Page 1

○龍人族の村 夜中

巨大な魔法陣が村全体を覆い尽くした。村の外周を人間の兵士たちが囲っている。

次の瞬間、国軍最強の兵士:クライゼンの号令によって、兵士たちが村の中へ侵入していった。

Page 2

クライゼン「殺せ! 殺せ! やつらの龍人化の魔法は完全に封じた! 今の龍人族は、最早、魔力のない弱き人間である!」

うおおおおお! 人間族の兵士たちの雄叫び。魔法や剣が飛び交う。寝静まった村が一気に騒がしくなる。騒がしくなって、村民たちが飛び起きるが、時すでに遅し。

Page 3-4

虐殺と悲鳴。凄惨な映像が映し出される。

龍人族「なぜ、なぜですか! 私たちは静かに暮らしているだけなのに!」

人間族「うるさい! 貴様らは……害獣だ!」

無抵抗の龍人族を雷の纏った剣で切り捨てる人間族。

龍人族「仕方ない。龍化しよう……人間族たちに落ち着いてもらわねば」

龍人族が全身に力を込めて何かを起こそうとする。が、何も怒らない。

人間族「無駄だ! お前らの力はクライゼン様が封じた!」


Page 5-6

○凄惨な現場の中。ゲンジが走っている。目には涙を浮かべている。

父と母が自分の盾になり、命を賭して自分を逃がしてくれた。その映像が思い浮かんでしまう。

ゲンジ「エミリアは……フランは!」

叫びながら、この村で家族と同じくらいに大切な存在の元へ向かう。

塀の前に立つゲンジ。いつものようにハイジャンプを試みるが、飛べない。

ゲンジ「なんで、なんで飛び越えられないんだよ!」

Page 7

人間族「まだまだ殺すぞ! 隠れている奴らも皆殺しだ!」

人間族の兵士が近くの道を走り抜けていった。息を呑んで、エミリア屋敷の門の影に隠れるゲンジ。

ゲンジ「あ……」

門が開いていることに気づくゲンジ。ゆっくりと中に侵入する。

侵入して、すぐさま走り出すゲンジ。屋敷の中はひどく荒らされている。死体もある。不安な表情のゲンジ。

Page 8

○エミリアの部屋。星の明かりが殆ど届かない殆ど暗闇の部屋

ゲンジ「エミリア!」

エミリアの部屋に駆け込んでくるゲンジ。

ゲンジ「エミリア? いないのか!?」

泣き出しそうな顔と声。暗闇の中を、必死に目をこらしながら、手探りながら、姿を探す。

エミリア「ゲ……ンジくん。ここ……」

声だけが聞こえる。その方向を向き……ゲンジは床で倒れこんでいるエミリアを見つけた。

ゲンジ「エミリア!」

エミリア「あは……こんな時に遊びに来たの? ゲンジくん」

首を持ち上げて、ゲンジを見上げるエミリア。その目は霞んでいるようだ。

Page 9

ゲンジ「エミリア、ふざけてる場合じゃないぞ! 人間族が攻めて来たんだ! 一緒に逃げよう!」

エミリア「知ってるよ……1番先に、私のとこ、来てくれたからね」

あはは、と笑うエミリア。

エミリア「友達に、なろうとしたけどね……ダメだった」

ゲンジ「エミリア……?」

Page 10

ゲンジ「あっ……あ……!」

ゲンジは気づいてしまう。暗闇の中。¬¬エミリアの下半身がない。

Page 11

ゲンジ「えみ……あし、が」

怪我をしない龍人族。しかし、ゲンジは今日の経験からエミリアの死を確信する

エミリア「見ないで! ゲンジくん。私の顔だけ見て」

ゲンジは涙を流した。大泣きしたいくらいの顔。でもエミリアのために必死に耐え、エミリアの顔をまっすぐ見つめる。

エミリアが涙を流す。

エミリア「ねぇ、なにがいけなかったのかな……? なんで、人間族と友達になれなかったのかな……?」

ゲンジ「なんでだよ、なんでなんだよ。エミリア……!」

エミリアの問いに答えることができずに、逆に聞き返してしまうゲンジ。

Page 12

エミリア「ゲンジくん……お願い。私の代わりに答えを探して……? 私の代わりに、人間族と友達になって……?」

力なく、ゆっくりとゲンジに向かって手を差し出すエミリア。その手を両手で握るゲンジ。

ゲンジの手に魔法陣が描かれる。

ゲンジ「わ、わかったよ! 俺が、人間族と友達になる……!」

エミリア「本当に、素直で優しい……大好きだよ、ゲンジくん」

ゲンジ「お、俺もだ……エミリアに死んでほしくない……!」

エミリア「私はもうダメ。行って……ゲンジくん」

Page 13

エミリア「そこにいるフランを連れて。逃げて」

エミリアが手を動かすと、押入れの戸がゆっくりと開く。その中に、赤ん坊のフランがいた。

ゲンジ「いやだ……! エミリア……」

涙を目にいっぱい溜め、首を横に振るゲンジ。

エミリア「お願い。このままでは3人とも殺される。……フランを助けてあげて」

エミリアの懇願。ゲンジは息を吐いて立ち上がった。

Page 14

フランを抱きかかえ、その場を後にするゲンジは、もう後ろを振り返らない。

エミリアは笑顔でその背中を見送った。

エミリア「ゲンジくん……ありがとう。助けてくれて、ありがとう」

Page 15

○屋敷の外 

人間族の兵士は未だに村を破壊する。その映像。

ゲンジは何かに気づいたような表情をする。そして次の瞬間に、エミリア屋敷の塀を飛び越えた。

ゲンジ「ジャンプできた……」

そうして、そのまま、龍人族のトップスピードで、村を脱出して行った。エミリアの掛けた魔法陣がゲンジの右手に光っていた。


Page 16

○テルウスの森 川沿い

おぎゃあ、おぎゃあと泣くフラン。それを優しく両腕で包み込んでいるゲンジ。

ゲンジ「フラン。俺がエミリアの代わりにお前を守るよ」

ゲンジの目にも涙が浮かんでいる。

Page 17

ゲンジ「そっか……じゃあ、俺はこいつの兄貴か」

ゲンジ「こいつが成人するまでは、この森で、ゆっくり暮らそう。……フランが成人したら……人間族の友達を作りに行こうか」

ゲンジ、空を見上げる。星々が輝いていた。

Page 18

○回想終了。 宿の部屋

コップの中の氷がすっかり溶けている。時間経過がわかる。

エクト「そうか……君は、龍人族の……」

ゲンジ「おっと、龍にはなれねぇから、安心しろよ」

両手を上げて降参のポーズをするゲンジ。

エクト「そうなのか?」

ゲンジ「あー、なんか……あの日から龍化できなくなったんだよな。なんでか知らんけど」

Page 19

エクトはなんとも言えない表情をしている。

エクト「12年前の……龍人族……駆除」

ゲンジ「駆除かぁ……そう言われてたのか」

ゲンジが珍しく苦笑いを浮かべた。エクトは慌てて訂正する。

エクト「あ、あくまで、あの出来事がそう呼ばれてるだけだよ。人間族がみんな、龍人族を害獣みたいに思っているわけじゃないから」

ゲンジ「そうだと助かるぜ」

2人の間に沈黙が流れる。

Page 20

エクト「話してくれてありがとう。話しにくい話題だったろうに……」

ゲンジ「いやー別に! もう忘れてきた事件だしな」

笑うゲンジ。気まずい表情のエクト。

エクト「人間族が憎くないのか……?」

ゲンジ「……許すことなんだと思うぜ」

エクトの問いかけに対して、的を射ない回答をするゲンジ。しかし、表情は真剣。

Page 21

ゲンジ「許さないと、次に進めねぇよ」

何か、固く決心している様子のゲンジ。

エクト「許す……か」

エクト(…………)

エクトが何かを考えるようなコマを置いて、

エクト「人間族はそれができなかったんだな」

なんのことを言っているのだろう。という表情をするゲンジ。

Page 22

エクト「君の生まれる前。20年前。ある龍人族の男が、人間族の街を連続で襲撃した。大量の被害者……死者」

怒りとも憎しみとも取れる表情のエクト。対して、ゲンジは激しく首を横に振る。

ゲンジ「そんなバカな! だって、村の掟で、人間族とは接触してはいけないって。だから、みんな……あの村で畑を耕して、のんびり暮らしてたんだぞ」

エクト「そうらしいね。……でも居たんだよ。人間族の世界に潜伏した龍人が。掟破りの龍がね」

邪悪そうな龍の絵が背景に映る。

Page 23

エクト「僕とセレンの両親は、その龍のせいで死んでしまった」

ゲンジ「まじかよ……」

ゲンジ。ショックのあまりに項垂れる。

ゲンジ「そうか……そりゃあ、人間族が龍人族を敵視したのも、無理ねぇか。……なにが『許す』だよ……なんで勝手に『許す側』に回ってんだよ」

エクト。そんなゲンジを見て悲しそうな顔をする。

Page 24

ゲンジ「エクト……俺が龍人族だってわかって、嫌いになったか?」

エクト「そんなことない……そんなことないよ。ゲンジは僕の恩人で……良い奴だ」

ゲンジ。顔を上げる。少し泣きそうな顔になっている。

エクト「ゲンジ。さっき君は『許す』って言ったよね」

ゲンジ。顔を伏せて、小さく頷く。

エクト「それで、良いんだと思う。『許し合おう』よ。そして、また1から絆を築いていこう。掟破りの龍が壊した絆を……君が龍人族の代表として、再生していけば良いんだよ」

Page 25

泣いているゲンジの背中を撫でるエクト。

ゲンジ「俺……人間族と喧嘩したいわけじゃねぇんだ……! エミリアがそうしたみたいに……人間族と友達になりたいんだよっ……! 森の中で、2人きりで10年……寂しかったから! エクトに出会った時、嬉しかったから!」

エクト「なれるさ。君の優しさがあればね」

2人を俯瞰する絵。

Page 26

○時間経過を表すコマ

エクト「そういえば、フランちゃん……遅すぎないか?」

立ち上がり、心配そうにキョロキョロするエクト。

ゲンジ「初めての温泉にテンション上がりすぎてるだけなんじゃねぇの」

かかか。と笑うゲンジは少し立ち直った模様。

Page 27

○時間経過のコマ

2人「流石に遅すぎる!」「いや遅すぎんだろ!」

両者とも慌てふためきながら部屋を後にした。

宿の中を走る2人。エクトが先頭。温泉の入り口まで到着する。

エクト「どうしよう……」

女湯と示された入り口の前でエクトは立ち止まる……

Page 28

ゲンジ「こっちが女用か! フランー!」

が、ゲンジは何も気にすることなく入って行ってしまった。エクト、目玉が飛び出る勢い。

––しばらくして、ゲンジが帰ってくる。

ゲンジ「中にはいなかった! 服もない!」

エクト「そ、そうか! ありがとう!」

なぜか礼を言ってしまうエクト。

Page 29

突如として、コウモリ型のモンスターが2人の元へ飛んでくる。飛んできたと思いきや、目の前で爆破した。

––紙切れが1枚、落ちてくる。

エクトがそれを拾い上げて、読み上げる。

『少女は預かった。返して欲しければ、レウニスの角を持って、【マニメント・モニメン】のアジトまで来い』

2人は険しい顔を見合わせた。

Page 30

戦闘用の服に着替える2人。

エクト「行こう!」
ゲンジ「おうよ!」

さらなる絆が芽生えた2人。フランの救出に向かうのだった。