着かなくて……」
二人シンクロして、グラをしかりつける。
ライカ・プリン「「食べるのをやめろ(やめなさい)!」」
グラ「ぴゃい!」
《page12》
○闇の呪術師エンと、舞姫ラスティ
真っ黒な服を着たスレンダーでとても長い黒髪の少女は男(ネズ)に迫りながら、その向こうにいる誰かにぼそりと呟いている。
「おい、離れろ。色ボケババア」
向こうにいた桃色髪をアップにした豊満で露出度の高い踊り子の服を着た女が男(ネズ)の逆側で身体を押し付けて妖艶に笑っている。
「ガキは黙りなさいな」
ネズについた魔物の血を拭きとろうとハンカチ(何故か今日の日付と一緒に『ネズ隊長の血』と血文字で書かれている)を差し出しているエンと、身体を押し付けながら指先で血を拭うラスティ。その間に挟まれて呆れているネズと、さらにその背後には、エン側の奥には真っ黒に染め上げられ恐怖の表情で積み重ねられた魔物達、ラスティ側には目をハートにし、鼻から血を流し身体中に鞭のような跡が付けられて山となっている魔物達。
ネズを挟んで言い合う二人。
エン「ワタシと違って年寄りなんだから、寝不足で肌荒れヤバいぞ、ババア」
ラスティ「あんたこそ、目のクマひどいわよ~。あたしと違って陰気な顔なのに」
睨み合う二人に挟まれながらネズが遠くに呼びかける。
ネズ「おい、ウチの頭脳。なんとかしろ」
ソリに寝転がっている青年の口元。
スロウ「それ、ボクに言ってる?」
《page13》
〇黒蝙蝠の頭脳スロウ
ネズの腰に巻かれたロープ。その先にはソリが。そして、そのソリには灰色髪の青年が寝転がって弱弱しく笑いながら手をひらひらさせている。その周りには生き埋めにされた魔物たち。
スロウ「無理無理。もう疲れて頭回んない。明日頑張るよ」
ロープを引っ張りながらじとーっとスロウを睨みつけるネズ。
ネズ「明日生きてたら絶対やれよ」
スロウの乗ったソリが引っ張られたことで空いた地面を殴りつける魔物。
スロウ「生きてたらねえ」
手に石で出来た鋲のようなものが刺さって泣き叫ぶ魔物とそれを背後に感じているスロウ。
スロウ「この絶望的な状況で。こんなの七光でも無理だよねえ」
スロウのソリを抱えて魔物を蹴り飛ばすネズ。
ネズ「七光、ねえ」
《page14》
〇王国の英雄七光
マシロとシルエットの6人の姿が浮かんでいる。
ナレーション「【七光】ネルナハ=タラケ王国が誇る七人の精鋭であり、それぞれが人並外れた力を持っている。そして、ネルナハ=タラケ王国では、マシロを除く6人はそれぞれに領地を持ち、自治が認められている。一方-
《page15》
〇王国の雑用【黒蝙蝠】
血と汚れに塗れた黒蝙蝠の面々が凶悪犯顔で暴れている。
ナレーション「ネルナ=ハタラケ王国特務部隊【黒蝙蝠】。国が誇り脚光を浴びる【七光】とは違い、汚れ役を一手に担う。劣悪な環境、不利な状況、絶望的な戦場、そういったところにまず投げ込まれるのが
《page16》
〇黒蝙蝠の進軍。
ソリで寝ころびながら笑顔で説明をしているスロウ。
スロウ「それが【黒蝙蝠】なのだ」
ソリを引きながら後ろのスロウを見るネズ。
ネズ「おい、眠くなるような説明入れてくんじゃねえよ」
スロウ「いやあ、だって事実でしょ」
ネズ(スロウの言うとおりだ。今回の命令も、万に近い数の魔物を、七光がたどり着くまで足止めをしろという命令だった)
ネズ(はあ?)
《page17》
〇ネズの怒れる脳内
ネズの眠気と怒りが画面にいっぱいに溢れる。
ふざけんなできるわけねえだろというかなんで俺達が先行して足どめする必要がある七光だったら俺たちとちがって待機が仕事みたいに今なってんだからすぐにいけるだろうがすこしでも削らせて楽しようとしてんじゃねえよ国のいち大事だろうが意みわかってねえのか馬かが馬鹿が馬かがばかがこちとら不眠ふきゅうで移どうしてたたかってんだばかやろうああねむいくそふざけんないつもいつもこっちがなんとかなりそうな状きょうになったらよびもどして七光にいかせてなんだあのタイミングどっかでみてんのかきもいきもいきもいあーねむいねむいねむいふざけんなくそがまものへらねえなおいいつまでたたかえばいいんだよはらへったくさいしんどいいらいらする。
《page18》
〇ぬかるみを歩くネズに襲い来る影
ネズが全部喋っていることに対し笑うグリ。
ネズ「しんどいいらいらする」
グリ「隊長、全部声に出てんぞ」
ふらふらと意識を失いそうで笑っているネズ。横から伸びてくる触手に気づかない。
ネズ「まあ、別にいいだろ。どうせこのまんまなら俺死ぬだろう、」
横から黒い触手が襲い掛かって来ることにようやく気付くネズ。
ネズ「しっ……!?」
濃いクマが浮かぶ目を見開きなんとか体を動かそうとするネズ。
ネズ(全然気づけなかった! くそ! どんだけぼーっとしてたんだ!)
《page19》
〇倒れてぬかるみに突っ込むネズ
スロウとグリの目が鋭くネズをとらえる。
腰の縄が少し揺れ、ネズの身体を押すグリの手、ふらついて定まらない足元。
ネズがぬかるみに倒れ込む。触手が通り過ぎ、黒い雫(血)が跳ねる。
ネズ「ぶべっ!」
ぬかるみから泥だらけの顔を上げるネズ。
ネズ「あー、あぶ、ね……」
ネズの顔に触手突き刺さる二つの影が浮かび、ネズの目が再び見ひらかれる。
《page20》
〇黒蝙蝠の危機
ネズの視線の先には、腹を貫かれたグリと肩から血を流すスロウ。
さっきまでピンと張っていたロープも今はだらりと垂れている。
振り返ると、他の面々も全員倒れている。
魔神「はっはっは! 無様に地面に寝転んで無事とは運のよい奴だ」
ネズが深いクマを作った目で睨みつける。
《page21》
○魔神が大勢の魔物を引き連れて笑っている。
青い肌の魔神が赤い血の付いた触手を揺らめかせながらこっちを見て笑っている。
後ろには大勢の魔物。
その様子を寝ころんだまま見ているネズ。
魔神は余裕の表情を浮かべながら笑う。
魔神「さてさて、噂に聞くネルナハ王国の強者とはいかほどかと思ったが、つまらんなあ……やはり、人間は全員永久の眠りにつくべきか……」
ネズの口元。怒りが溢れている。
ネズ「うるせえ」
ぐっと拳に力を入れ泥を握りしめるネズ。
《page22》
○起き上がるネズ。
一度地面に顔を置いて瞼を閉じているネズだったが、手は固く拳が作られ、脚は震えながらも地面を踏みしめようとしていた。
ネズ(寝たいけどこういうんじゃねえんだよ)
起き上がるネズを見ながら魔神は笑う。
魔神「ほう……」
ネズ(俺は)
《page23》
○魔神を睨みつけ戦う意思を見せるネズ
ネズはボロボロで泥だらけの身体を震わせながら立ち上がる。
目も充血しており、クマもひどく疲労の色は濃いが、強い意志を感じさせる。
ネズ「ちゃんと気持ちよく眠りたいんだよ、馬鹿ヤローが」
《page24》
○嵐の前の静けさの中で向かい合う二人
向かい合う二人の会話が重ねられていく。
魔神「おお! 立ったか、いいぞいいぞ!」
ネズ「でけえ声出すな。頭いてえんだよ……もういい、もういい、もういい」
魔神「何故三回言った?」
ネズ「大事なことだからな、てめえのその性能低そうな耳にちゃんと届ける為にだよ」
魔神「ほほう……では、何がもういいのだ?」
ネズ「さっき永遠の眠りっつったよな。てめえにはさせねえよ。俺がやる」
魔神「ほお、お前が……」
《page25》
○ネズの本気
ネズがじいっと見つめている。身体中から魔力が溢れている。
ネズ「俺は今から全力を出す。全力だ、全力でてめえをぶっ飛ばす」
魔神はその魔力を楽しそうに見ている。
魔神「大事なことだから三回言ったなあ。お前が儂を永遠の眠りにつかせるのか?」
ネズが拳に魔力を込め始める。あまりにも強烈なその魔力はネズの身体を軋ませ血を噴き出させる。
ネズ「ちげえよ。俺が眠る。もう、てめえぶっ飛ばしたときに命もなんも残ってなくていいから」
《page26》
○ネズの全力
笑うネズの口元
ネズ「俺の全て使い切っててめえをぶっ飛ばし、こいつらを守る」
飛び掛かってくる魔物達と魔神の触手。そして、残像を浮かべるネズの拳。
真っ黒に。
《page27》
○ネズの眠り
ネズが瞼を開ける。
ネズ「あ?」
すると、ネズにしがみ付くボロボロの隊員たちの姿。
グリ「隊長……もういい……もうやめてくれ……」
グラ「し、しな、しなないで……お願い」
プリン「死ぬなんて……げふ……絶対に許可しないんだから……!」
ライカ「許さん……絶対に許さんぞ! 隊、長……!」
ラスティ「もう、やめましょ……そんな怖い顔しないでよ」
エン「やだやだやだやだやだやだやだ……! 死んだらワタシも死ぬ」
スロウ「…………もういいんです。敵は、止まりました」
《page28》
○魔神の声
必死にネズを抑える隊員たちの向こうには、ボロボロにされながらも半身を失った魔神を支える魔物達の姿。
魔神は口から血を流しながら笑う。
魔神「ぐ、ぐふ!」
《page29》
○魔神の喜び
魔神は狂気じみた笑顔を浮かべながら叫んでいる。
魔神「ぐははははははは! すごい! すごいぞ! 人間! まさか、この神たる儂がここまで傷を負うとは! 褒美をやろう、何がいい?」
ネズは、隊員たちがずるりと落ちていくのを支えながら、眠そうな顔で呟く。
ネズ「帰れ……んで、もう寝かせてくれ」
《page30》
○魔神の力
魔神は残った方の腕を掲げ宣言する。
魔神「良いだろう! 神の名において、ネル=ノア=ダイージに素晴らしき眠りを!」
隊員たちと一緒に目を閉じながら崩れ落ちていくネズ。
ネズ(うるせえ、誰だよソイツ。っていうかな、今なら大体素晴らしい眠りなん、だよ……なんせ、一か月、寝てなかったんだから)
《page31》
○ぬかるんだ地面で眠る黒蝙蝠たち。
魔神が魔物達に支えられながら去っていく。
そして、ネズ達はぬかるんだ地面にも関わらず穏やかな表情で眠りにつく。
ネズ(こうして、俺は一か月ぶりにちゃんとした眠りについた。泥の枕とぬかるみのベッドで。俺は夢を見た。いや、夢だけど夢じゃなくなる現実の話)
《page32》
○回想終了、ベッドの上
まだクマの残る笑顔のネズが魔力溢れるままベッドで跳ねたせいで、枕やシーツが浮かび、栄養ドリンクの瓶や短時間で眠れる本、兵士たちが吹っ飛び、マシロは驚き、王子は涙目になっている。
周りには黒蝙蝠の面々の目覚める様子が。
ネズ(寝たら、無双し始める俺達の物語だ)
《page1》
○王国の兵舎 主人公ネズが第一王子ユーダケデスに追放を宣告される
ブクブクと肥えツルツルと輝いている第一王子ユーダケデスが嬉しそうに真正面に向かって指をさしている。後ろには兵士達と、白髪の美しい女騎士が睨んでいる。
ユーダケデス「『黒蝙蝠』隊長、ネズよ! お前をこの国から追放する!」
指さした先には、胸元に不機嫌そうな黒蝙蝠の紋章を付けたネズ(顔は口元だけ)、茫然と口を開けている。
部屋の汚さに対して妙に綺麗なベッドで上半身だけ起こしたネズが震えている姿越しにユーダケデス王子が得意そうに鼻を鳴らしている。
ネズ「や……!」
上から見たベッドとネズ。ベッドの横には、『眠い眠い眠い眠い眠い眠い……』と書かれた日記や『短時間で寝る方法!』という題名の本、現実世界の栄養ドリンク的なものの空瓶の山やとにかく睡眠の願望を具体化した仲間達の残骸
ネズ「やっ……!」
歴戦の戦士を思わせる傷だらけの手を握りしめるネズのどデカいクマまでが見える。
震える口元は喜びがあふれかけている。
《page2》
○主人公の喜び爆発
上からの視点ベッドに寝転びながら身体全体で喜びをあらわすネズと、それを見て驚くユーダケデス王子や白髪の女騎士、兵士達。そして、ネズの他に2人の男性隊員が居たと思わせる痕跡と、ネズのベッド周りだけ何故か大量の戦闘の痕(ネズを巡る女の闘い)が見える。
ネズは大きなクマをつけた目から大粒の涙を溢し、両手でガッツポーズ。
左手には、怪しげな紋様が浮かんでいる。
ネズ「やったぁああああああああああ! これで寝られる!」
《page3》
○逆に驚く王子たちと呆れるネズ
ユーダケデス王子たちはネズの喜びを見て目玉が飛び出る位驚いている。
ユーダケデス王子たち「なっ……!」
ネズ、眠ることのできる喜びをかみしめながら涙を流している。
ネズ(ああ……! やっと、やっと、しっかり寝られる日々が始まるんだ)
ユーダケデス王子が怒り心頭と言った顔でネズを責め立てる。
ユーダケデス「おい! ネズ、貴様自分がやったことを分かっているのか!?」
ネズがちょっと不機嫌そうに振り返る。クマがひどいので相当凶悪な顔。
ネズ「あん?」
ユーダケデス「ひぃいい! こわい!」
睨むネズと怯えるユーダケデス王子の二人の後ろから白髪の女騎士マシロが割って入ろうとする。
マシロ「おやめなさい! ネズ!」
ネズは眠そうな呆れたような目で視線を動かす。
ネズ「マシロか……」
《page4》
○【純潔】の女騎士、マシロがネズを責め立てる。
白銀の軽鎧を纏った白髪の美女マシロがネズを睨んでいる。
マシロの背後に回り込んだユーダケデスがいやらしそうな表情を、兵士たちは見惚れるような表情を浮かべている。
王国七光【純潔】のマシロ。
マシロ「ネズ! 私は貴方を許さない!」
ベッドに座り込んだネズに喰ってかかるマシロ。
マシロ「いいですか、ネズ! 貴方は仲間殺しをしたのですよ!」
ネズ「いや、殺しちゃいねーんだワ。寝不足で殺しかけたの」
マシロが腕を組みながらぷりぷり説教を垂れているのを欠伸をしながら聞くネズ。
マシロ「あなたのその凶悪顔に違わぬ、短絡的、傍若無人、失礼千万、とにかく好き勝手に暴れる貴方達の尻ぬぐいは私達がやってきました!」
ネズにぐいと迫るマシロの怒り顔も美しいがネズは無反応。
マシロ「しかし! 魔人討伐においての貴方の罪はもはや庇い切れるものではありません」
ネズ(魔人討伐、か……)
回想に入るように暗くなっていく。
《page5》
○ネズが眠るように過去を思い出そうとし始める。
ユーダケデスやマシロたちの叱責がうっすら聞こえる中、ネズは眠りにつくように回想に入り始める。
ネズ(そうだったなあ……あの、魔人討伐のおかげで俺は眠ることが出来たんだったな……ありがとう……魔人……)
マシロ「ちょっと! ネズ……! 何寝てるのよ! 無視しないでよ……こ、こほん! 寝るな! ネズ! ネズ!」
ユーダケデス「おい! ネズ! 王子の前で無礼だぞ! ネズ! ネズ!? ネズゥウウ!」
兵士達「貴様! 寝るな!」「起きろ! 大罪人!」「ネズ!」
徐々に暗くなっていく。
《page6》
○寝不足で行軍を続ける『黒蝙蝠』。夜も更け始めた王国の外れにある荒野。
下ろした瞼により真っ暗な世界の中で声が聞こえる。
グリ「隊長!」
はっと目を覚ましたネズの目の前に魔物の拳が迫る。
ネズは、欠伸を噛み殺しながら魔物の拳をうつらうつらで流し、顔を蹴り上げる。
ネズ「眠い……」
そのまま顔を蹴り上げた魔物を凶悪な顔で投げ飛ばす。投げ飛ばされた魔物は悲しそうな顔で飛んで、他の魔物にぶつかる。
ネズ「眠いんだよぉおおおおおお!」
疲れ果てて溜息を吐くネズがちらりと前方を見る。
ネズ「にしてもよお……多すぎだろ」
《page7》
○圧倒的数量で絶望感を煽る魔人の軍勢
ネズの視線の先には、悪夢のような数の魔人の軍勢が並んでいる。
ネズ「魔人のやつ、どんだけ魔物連れて来てんだよ」
溜息つくネズの後ろで、青紫髪の男が苦笑を浮かべている。
グリ「隊長が、考えなしに突っ込んでいくからだろ」
不機嫌そうに隣の青紫髪の細身の男に振り返りながら呟くネズ。その背後から魔物が二体襲い掛かってきている。
ネズ「うるせえよ、グリ。考えなんて持てるか」
ネズとグリが獣のような目で魔物に向かっていく。
《page8》
○黒蝙蝠のグリとネズ
魔物は憤怒の化身となった二人に思い切り顔を掴まれ驚愕の表情を浮かべる。
魔物達「……!」
メキメキと音を立てさせながら疲れ果てた表情で怒っているグリ。
こぼれる八重歯が凶悪さを際立たせている。細身で腕は震えているがそれはストレスの為、巨体の魔物を軽々と持ち上げている。
グリ「へいへい……」
グリは魔物を掴んだまま空いた手で頭を掻いてとぼとぼをネズから離れる。
グリ「まあー……正直眠すぎて頭……」
ギラリと八重歯が輝く。
《page9》
○ネズとグリの睡眠不足怒りのコンビネーション
グリが思い切り振りかぶって魔物を投げつけようとする。
グリ「回んねえよなあぁああああ!」
その先にいるのは同じように魔物を掴んでいたネズ。
グリ「おらぁああああああああああ!」
ネズもまたにやりと笑い、魔物を投げつける。
ネズ「そう言う事だオラアアアアアアアアア!」
ぶちゅんと潰れる魔物の血の雨を浴びながら、グリが後方を振り返る。
それに気付いたローブ姿のふくよかな少女。
グリ「おい、オレと隊長だけじゃなくて、オメーも働けよ、グラ」
《page10》
○黒蝙蝠のグラ
両手いっぱいにオークの骨付き肉を持ってかぶりつきながら謝る赤紫髪を三つ編みにした女魔法使い。両手は塞がっているが、魔力で生み出した口のようなモノ達が魔物を喰らい尽くしている。
グラ「ごふ……! ご、ごべえん」
グリとネズが話しながら魔物を殺し続けている。
ネズ「おい、グリ。あんま自分の妹いじめんなよ」
グリ「だって、アイツ。絶対運動不足ですよ」
美味しそうに肉を頬張るグラの元に、二人のすらりとした女性、鎧とドレスが近寄ってくる。
ライカ「グラ、お前はいつも食べ過ぎなのだ……! 身体を壊しても知らんぞ! もっと体を鍛えろ!」
プリン「下品な筋肉女、いらいらしすぎよ! さっきからうるさい! 世界一繊細なワタクシの耳が潰れてしまうじゃない!」
《page11》
○女騎士ライカと魔法令嬢プリン
金髪をポニーテールに纏めた女騎士ライカは雷を纏わせた剣でプリン側にいる魔物を切り上げながら、ブロンドの緩いウェーブがかった髪でドレスに近いローブ姿のプリンは扇で起こした風でライカ側にいる魔物を吹き飛ばしながら互いを睨んでいる。
ライカ・プリン「「はあぁあああ?!」」
もそもそとそれでも新しいオーク肉にかぶりつき始めるグラ。
グラ「ごめぇん。わたしも最近身体が重くてなんか落ち着かなくて……」
二人シンクロして、グラをしかりつける。
ライカ・プリン「「食べるのをやめろ(やめなさい)!」」
グラ「ぴゃい!」
《page12》
○闇の呪術師エンと、舞姫ラスティ
真っ黒な服を着たスレンダーでとても長い黒髪の少女は男(ネズ)に迫りながら、その向こうにいる誰かにぼそりと呟いている。
「おい、離れろ。色ボケババア」
向こうにいた桃色髪をアップにした豊満で露出度の高い踊り子の服を着た女が男(ネズ)の逆側で身体を押し付けて妖艶に笑っている。
「ガキは黙りなさいな」
ネズについた魔物の血を拭きとろうとハンカチ(何故か今日の日付と一緒に『ネズ隊長の血』と血文字で書かれている)を差し出しているエンと、身体を押し付けながら指先で血を拭うラスティ。その間に挟まれて呆れているネズと、さらにその背後には、エン側の奥には真っ黒に染め上げられ恐怖の表情で積み重ねられた魔物達、ラスティ側には目をハートにし、鼻から血を流し身体中に鞭のような跡が付けられて山となっている魔物達。
ネズを挟んで言い合う二人。
エン「ワタシと違って年寄りなんだから、寝不足で肌荒れヤバいぞ、ババア」
ラスティ「あんたこそ、目のクマひどいわよ~。あたしと違って陰気な顔なのに」
睨み合う二人に挟まれながらネズが遠くに呼びかける。
ネズ「おい、ウチの頭脳。なんとかしろ」
ソリに寝転がっている青年の口元。
スロウ「それ、ボクに言ってる?」
《page13》
〇黒蝙蝠の頭脳スロウ
ネズの腰に巻かれたロープ。その先にはソリが。そして、そのソリには灰色髪の青年が寝転がって弱弱しく笑いながら手をひらひらさせている。その周りには生き埋めにされた魔物たち。
スロウ「無理無理。もう疲れて頭回んない。明日頑張るよ」
ロープを引っ張りながらじとーっとスロウを睨みつけるネズ。
ネズ「明日生きてたら絶対やれよ」
スロウの乗ったソリが引っ張られたことで空いた地面を殴りつける魔物。
スロウ「生きてたらねえ」
手に石で出来た鋲のようなものが刺さって泣き叫ぶ魔物とそれを背後に感じているスロウ。
スロウ「この絶望的な状況で。こんなの七光でも無理だよねえ」
スロウのソリを抱えて魔物を蹴り飛ばすネズ。
ネズ「七光、ねえ」
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〇王国の英雄七光
マシロとシルエットの6人の姿が浮かんでいる。
ナレーション「【七光】ネルナハ=タラケ王国が誇る七人の精鋭であり、それぞれが人並外れた力を持っている。そして、ネルナハ=タラケ王国では、マシロを除く6人はそれぞれに領地を持ち、自治が認められている。一方-
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〇王国の雑用【黒蝙蝠】
血と汚れに塗れた黒蝙蝠の面々が凶悪犯顔で暴れている。
ナレーション「ネルナ=ハタラケ王国特務部隊【黒蝙蝠】。国が誇り脚光を浴びる【七光】とは違い、汚れ役を一手に担う。劣悪な環境、不利な状況、絶望的な戦場、そういったところにまず投げ込まれるのが
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〇黒蝙蝠の進軍。
ソリで寝ころびながら笑顔で説明をしているスロウ。
スロウ「それが【黒蝙蝠】なのだ」
ソリを引きながら後ろのスロウを見るネズ。
ネズ「おい、眠くなるような説明入れてくんじゃねえよ」
スロウ「いやあ、だって事実でしょ」
ネズ(スロウの言うとおりだ。今回の命令も、万に近い数の魔物を、七光がたどり着くまで足止めをしろという命令だった)
ネズ(はあ?)
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〇ネズの怒れる脳内
ネズの眠気と怒りが画面にいっぱいに溢れる。
ふざけんなできるわけねえだろというかなんで俺達が先行して足どめする必要がある七光だったら俺たちとちがって待機が仕事みたいに今なってんだからすぐにいけるだろうがすこしでも削らせて楽しようとしてんじゃねえよ国のいち大事だろうが意みわかってねえのか馬かが馬鹿が馬かがばかがこちとら不眠ふきゅうで移どうしてたたかってんだばかやろうああねむいくそふざけんないつもいつもこっちがなんとかなりそうな状きょうになったらよびもどして七光にいかせてなんだあのタイミングどっかでみてんのかきもいきもいきもいあーねむいねむいねむいふざけんなくそがまものへらねえなおいいつまでたたかえばいいんだよはらへったくさいしんどいいらいらする。
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〇ぬかるみを歩くネズに襲い来る影
ネズが全部喋っていることに対し笑うグリ。
ネズ「しんどいいらいらする」
グリ「隊長、全部声に出てんぞ」
ふらふらと意識を失いそうで笑っているネズ。横から伸びてくる触手に気づかない。
ネズ「まあ、別にいいだろ。どうせこのまんまなら俺死ぬだろう、」
横から黒い触手が襲い掛かって来ることにようやく気付くネズ。
ネズ「しっ……!?」
濃いクマが浮かぶ目を見開きなんとか体を動かそうとするネズ。
ネズ(全然気づけなかった! くそ! どんだけぼーっとしてたんだ!)
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〇倒れてぬかるみに突っ込むネズ
スロウとグリの目が鋭くネズをとらえる。
腰の縄が少し揺れ、ネズの身体を押すグリの手、ふらついて定まらない足元。
ネズがぬかるみに倒れ込む。触手が通り過ぎ、黒い雫(血)が跳ねる。
ネズ「ぶべっ!」
ぬかるみから泥だらけの顔を上げるネズ。
ネズ「あー、あぶ、ね……」
ネズの顔に触手突き刺さる二つの影が浮かび、ネズの目が再び見ひらかれる。
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〇黒蝙蝠の危機
ネズの視線の先には、腹を貫かれたグリと肩から血を流すスロウ。
さっきまでピンと張っていたロープも今はだらりと垂れている。
振り返ると、他の面々も全員倒れている。
魔神「はっはっは! 無様に地面に寝転んで無事とは運のよい奴だ」
ネズが深いクマを作った目で睨みつける。
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○魔神が大勢の魔物を引き連れて笑っている。
青い肌の魔神が赤い血の付いた触手を揺らめかせながらこっちを見て笑っている。
後ろには大勢の魔物。
その様子を寝ころんだまま見ているネズ。
魔神は余裕の表情を浮かべながら笑う。
魔神「さてさて、噂に聞くネルナハ王国の強者とはいかほどかと思ったが、つまらんなあ……やはり、人間は全員永久の眠りにつくべきか……」
ネズの口元。怒りが溢れている。
ネズ「うるせえ」
ぐっと拳に力を入れ泥を握りしめるネズ。
《page22》
○起き上がるネズ。
一度地面に顔を置いて瞼を閉じているネズだったが、手は固く拳が作られ、脚は震えながらも地面を踏みしめようとしていた。
ネズ(寝たいけどこういうんじゃねえんだよ)
起き上がるネズを見ながら魔神は笑う。
魔神「ほう……」
ネズ(俺は)
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○魔神を睨みつけ戦う意思を見せるネズ
ネズはボロボロで泥だらけの身体を震わせながら立ち上がる。
目も充血しており、クマもひどく疲労の色は濃いが、強い意志を感じさせる。
ネズ「ちゃんと気持ちよく眠りたいんだよ、馬鹿ヤローが」
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○嵐の前の静けさの中で向かい合う二人
向かい合う二人の会話が重ねられていく。
魔神「おお! 立ったか、いいぞいいぞ!」
ネズ「でけえ声出すな。頭いてえんだよ……もういい、もういい、もういい」
魔神「何故三回言った?」
ネズ「大事なことだからな、てめえのその性能低そうな耳にちゃんと届ける為にだよ」
魔神「ほほう……では、何がもういいのだ?」
ネズ「さっき永遠の眠りっつったよな。てめえにはさせねえよ。俺がやる」
魔神「ほお、お前が……」
《page25》
○ネズの本気
ネズがじいっと見つめている。身体中から魔力が溢れている。
ネズ「俺は今から全力を出す。全力だ、全力でてめえをぶっ飛ばす」
魔神はその魔力を楽しそうに見ている。
魔神「大事なことだから三回言ったなあ。お前が儂を永遠の眠りにつかせるのか?」
ネズが拳に魔力を込め始める。あまりにも強烈なその魔力はネズの身体を軋ませ血を噴き出させる。
ネズ「ちげえよ。俺が眠る。もう、てめえぶっ飛ばしたときに命もなんも残ってなくていいから」
《page26》
○ネズの全力
笑うネズの口元
ネズ「俺の全て使い切っててめえをぶっ飛ばし、こいつらを守る」
飛び掛かってくる魔物達と魔神の触手。そして、残像を浮かべるネズの拳。
真っ黒に。
《page27》
○ネズの眠り
ネズが瞼を開ける。
ネズ「あ?」
すると、ネズにしがみ付くボロボロの隊員たちの姿。
グリ「隊長……もういい……もうやめてくれ……」
グラ「し、しな、しなないで……お願い」
プリン「死ぬなんて……げふ……絶対に許可しないんだから……!」
ライカ「許さん……絶対に許さんぞ! 隊、長……!」
ラスティ「もう、やめましょ……そんな怖い顔しないでよ」
エン「やだやだやだやだやだやだやだ……! 死んだらワタシも死ぬ」
スロウ「…………もういいんです。敵は、止まりました」
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○魔神の声
必死にネズを抑える隊員たちの向こうには、ボロボロにされながらも半身を失った魔神を支える魔物達の姿。
魔神は口から血を流しながら笑う。
魔神「ぐ、ぐふ!」
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○魔神の喜び
魔神は狂気じみた笑顔を浮かべながら叫んでいる。
魔神「ぐははははははは! すごい! すごいぞ! 人間! まさか、この神たる儂がここまで傷を負うとは! 褒美をやろう、何がいい?」
ネズは、隊員たちがずるりと落ちていくのを支えながら、眠そうな顔で呟く。
ネズ「帰れ……んで、もう寝かせてくれ」
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○魔神の力
魔神は残った方の腕を掲げ宣言する。
魔神「良いだろう! 神の名において、ネル=ノア=ダイージに素晴らしき眠りを!」
隊員たちと一緒に目を閉じながら崩れ落ちていくネズ。
ネズ(うるせえ、誰だよソイツ。っていうかな、今なら大体素晴らしい眠りなん、だよ……なんせ、一か月、寝てなかったんだから)
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○ぬかるんだ地面で眠る黒蝙蝠たち。
魔神が魔物達に支えられながら去っていく。
そして、ネズ達はぬかるんだ地面にも関わらず穏やかな表情で眠りにつく。
ネズ(こうして、俺は一か月ぶりにちゃんとした眠りについた。泥の枕とぬかるみのベッドで。俺は夢を見た。いや、夢だけど夢じゃなくなる現実の話)
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○回想終了、ベッドの上
まだクマの残る笑顔のネズが魔力溢れるままベッドで跳ねたせいで、枕やシーツが浮かび、栄養ドリンクの瓶や短時間で眠れる本、兵士たちが吹っ飛び、マシロは驚き、王子は涙目になっている。
周りには黒蝙蝠の面々の目覚める様子が。
ネズ(寝たら、無双し始める俺達の物語だ)