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○龍人族の村 夜中
巨大な魔法陣が村全体を覆い尽くした。村の外周を人間の兵士たちが囲っている。
次の瞬間、国軍最強の兵士:クライゼンの号令によって、兵士たちが村の中へ侵入していった。
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クライゼン「殺せ! 殺せ! やつらの龍人化の魔法は完全に封じた! 今の龍人族は、最早、魔力のない弱き人間である!」
うおおおおお! 人間族の兵士たちの雄叫び。魔法や剣が飛び交う。寝静まった村が一気に騒がしくなる。騒がしくなって、村民たちが飛び起きるが、時すでに遅し。
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虐殺と悲鳴。凄惨な映像が映し出される。
龍人族「なぜ、なぜですか! 私たちは静かに暮らしているだけなのに!」
人間族「うるさい! 貴様らは……害獣だ!」
無抵抗の龍人族を雷の纏った剣で切り捨てる人間族。
龍人族「仕方ない。龍化しよう……人間族たちに落ち着いてもらわねば」
龍人族が全身に力を込めて何かを起こそうとする。が、何も怒らない。
人間族「無駄だ! お前らの力はクライゼン様が封じた!」
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○凄惨な現場の中。ゲンジが走っている。目には涙を浮かべている。
父と母が自分の盾になり、命を賭して自分を逃がしてくれた。その映像が思い浮かんでしまう。
ゲンジ「エミリアは……フランは!」
叫びながら、この村で家族と同じくらいに大切な存在の元へ向かう。
塀の前に立つゲンジ。いつものようにハイジャンプを試みるが、飛べない。
ゲンジ「なんで、なんで飛び越えられないんだよ!」
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人間族「まだまだ殺すぞ! 隠れている奴らも皆殺しだ!」
人間族の兵士が近くの道を走り抜けていった。息を呑んで、エミリア屋敷の門の影に隠れるゲンジ。
ゲンジ「あ……」
門が開いていることに気づくゲンジ。ゆっくりと中に侵入する。
侵入して、すぐさま走り出すゲンジ。屋敷の中はひどく荒らされている。死体もある。不安な表情のゲンジ。
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○エミリアの部屋。星の明かりが殆ど届かない殆ど暗闇の部屋
ゲンジ「エミリア!」
エミリアの部屋に駆け込んでくるゲンジ。
ゲンジ「エミリア? いないのか!?」
泣き出しそうな顔と声。暗闇の中を、必死に目をこらしながら、手探りながら、姿を探す。
エミリア「ゲ……ンジくん。ここ……」
声だけが聞こえる。その方向を向き……ゲンジは床で倒れこんでいるエミリアを見つけた。
ゲンジ「エミリア!」
エミリア「あは……こんな時に遊びに来たの? ゲンジくん」
首を持ち上げて、ゲンジを見上げるエミリア。その目は霞んでいるようだ。
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ゲンジ「エミリア、ふざけてる場合じゃないぞ! 人間族が攻めて来たんだ! 一緒に逃げよう!」
エミリア「知ってるよ……1番先に、私のとこ、来てくれたからね」
あはは、と笑うエミリア。
エミリア「友達に、なろうとしたけどね……ダメだった」
ゲンジ「エミリア……?」
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ゲンジ「あっ……あ……!」
ゲンジは気づいてしまう。暗闇の中。¬¬エミリアの下半身がない。
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ゲンジ「えみ……あし、が」
怪我をしない龍人族。しかし、ゲンジは今日の経験からエミリアの死を確信する
エミリア「見ないで! ゲンジくん。私の顔だけ見て」
ゲンジは涙を流した。大泣きしたいくらいの顔。でもエミリアのために必死に耐え、エミリアの顔をまっすぐ見つめる。
エミリアが涙を流す。
エミリア「ねぇ、なにがいけなかったのかな……? なんで、人間族と友達になれなかったのかな……?」
ゲンジ「なんでだよ、なんでなんだよ。エミリア……!」
エミリアの問いに答えることができずに、逆に聞き返してしまうゲンジ。
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エミリア「ゲンジくん……お願い。私の代わりに答えを探して……? 私の代わりに、人間族と友達になって……?」
力なく、ゆっくりとゲンジに向かって手を差し出すエミリア。その手を両手で握るゲンジ。
ゲンジの手に魔法陣が描かれる。
ゲンジ「わ、わかったよ! 俺が、人間族と友達になる……!」
エミリア「本当に、素直で優しい……大好きだよ、ゲンジくん」
ゲンジ「お、俺もだ……エミリアに死んでほしくない……!」
エミリア「私はもうダメ。行って……ゲンジくん」
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エミリア「そこにいるフランを連れて。逃げて」
エミリアが手を動かすと、押入れの戸がゆっくりと開く。その中に、赤ん坊のフランがいた。
ゲンジ「いやだ……! エミリア……」
涙を目にいっぱい溜め、首を横に振るゲンジ。
エミリア「お願い。このままでは3人とも殺される。……フランを助けてあげて」
エミリアの懇願。ゲンジは息を吐いて立ち上がった。
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フランを抱きかかえ、その場を後にするゲンジは、もう後ろを振り返らない。
エミリアは笑顔でその背中を見送った。
エミリア「ゲンジくん……ありがとう。助けてくれて、ありがとう」
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○屋敷の外
人間族の兵士は未だに村を破壊する。その映像。
ゲンジは何かに気づいたような表情をする。そして次の瞬間に、エミリア屋敷の塀を飛び越えた。
ゲンジ「ジャンプできた……」
そうして、そのまま、龍人族のトップスピードで、村を脱出して行った。エミリアの掛けた魔法陣がゲンジの右手に光っていた。
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○テルウスの森 川沿い
おぎゃあ、おぎゃあと泣くフラン。それを優しく両腕で包み込んでいるゲンジ。
ゲンジ「フラン。俺がエミリアの代わりにお前を守るよ」
ゲンジの目にも涙が浮かんでいる。
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ゲンジ「そっか……じゃあ、俺はこいつの兄貴か」
ゲンジ「こいつが成人するまでは、この森で、ゆっくり暮らそう。……フランが成人したら……人間族の友達を作りに行こうか」
ゲンジ、空を見上げる。星々が輝いていた。
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○回想終了。 宿の部屋
コップの中の氷がすっかり溶けている。時間経過がわかる。
エクト「そうか……君は、龍人族の……」
ゲンジ「おっと、龍にはなれねぇから、安心しろよ」
両手を上げて降参のポーズをするゲンジ。
エクト「そうなのか?」
ゲンジ「あー、なんか……あの日から龍化できなくなったんだよな。なんでか知らんけど」
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エクトはなんとも言えない表情をしている。
エクト「12年前の……龍人族……駆除」
ゲンジ「駆除かぁ……そう言われてたのか」
ゲンジが珍しく苦笑いを浮かべた。エクトは慌てて訂正する。
エクト「あ、あくまで、あの出来事がそう呼ばれてるだけだよ。人間族がみんな、龍人族を害獣みたいに思っているわけじゃないから」
ゲンジ「そうだと助かるぜ」
2人の間に沈黙が流れる。
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エクト「話してくれてありがとう。話しにくい話題だったろうに……」
ゲンジ「いやー別に! もう忘れてきた事件だしな」
笑うゲンジ。気まずい表情のエクト。
エクト「人間族が憎くないのか……?」
ゲンジ「……許すことなんだと思うぜ」
エクトの問いかけに対して、的を射ない回答をするゲンジ。しかし、表情は真剣。
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ゲンジ「許さないと、次に進めねぇよ」
何か、固く決心している様子のゲンジ。
エクト「許す……か」
エクト(…………)
エクトが何かを考えるようなコマを置いて、
エクト「人間族はそれができなかったんだな」
なんのことを言っているのだろう。という表情をするゲンジ。
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エクト「君の生まれる前。20年前。ある龍人族の男が、人間族の街を連続で襲撃した。大量の被害者……死者」
怒りとも憎しみとも取れる表情のエクト。対して、ゲンジは激しく首を横に振る。
ゲンジ「そんなバカな! だって、村の掟で、人間族とは接触してはいけないって。だから、みんな……あの村で畑を耕して、のんびり暮らしてたんだぞ」
エクト「そうらしいね。……でも居たんだよ。人間族の世界に潜伏した龍人が。掟破りの龍がね」
邪悪そうな龍の絵が背景に映る。
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エクト「僕とセレンの両親は、その龍のせいで死んでしまった」
ゲンジ「まじかよ……」
ゲンジ。ショックのあまりに項垂れる。
ゲンジ「そうか……そりゃあ、人間族が龍人族を敵視したのも、無理ねぇか。……なにが『許す』だよ……なんで勝手に『許す側』に回ってんだよ」
エクト。そんなゲンジを見て悲しそうな顔をする。
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ゲンジ「エクト……俺が龍人族だってわかって、嫌いになったか?」
エクト「そんなことない……そんなことないよ。ゲンジは僕の恩人で……良い奴だ」
ゲンジ。顔を上げる。少し泣きそうな顔になっている。
エクト「ゲンジ。さっき君は『許す』って言ったよね」
ゲンジ。顔を伏せて、小さく頷く。
エクト「それで、良いんだと思う。『許し合おう』よ。そして、また1から絆を築いていこう。掟破りの龍が壊した絆を……君が龍人族の代表として、再生していけば良いんだよ」
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泣いているゲンジの背中を撫でるエクト。
ゲンジ「俺……人間族と喧嘩したいわけじゃねぇんだ……! エミリアがそうしたみたいに……人間族と友達になりたいんだよっ……! 森の中で、2人きりで10年……寂しかったから! エクトに出会った時、嬉しかったから!」
エクト「なれるさ。君の優しさがあればね」
2人を俯瞰する絵。
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○時間経過を表すコマ
エクト「そういえば、フランちゃん……遅すぎないか?」
立ち上がり、心配そうにキョロキョロするエクト。
ゲンジ「初めての温泉にテンション上がりすぎてるだけなんじゃねぇの」
かかか。と笑うゲンジは少し立ち直った模様。
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○時間経過のコマ
2人「流石に遅すぎる!」「いや遅すぎんだろ!」
両者とも慌てふためきながら部屋を後にした。
宿の中を走る2人。エクトが先頭。温泉の入り口まで到着する。
エクト「どうしよう……」
女湯と示された入り口の前でエクトは立ち止まる……
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ゲンジ「こっちが女用か! フランー!」
が、ゲンジは何も気にすることなく入って行ってしまった。エクト、目玉が飛び出る勢い。
––しばらくして、ゲンジが帰ってくる。
ゲンジ「中にはいなかった! 服もない!」
エクト「そ、そうか! ありがとう!」
なぜか礼を言ってしまうエクト。
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突如として、コウモリ型のモンスターが2人の元へ飛んでくる。飛んできたと思いきや、目の前で爆破した。
––紙切れが1枚、落ちてくる。
エクトがそれを拾い上げて、読み上げる。
『少女は預かった。返して欲しければ、レウニスの角を持って、【マニメント・モニメン】のアジトまで来い』
2人は険しい顔を見合わせた。
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戦闘用の服に着替える2人。
エクト「行こう!」
ゲンジ「おうよ!」
さらなる絆が芽生えた2人。フランの救出に向かうのだった。
○龍人族の村 夜中
巨大な魔法陣が村全体を覆い尽くした。村の外周を人間の兵士たちが囲っている。
次の瞬間、国軍最強の兵士:クライゼンの号令によって、兵士たちが村の中へ侵入していった。
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クライゼン「殺せ! 殺せ! やつらの龍人化の魔法は完全に封じた! 今の龍人族は、最早、魔力のない弱き人間である!」
うおおおおお! 人間族の兵士たちの雄叫び。魔法や剣が飛び交う。寝静まった村が一気に騒がしくなる。騒がしくなって、村民たちが飛び起きるが、時すでに遅し。
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虐殺と悲鳴。凄惨な映像が映し出される。
龍人族「なぜ、なぜですか! 私たちは静かに暮らしているだけなのに!」
人間族「うるさい! 貴様らは……害獣だ!」
無抵抗の龍人族を雷の纏った剣で切り捨てる人間族。
龍人族「仕方ない。龍化しよう……人間族たちに落ち着いてもらわねば」
龍人族が全身に力を込めて何かを起こそうとする。が、何も怒らない。
人間族「無駄だ! お前らの力はクライゼン様が封じた!」
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○凄惨な現場の中。ゲンジが走っている。目には涙を浮かべている。
父と母が自分の盾になり、命を賭して自分を逃がしてくれた。その映像が思い浮かんでしまう。
ゲンジ「エミリアは……フランは!」
叫びながら、この村で家族と同じくらいに大切な存在の元へ向かう。
塀の前に立つゲンジ。いつものようにハイジャンプを試みるが、飛べない。
ゲンジ「なんで、なんで飛び越えられないんだよ!」
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人間族「まだまだ殺すぞ! 隠れている奴らも皆殺しだ!」
人間族の兵士が近くの道を走り抜けていった。息を呑んで、エミリア屋敷の門の影に隠れるゲンジ。
ゲンジ「あ……」
門が開いていることに気づくゲンジ。ゆっくりと中に侵入する。
侵入して、すぐさま走り出すゲンジ。屋敷の中はひどく荒らされている。死体もある。不安な表情のゲンジ。
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○エミリアの部屋。星の明かりが殆ど届かない殆ど暗闇の部屋
ゲンジ「エミリア!」
エミリアの部屋に駆け込んでくるゲンジ。
ゲンジ「エミリア? いないのか!?」
泣き出しそうな顔と声。暗闇の中を、必死に目をこらしながら、手探りながら、姿を探す。
エミリア「ゲ……ンジくん。ここ……」
声だけが聞こえる。その方向を向き……ゲンジは床で倒れこんでいるエミリアを見つけた。
ゲンジ「エミリア!」
エミリア「あは……こんな時に遊びに来たの? ゲンジくん」
首を持ち上げて、ゲンジを見上げるエミリア。その目は霞んでいるようだ。
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ゲンジ「エミリア、ふざけてる場合じゃないぞ! 人間族が攻めて来たんだ! 一緒に逃げよう!」
エミリア「知ってるよ……1番先に、私のとこ、来てくれたからね」
あはは、と笑うエミリア。
エミリア「友達に、なろうとしたけどね……ダメだった」
ゲンジ「エミリア……?」
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ゲンジ「あっ……あ……!」
ゲンジは気づいてしまう。暗闇の中。¬¬エミリアの下半身がない。
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ゲンジ「えみ……あし、が」
怪我をしない龍人族。しかし、ゲンジは今日の経験からエミリアの死を確信する
エミリア「見ないで! ゲンジくん。私の顔だけ見て」
ゲンジは涙を流した。大泣きしたいくらいの顔。でもエミリアのために必死に耐え、エミリアの顔をまっすぐ見つめる。
エミリアが涙を流す。
エミリア「ねぇ、なにがいけなかったのかな……? なんで、人間族と友達になれなかったのかな……?」
ゲンジ「なんでだよ、なんでなんだよ。エミリア……!」
エミリアの問いに答えることができずに、逆に聞き返してしまうゲンジ。
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エミリア「ゲンジくん……お願い。私の代わりに答えを探して……? 私の代わりに、人間族と友達になって……?」
力なく、ゆっくりとゲンジに向かって手を差し出すエミリア。その手を両手で握るゲンジ。
ゲンジの手に魔法陣が描かれる。
ゲンジ「わ、わかったよ! 俺が、人間族と友達になる……!」
エミリア「本当に、素直で優しい……大好きだよ、ゲンジくん」
ゲンジ「お、俺もだ……エミリアに死んでほしくない……!」
エミリア「私はもうダメ。行って……ゲンジくん」
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エミリア「そこにいるフランを連れて。逃げて」
エミリアが手を動かすと、押入れの戸がゆっくりと開く。その中に、赤ん坊のフランがいた。
ゲンジ「いやだ……! エミリア……」
涙を目にいっぱい溜め、首を横に振るゲンジ。
エミリア「お願い。このままでは3人とも殺される。……フランを助けてあげて」
エミリアの懇願。ゲンジは息を吐いて立ち上がった。
Page 14
フランを抱きかかえ、その場を後にするゲンジは、もう後ろを振り返らない。
エミリアは笑顔でその背中を見送った。
エミリア「ゲンジくん……ありがとう。助けてくれて、ありがとう」
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○屋敷の外
人間族の兵士は未だに村を破壊する。その映像。
ゲンジは何かに気づいたような表情をする。そして次の瞬間に、エミリア屋敷の塀を飛び越えた。
ゲンジ「ジャンプできた……」
そうして、そのまま、龍人族のトップスピードで、村を脱出して行った。エミリアの掛けた魔法陣がゲンジの右手に光っていた。
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○テルウスの森 川沿い
おぎゃあ、おぎゃあと泣くフラン。それを優しく両腕で包み込んでいるゲンジ。
ゲンジ「フラン。俺がエミリアの代わりにお前を守るよ」
ゲンジの目にも涙が浮かんでいる。
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ゲンジ「そっか……じゃあ、俺はこいつの兄貴か」
ゲンジ「こいつが成人するまでは、この森で、ゆっくり暮らそう。……フランが成人したら……人間族の友達を作りに行こうか」
ゲンジ、空を見上げる。星々が輝いていた。
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○回想終了。 宿の部屋
コップの中の氷がすっかり溶けている。時間経過がわかる。
エクト「そうか……君は、龍人族の……」
ゲンジ「おっと、龍にはなれねぇから、安心しろよ」
両手を上げて降参のポーズをするゲンジ。
エクト「そうなのか?」
ゲンジ「あー、なんか……あの日から龍化できなくなったんだよな。なんでか知らんけど」
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エクトはなんとも言えない表情をしている。
エクト「12年前の……龍人族……駆除」
ゲンジ「駆除かぁ……そう言われてたのか」
ゲンジが珍しく苦笑いを浮かべた。エクトは慌てて訂正する。
エクト「あ、あくまで、あの出来事がそう呼ばれてるだけだよ。人間族がみんな、龍人族を害獣みたいに思っているわけじゃないから」
ゲンジ「そうだと助かるぜ」
2人の間に沈黙が流れる。
Page 20
エクト「話してくれてありがとう。話しにくい話題だったろうに……」
ゲンジ「いやー別に! もう忘れてきた事件だしな」
笑うゲンジ。気まずい表情のエクト。
エクト「人間族が憎くないのか……?」
ゲンジ「……許すことなんだと思うぜ」
エクトの問いかけに対して、的を射ない回答をするゲンジ。しかし、表情は真剣。
Page 21
ゲンジ「許さないと、次に進めねぇよ」
何か、固く決心している様子のゲンジ。
エクト「許す……か」
エクト(…………)
エクトが何かを考えるようなコマを置いて、
エクト「人間族はそれができなかったんだな」
なんのことを言っているのだろう。という表情をするゲンジ。
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エクト「君の生まれる前。20年前。ある龍人族の男が、人間族の街を連続で襲撃した。大量の被害者……死者」
怒りとも憎しみとも取れる表情のエクト。対して、ゲンジは激しく首を横に振る。
ゲンジ「そんなバカな! だって、村の掟で、人間族とは接触してはいけないって。だから、みんな……あの村で畑を耕して、のんびり暮らしてたんだぞ」
エクト「そうらしいね。……でも居たんだよ。人間族の世界に潜伏した龍人が。掟破りの龍がね」
邪悪そうな龍の絵が背景に映る。
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エクト「僕とセレンの両親は、その龍のせいで死んでしまった」
ゲンジ「まじかよ……」
ゲンジ。ショックのあまりに項垂れる。
ゲンジ「そうか……そりゃあ、人間族が龍人族を敵視したのも、無理ねぇか。……なにが『許す』だよ……なんで勝手に『許す側』に回ってんだよ」
エクト。そんなゲンジを見て悲しそうな顔をする。
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ゲンジ「エクト……俺が龍人族だってわかって、嫌いになったか?」
エクト「そんなことない……そんなことないよ。ゲンジは僕の恩人で……良い奴だ」
ゲンジ。顔を上げる。少し泣きそうな顔になっている。
エクト「ゲンジ。さっき君は『許す』って言ったよね」
ゲンジ。顔を伏せて、小さく頷く。
エクト「それで、良いんだと思う。『許し合おう』よ。そして、また1から絆を築いていこう。掟破りの龍が壊した絆を……君が龍人族の代表として、再生していけば良いんだよ」
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泣いているゲンジの背中を撫でるエクト。
ゲンジ「俺……人間族と喧嘩したいわけじゃねぇんだ……! エミリアがそうしたみたいに……人間族と友達になりたいんだよっ……! 森の中で、2人きりで10年……寂しかったから! エクトに出会った時、嬉しかったから!」
エクト「なれるさ。君の優しさがあればね」
2人を俯瞰する絵。
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○時間経過を表すコマ
エクト「そういえば、フランちゃん……遅すぎないか?」
立ち上がり、心配そうにキョロキョロするエクト。
ゲンジ「初めての温泉にテンション上がりすぎてるだけなんじゃねぇの」
かかか。と笑うゲンジは少し立ち直った模様。
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○時間経過のコマ
2人「流石に遅すぎる!」「いや遅すぎんだろ!」
両者とも慌てふためきながら部屋を後にした。
宿の中を走る2人。エクトが先頭。温泉の入り口まで到着する。
エクト「どうしよう……」
女湯と示された入り口の前でエクトは立ち止まる……
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ゲンジ「こっちが女用か! フランー!」
が、ゲンジは何も気にすることなく入って行ってしまった。エクト、目玉が飛び出る勢い。
––しばらくして、ゲンジが帰ってくる。
ゲンジ「中にはいなかった! 服もない!」
エクト「そ、そうか! ありがとう!」
なぜか礼を言ってしまうエクト。
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突如として、コウモリ型のモンスターが2人の元へ飛んでくる。飛んできたと思いきや、目の前で爆破した。
––紙切れが1枚、落ちてくる。
エクトがそれを拾い上げて、読み上げる。
『少女は預かった。返して欲しければ、レウニスの角を持って、【マニメント・モニメン】のアジトまで来い』
2人は険しい顔を見合わせた。
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戦闘用の服に着替える2人。
エクト「行こう!」
ゲンジ「おうよ!」
さらなる絆が芽生えた2人。フランの救出に向かうのだった。