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○森から無事に抜け、目的の街までの道を歩く3人。
エクト「ゲンジは強化魔法が得意なんだね。しかも、超一級品だ。あれほど肉体を強化できる魔法は世界でも見ないよ」
ゲンジ「魔法? 俺、魔法は使えないけど」
ゲンジの強さについて、目を輝かせながら評価するエクト。しかし、ゲンジは首を横に振る。
エクト「えぇ? あれはどう見ても強化魔法だけど……」
エクト(でも、たしかに……魔法陣が見えないんだよな)
ゲンジ「俺だって使えるんだったら使ってみてぇよ」
フラン「エクトさんは使えるの?」
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エクト「フレイム・ボール」
エクトの詠唱。魔法陣が展開され、彼の手の平に小さな火の玉が現れる。
ゲンジ&フラン「すげー!」「すごーい!」
エクト「まぁね」
エクト(レウニスを単独撃破する方がよっぽどすごいよ……)
顔では誇らしげに笑いつつも、内心は苦笑いのエクトである。
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◯トリグリの街
遠くに見えるトリグリの街。1話に登場した街とは違い、そこそこに栄えた中規模の街である。
ゲンジ「お! 街が見えてきたぞ!」
エクト「だいぶ歩いたからね。今日はあそこで宿を取ろうか」
情景が3人が歩いた距離を伺わせる。日が傾いてきていた。
Page 4
◯トリグリの街 内部
トリグリの街の内部の様子。
街中は大勢の人で賑わっている。その光景に圧倒される様子のゲンジとフラン。
トリグリの街は、何か催し物が行われそうな雰囲気だった。
エクト「お、今日は祭りでも開かれるのかな」
エクトが周りの様子を見ながら言う。
ゲンジ「祭り!?」
フラン「それ知ってるわ! 本で読んだことある……街中の人たちが集まって、みんなでご飯を食べたり踊りを踊ったりするんでしょう?」
エクト「そうだね。街によって違うけど、楽しいものに違いないよ」
目をキラキラさせる2人。笑顔で頷くエクト。
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エクト「すみません。今日は何か祭りでもあるんですか?」
エクトが催し物の準備をしている人の1人に訊いてみた。
住民(男性)「これは旅の人かい。良いとこに来たねぇ。今日はこの辺りに祀られている神様を讃える日でね。美味しい屋台もいっぱい出るから楽しんで行きなー」
笑顔で振り返る住民。ゲンジの背負う巨大な角に気付き、驚く。
住民(男)「こりゃこりゃ、でっかい角だこと」
ゲンジ「あぁ、レウニスの角とかいうらし、」
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エクト「ほ、ほら! せっかくだから祭りの準備を手伝おうよ」
エクト。レウニスの角と口走ったゲンジを慌てた様子で収めつつ、ゲンジの手を引いた。
エクト「あんまりその名前を口にしちゃダメだよ? とんでもなく貴重なものなんだから、狙われてしまうよ」
住民の男から離れながら、エクトがゲンジに小声で伝える。素直に謝るゲンジ。
住民(男)「へぇ……」
3人の後ろ姿を見送りながら、住民の男は怪しげに笑った。
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◯そして夜。祭りが開かれる。イメージ的には日本の屋台にほど近い。
フラン「わー」
ご機嫌な様子で屋台を見渡すフラン。
フラン「あれ! あれ何の食べ物?」
1つ、屋台に目をつけて指を差しながらエクトに尋ねるフラン。エクトは微笑ましく思いながら答える。
エクト「あれはポンデだね。砂糖と卵で作る焼き物だ……甘くて美味しいよ」
フラン「た、食べてみたいわ。……あの、それ1つください」
ゲンジ「あ、俺もください!」
パンのような形状をしたポンデ。それを指差しながら、フランは緊張しつつ店番に声を掛けた。それに続くゲンジ。
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ポンデ焼き屋の店番「あいよ! 2個で200ヤンだ」
ゲンジ「ん? ヤン?」
店番とフラン&ゲンジの間に微妙な間が訪れる。
フラン「ヤン? ってなに、お兄」
ゲンジ「知らねぇな。おじさん、ヤンは良いから、それくれよ」
エクト「うわっとと、そうか。2人はお金を知らないのか!」
慌てて割って入るエクト。自分のカバンから財布を取り出す。
Page 9
◯祭り会場。ポンデを齧りながらエクトの話を聞く2人からスタート。
兄妹「お金?」
首を傾げる兄妹。
エクト「そう。この丸くて綺麗な石状の加工物には種類があり、それぞれに決まった価値がある。つまり、これがあれば、その価値に応じて、物と交換したり買い物したりできるのさ」
背景にヤン(お金)と物が交換される図。
ゲンジ「へぇ、知らなかったなぁ。俺の故郷にゃそんなものなかったし」
フラン「ふん、私は本で読んだことあるわ。お兄と違って」
勝ち誇ったかのような妹。兄は不服そうな顔。
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ゲンジ「そんじゃあ、俺らには金がないから、何も食えないのか」
フラン「残念ねー」
エクト「安心してよ、お金ならここにある」
がっかりするゲンジとフランへ当然かの様に財布を差し出すエクト。
エクト「好きなものを買っておいで」
ゲンジ「サンキュー、エクト!」
フラン「エクトさん、ありがとう!」
走り出す2人。
Page 11
エクトが空いているベンチへ腰掛ける。そして、ほっとため息をついた。
エクト「あはは。元気がいいな、2人は……」
エクト(こうしてみると、完全に子供なのに……2人とも、あの森に住んでたんだよな)
ゲンジの強さを思い出すエクト。
地図を広げるエクト。地図には丸印が2つある。1つは【テルウスの森】もう1つは首都【グリニャール】。
Page 12
エクト「トリグリの街はここだから……」
地図を指差すエクト。
エクト「グリニャールは遥か先だな……」
エクト、がっくりと肩を落として、
エクト「はぁぁ……気の遠くなりそうな距離だ。軍基地からここまで来るのだって大変だったのに……上級の転移魔法でも使えたらなぁ」
その時、ドタドタ。兄妹が帰って来た音がした。エクトが顔を上げると……
Page 13
ゲンジ「エクト! お金なくなった! 補充してくれ!」
空っぽの財布を見せながら、代わりに大量の食べ物を抱えている兄妹。
エクト「はぁ!? 全部なくなったの?」
財布の中身を慌てて覗き込むエクト。兄妹はパクパクと屋台メシを食べ進める。
ゲンジ「祭りって最高だな。美味いもんばっかり」
フラン「ね。町の人たちって、毎日こんなに美味しいもの食べてるの?」
ゲンジ「まぁ、森の食いもんって肉とか木の実とかばっかりだからな」
Page 14
エクト「どうしよう……。泊まるお金もなくなっちゃったよ……」
あはは……と困ったように笑うエクト。空の財布をぷらぷらさせている。
○時間経過の描写
ベンチに腰掛けて、うなだれる3人。
ゲンジ「すまない、エクト……。俺らが食べすぎたばっかりに」
フラン「ごめんなさい……」
エクト「いや、2人がたくさん食べるのは知ってたのに、注意しなかった僕の責任でもあるから」
エクトが2人から食べ物を分けて貰って、たこ焼きのようなものを食べている。
Page 15
エクト「ま、まぁ、2人とも今まで野宿で生活してきたんだし、大丈夫か」
エクトの前向きな意見。しかし兄妹は落ち込んだ様子である。
ゲンジ「いや……ベッドで寝てみたかった……好きで野宿してたわけじゃねぇし」
フラン「温泉……」
エクトは苦笑い。そうして、3人揃ってもう一度ため息。
Page 16
祭りの係員「はーい! みなさーん! 今からステージでこの祭りの名物『魔力選手権』を行いますよー! ぜひぜひ、ふるってご参加くださーい!」
大きな声で呼びかける女性の係員。3人が沈んだ顔でその方角を見る。あまり興味のなさそうな顔だが……
係員「なんと! 優勝者には賞金100000ヤンが贈られます! これは挑戦してみなきゃ損だぁああ!」
係員のこの言葉で、3人の目がキラリと光るのであった。
Page 17
○祭りの会場。メインステージにて。
『魔力量選手権』と掲げられた看板がドンと出る。
ステージには200人ほどの規模の人間が集まっていた。
ステージを向いた観客席は満席御礼状態。ざわざわとする人たちの描写。
「今年は誰が優勝するかなー」「去年はギルドの主力のメルバか」「俺も出てみようかな」など、様々な声が聞こえる。
Page 18-19
その民衆たちの中に3人もいた。
フラン「1位ならたくさんお金がもらえるのよね……」
ゲンジ「そうだな……でも、魔力量……ってなんだ」
神妙な顔の兄妹。まぁ、当然知らないよね。と微笑むエクトの解説が始まる。
解説はPage 19にも続く。
エクト「僕たち人間が使う魔法は、自分の体で作りだす魔力を変換することで発動しているんだ。強大な魔法ほどに消費される魔力も大きい。そして、人が蓄えている魔力量は、1人1人違うんだ。多い人もいれば、少ない人もいる。多ければ、それだけ大きな魔法が連続的に使えるってことだね」
解説の図が背景に。
うんうん、と話を真剣に聞く2人。
Page 20
ゲンジ「それじゃあ、やっぱり魔力量が多い奴がすげぇってことだな」
エクト「そうだね。それは間違いないよ」
興奮しているゲンジの言葉に、頷くエクト。
エクト「でも、ただ魔力量が多ければ、すごい魔法使いってわけでもないんだ。魔力の出力も大事になってくる。そうだな……雨雲と雨に例えればわかりやすいね」
フラン「雨雲?」
フランが小首を傾げる。
Page 21
エクト「そう。例えば、どんなに大きな雨雲だったとしても、ずっと弱い雨しか降らないんじゃあ怖くないでしょ? でも逆に小さな雨雲でも、短い間ドバーッと、滝のような雨が降るんだったら、すごい怖いよね」
再びエクトの解説図。
フラン「あー。魔力量がすごい人でも、弱い魔法しか使えなかったら意味ないってことね」
納得した様子のフラン。納得していないゲンジ。
ゲンジ「難しいな、なかなか」
Page 22
エクト「そうだね、魔法は奥深いよ。僕みたいに、武器に魔法を込めて増幅させるような方法だってあるしね」
エクトがとても興味深そうに笑う。
司会の女性「はーい! それでは準備が整いましたので、『魔力量選手権』始めて参りましょうー!」
うおおおお! と司会の声に会場は大いに盛り上がる。
司会の女性「今回も使用するのはこちら! われらが街のギルド『マニメント・モニメン』からご提供いただきました、魔力量測定装置! 大ヒット商品ですね」
登場する、球体の魔法具。テカテカしている。サイズ感は大きめの水晶くらい。
Page 23
エクト(マニメント・モニメンって、あの最強ギルドの一角か? この街にあったのか)
エクトが驚いた表情をする。
司会「ではでは、私が試しに触ってみるとー?」
ピロロロ! 女性の手が球体に触れると、装置が反応した。音を立てて、何かを計測している様子。
そして、次の瞬間には空中に数字が浮き出して来た。
『230』
司会「はいー! この通り、魔力量が数値となって現れます!」
うおおおお! と観客。会場の盛り上がりが伝わってくる。
Page 24
ゲンジ「あれって高いのか?」
エクト「うーん、平均より少し高いくらいかな」
エクト「100〜200が平均値。少ない人は50より低い人はまずいないね。300を超えてくると結構すごい。500以上はギルドの主戦力級。1000を超えるのは世界でも限られた人間だけだ」
またまたエクトの解説。3話は解説回でしょうか。
Page 25
ゲンジ「へぇー。エクトは? 測ったことあるの?」
エクト「えっ……」
聞かれ、戸惑うエクト。少し気恥ずかしそうに、口を開く。
エクト「ま、まぁ……200くらいかな」
フラン「200だと平均ね!」
ずばりと指摘するフランに、エクトは肩を落とした。
エクト「魔力量は訓練しても増えないからね……」
Page 26-27
司会「さぁ、さぁ! 参加登録してくれた方、順番にお名前呼びますので、前へ来てくださいねー」
ここから街の人々の名前と魔力量が順々に出てくる。多い人でも300の壁は破れない。
エクト(まぁ、こんなもんだよね。普通は)
エクト、腕を組みながら会場を見守る。
Page 28
司会「次は……おおっと、ここで優勝候補の登場だー! ギルド『マニメント・モニメン』から、メルバさん!」
現れたのはいかにも魔導師風のローブを着込んだ美女。全体像が映される。
エクト「あれは……闇魔女メルバ!」
エクトの姿勢が崩れ、前のめりになる。
ゲンジ「知ってるのか?」
エクト「あぁ、トップレベルの闇魔法使いさ」
Page 29
メルバ「どうも、どうも。今年も私の魔力量を超えられる方がいなくて残念ねぇ」
傲慢そうな表情のメルバ。しかし、それは絶対の自信から来るもの。
『530』
うおおおおお! 圧倒的な数値を叩き出し、メルバが会場を沸かせる。
エクト「た……高い! さすが『マニメント・モニメン』の闇魔女」
ゲンジ&フラン「「うぉおおおおお!」」
衝撃を受けるエクト。会場と一緒に盛り上がる兄妹。
Page 30
メルバ「ふふふ……こんなものね……」
妖しく笑うメルバ。ステージから降りていく。
司会「すごいですねぇ……では、お次の人は……」
観客たち「やっぱりメルバだ」「さすがは闇魔女」「誰か対抗できる奴は出てくんのか」
なおも、ざわめく観客。メルバのすさまじさを物語る。
Page 31
次に名前を呼ばれたのはゲンジだった。
司会「ゲンジさん!」
呼ばれるとほぼ同時に、観客席からステージまで飛んでくるゲンジ。背負っていた巨大な角はエクトに預けている。
観客たち「なんだ?」「今、飛んだよな」「一瞬で現れたぞ」
少し、異様な空気に包まれる。メルバも振り返って「んん?」と言った表情。
ゲンジ「メルバさん! 悪いな、あんたの記録を抜かして……!」
啖呵を切りつつ、装置に触れるゲンジ。
Page 32
ゲンジ「10万ヤンは頂きだぜ!」
しかし現れた数字は……
『0』
口をあんぐりと開けて固まってしまうゲンジ。
目を見開いて驚くエクト。呆れ顔のフラン。
○森から無事に抜け、目的の街までの道を歩く3人。
エクト「ゲンジは強化魔法が得意なんだね。しかも、超一級品だ。あれほど肉体を強化できる魔法は世界でも見ないよ」
ゲンジ「魔法? 俺、魔法は使えないけど」
ゲンジの強さについて、目を輝かせながら評価するエクト。しかし、ゲンジは首を横に振る。
エクト「えぇ? あれはどう見ても強化魔法だけど……」
エクト(でも、たしかに……魔法陣が見えないんだよな)
ゲンジ「俺だって使えるんだったら使ってみてぇよ」
フラン「エクトさんは使えるの?」
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エクト「フレイム・ボール」
エクトの詠唱。魔法陣が展開され、彼の手の平に小さな火の玉が現れる。
ゲンジ&フラン「すげー!」「すごーい!」
エクト「まぁね」
エクト(レウニスを単独撃破する方がよっぽどすごいよ……)
顔では誇らしげに笑いつつも、内心は苦笑いのエクトである。
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◯トリグリの街
遠くに見えるトリグリの街。1話に登場した街とは違い、そこそこに栄えた中規模の街である。
ゲンジ「お! 街が見えてきたぞ!」
エクト「だいぶ歩いたからね。今日はあそこで宿を取ろうか」
情景が3人が歩いた距離を伺わせる。日が傾いてきていた。
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◯トリグリの街 内部
トリグリの街の内部の様子。
街中は大勢の人で賑わっている。その光景に圧倒される様子のゲンジとフラン。
トリグリの街は、何か催し物が行われそうな雰囲気だった。
エクト「お、今日は祭りでも開かれるのかな」
エクトが周りの様子を見ながら言う。
ゲンジ「祭り!?」
フラン「それ知ってるわ! 本で読んだことある……街中の人たちが集まって、みんなでご飯を食べたり踊りを踊ったりするんでしょう?」
エクト「そうだね。街によって違うけど、楽しいものに違いないよ」
目をキラキラさせる2人。笑顔で頷くエクト。
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エクト「すみません。今日は何か祭りでもあるんですか?」
エクトが催し物の準備をしている人の1人に訊いてみた。
住民(男性)「これは旅の人かい。良いとこに来たねぇ。今日はこの辺りに祀られている神様を讃える日でね。美味しい屋台もいっぱい出るから楽しんで行きなー」
笑顔で振り返る住民。ゲンジの背負う巨大な角に気付き、驚く。
住民(男)「こりゃこりゃ、でっかい角だこと」
ゲンジ「あぁ、レウニスの角とかいうらし、」
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エクト「ほ、ほら! せっかくだから祭りの準備を手伝おうよ」
エクト。レウニスの角と口走ったゲンジを慌てた様子で収めつつ、ゲンジの手を引いた。
エクト「あんまりその名前を口にしちゃダメだよ? とんでもなく貴重なものなんだから、狙われてしまうよ」
住民の男から離れながら、エクトがゲンジに小声で伝える。素直に謝るゲンジ。
住民(男)「へぇ……」
3人の後ろ姿を見送りながら、住民の男は怪しげに笑った。
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◯そして夜。祭りが開かれる。イメージ的には日本の屋台にほど近い。
フラン「わー」
ご機嫌な様子で屋台を見渡すフラン。
フラン「あれ! あれ何の食べ物?」
1つ、屋台に目をつけて指を差しながらエクトに尋ねるフラン。エクトは微笑ましく思いながら答える。
エクト「あれはポンデだね。砂糖と卵で作る焼き物だ……甘くて美味しいよ」
フラン「た、食べてみたいわ。……あの、それ1つください」
ゲンジ「あ、俺もください!」
パンのような形状をしたポンデ。それを指差しながら、フランは緊張しつつ店番に声を掛けた。それに続くゲンジ。
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ポンデ焼き屋の店番「あいよ! 2個で200ヤンだ」
ゲンジ「ん? ヤン?」
店番とフラン&ゲンジの間に微妙な間が訪れる。
フラン「ヤン? ってなに、お兄」
ゲンジ「知らねぇな。おじさん、ヤンは良いから、それくれよ」
エクト「うわっとと、そうか。2人はお金を知らないのか!」
慌てて割って入るエクト。自分のカバンから財布を取り出す。
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◯祭り会場。ポンデを齧りながらエクトの話を聞く2人からスタート。
兄妹「お金?」
首を傾げる兄妹。
エクト「そう。この丸くて綺麗な石状の加工物には種類があり、それぞれに決まった価値がある。つまり、これがあれば、その価値に応じて、物と交換したり買い物したりできるのさ」
背景にヤン(お金)と物が交換される図。
ゲンジ「へぇ、知らなかったなぁ。俺の故郷にゃそんなものなかったし」
フラン「ふん、私は本で読んだことあるわ。お兄と違って」
勝ち誇ったかのような妹。兄は不服そうな顔。
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ゲンジ「そんじゃあ、俺らには金がないから、何も食えないのか」
フラン「残念ねー」
エクト「安心してよ、お金ならここにある」
がっかりするゲンジとフランへ当然かの様に財布を差し出すエクト。
エクト「好きなものを買っておいで」
ゲンジ「サンキュー、エクト!」
フラン「エクトさん、ありがとう!」
走り出す2人。
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エクトが空いているベンチへ腰掛ける。そして、ほっとため息をついた。
エクト「あはは。元気がいいな、2人は……」
エクト(こうしてみると、完全に子供なのに……2人とも、あの森に住んでたんだよな)
ゲンジの強さを思い出すエクト。
地図を広げるエクト。地図には丸印が2つある。1つは【テルウスの森】もう1つは首都【グリニャール】。
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エクト「トリグリの街はここだから……」
地図を指差すエクト。
エクト「グリニャールは遥か先だな……」
エクト、がっくりと肩を落として、
エクト「はぁぁ……気の遠くなりそうな距離だ。軍基地からここまで来るのだって大変だったのに……上級の転移魔法でも使えたらなぁ」
その時、ドタドタ。兄妹が帰って来た音がした。エクトが顔を上げると……
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ゲンジ「エクト! お金なくなった! 補充してくれ!」
空っぽの財布を見せながら、代わりに大量の食べ物を抱えている兄妹。
エクト「はぁ!? 全部なくなったの?」
財布の中身を慌てて覗き込むエクト。兄妹はパクパクと屋台メシを食べ進める。
ゲンジ「祭りって最高だな。美味いもんばっかり」
フラン「ね。町の人たちって、毎日こんなに美味しいもの食べてるの?」
ゲンジ「まぁ、森の食いもんって肉とか木の実とかばっかりだからな」
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エクト「どうしよう……。泊まるお金もなくなっちゃったよ……」
あはは……と困ったように笑うエクト。空の財布をぷらぷらさせている。
○時間経過の描写
ベンチに腰掛けて、うなだれる3人。
ゲンジ「すまない、エクト……。俺らが食べすぎたばっかりに」
フラン「ごめんなさい……」
エクト「いや、2人がたくさん食べるのは知ってたのに、注意しなかった僕の責任でもあるから」
エクトが2人から食べ物を分けて貰って、たこ焼きのようなものを食べている。
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エクト「ま、まぁ、2人とも今まで野宿で生活してきたんだし、大丈夫か」
エクトの前向きな意見。しかし兄妹は落ち込んだ様子である。
ゲンジ「いや……ベッドで寝てみたかった……好きで野宿してたわけじゃねぇし」
フラン「温泉……」
エクトは苦笑い。そうして、3人揃ってもう一度ため息。
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祭りの係員「はーい! みなさーん! 今からステージでこの祭りの名物『魔力選手権』を行いますよー! ぜひぜひ、ふるってご参加くださーい!」
大きな声で呼びかける女性の係員。3人が沈んだ顔でその方角を見る。あまり興味のなさそうな顔だが……
係員「なんと! 優勝者には賞金100000ヤンが贈られます! これは挑戦してみなきゃ損だぁああ!」
係員のこの言葉で、3人の目がキラリと光るのであった。
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○祭りの会場。メインステージにて。
『魔力量選手権』と掲げられた看板がドンと出る。
ステージには200人ほどの規模の人間が集まっていた。
ステージを向いた観客席は満席御礼状態。ざわざわとする人たちの描写。
「今年は誰が優勝するかなー」「去年はギルドの主力のメルバか」「俺も出てみようかな」など、様々な声が聞こえる。
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その民衆たちの中に3人もいた。
フラン「1位ならたくさんお金がもらえるのよね……」
ゲンジ「そうだな……でも、魔力量……ってなんだ」
神妙な顔の兄妹。まぁ、当然知らないよね。と微笑むエクトの解説が始まる。
解説はPage 19にも続く。
エクト「僕たち人間が使う魔法は、自分の体で作りだす魔力を変換することで発動しているんだ。強大な魔法ほどに消費される魔力も大きい。そして、人が蓄えている魔力量は、1人1人違うんだ。多い人もいれば、少ない人もいる。多ければ、それだけ大きな魔法が連続的に使えるってことだね」
解説の図が背景に。
うんうん、と話を真剣に聞く2人。
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ゲンジ「それじゃあ、やっぱり魔力量が多い奴がすげぇってことだな」
エクト「そうだね。それは間違いないよ」
興奮しているゲンジの言葉に、頷くエクト。
エクト「でも、ただ魔力量が多ければ、すごい魔法使いってわけでもないんだ。魔力の出力も大事になってくる。そうだな……雨雲と雨に例えればわかりやすいね」
フラン「雨雲?」
フランが小首を傾げる。
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エクト「そう。例えば、どんなに大きな雨雲だったとしても、ずっと弱い雨しか降らないんじゃあ怖くないでしょ? でも逆に小さな雨雲でも、短い間ドバーッと、滝のような雨が降るんだったら、すごい怖いよね」
再びエクトの解説図。
フラン「あー。魔力量がすごい人でも、弱い魔法しか使えなかったら意味ないってことね」
納得した様子のフラン。納得していないゲンジ。
ゲンジ「難しいな、なかなか」
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エクト「そうだね、魔法は奥深いよ。僕みたいに、武器に魔法を込めて増幅させるような方法だってあるしね」
エクトがとても興味深そうに笑う。
司会の女性「はーい! それでは準備が整いましたので、『魔力量選手権』始めて参りましょうー!」
うおおおお! と司会の声に会場は大いに盛り上がる。
司会の女性「今回も使用するのはこちら! われらが街のギルド『マニメント・モニメン』からご提供いただきました、魔力量測定装置! 大ヒット商品ですね」
登場する、球体の魔法具。テカテカしている。サイズ感は大きめの水晶くらい。
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エクト(マニメント・モニメンって、あの最強ギルドの一角か? この街にあったのか)
エクトが驚いた表情をする。
司会「ではでは、私が試しに触ってみるとー?」
ピロロロ! 女性の手が球体に触れると、装置が反応した。音を立てて、何かを計測している様子。
そして、次の瞬間には空中に数字が浮き出して来た。
『230』
司会「はいー! この通り、魔力量が数値となって現れます!」
うおおおお! と観客。会場の盛り上がりが伝わってくる。
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ゲンジ「あれって高いのか?」
エクト「うーん、平均より少し高いくらいかな」
エクト「100〜200が平均値。少ない人は50より低い人はまずいないね。300を超えてくると結構すごい。500以上はギルドの主戦力級。1000を超えるのは世界でも限られた人間だけだ」
またまたエクトの解説。3話は解説回でしょうか。
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ゲンジ「へぇー。エクトは? 測ったことあるの?」
エクト「えっ……」
聞かれ、戸惑うエクト。少し気恥ずかしそうに、口を開く。
エクト「ま、まぁ……200くらいかな」
フラン「200だと平均ね!」
ずばりと指摘するフランに、エクトは肩を落とした。
エクト「魔力量は訓練しても増えないからね……」
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司会「さぁ、さぁ! 参加登録してくれた方、順番にお名前呼びますので、前へ来てくださいねー」
ここから街の人々の名前と魔力量が順々に出てくる。多い人でも300の壁は破れない。
エクト(まぁ、こんなもんだよね。普通は)
エクト、腕を組みながら会場を見守る。
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司会「次は……おおっと、ここで優勝候補の登場だー! ギルド『マニメント・モニメン』から、メルバさん!」
現れたのはいかにも魔導師風のローブを着込んだ美女。全体像が映される。
エクト「あれは……闇魔女メルバ!」
エクトの姿勢が崩れ、前のめりになる。
ゲンジ「知ってるのか?」
エクト「あぁ、トップレベルの闇魔法使いさ」
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メルバ「どうも、どうも。今年も私の魔力量を超えられる方がいなくて残念ねぇ」
傲慢そうな表情のメルバ。しかし、それは絶対の自信から来るもの。
『530』
うおおおおお! 圧倒的な数値を叩き出し、メルバが会場を沸かせる。
エクト「た……高い! さすが『マニメント・モニメン』の闇魔女」
ゲンジ&フラン「「うぉおおおおお!」」
衝撃を受けるエクト。会場と一緒に盛り上がる兄妹。
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メルバ「ふふふ……こんなものね……」
妖しく笑うメルバ。ステージから降りていく。
司会「すごいですねぇ……では、お次の人は……」
観客たち「やっぱりメルバだ」「さすがは闇魔女」「誰か対抗できる奴は出てくんのか」
なおも、ざわめく観客。メルバのすさまじさを物語る。
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次に名前を呼ばれたのはゲンジだった。
司会「ゲンジさん!」
呼ばれるとほぼ同時に、観客席からステージまで飛んでくるゲンジ。背負っていた巨大な角はエクトに預けている。
観客たち「なんだ?」「今、飛んだよな」「一瞬で現れたぞ」
少し、異様な空気に包まれる。メルバも振り返って「んん?」と言った表情。
ゲンジ「メルバさん! 悪いな、あんたの記録を抜かして……!」
啖呵を切りつつ、装置に触れるゲンジ。
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ゲンジ「10万ヤンは頂きだぜ!」
しかし現れた数字は……
『0』
口をあんぐりと開けて固まってしまうゲンジ。
目を見開いて驚くエクト。呆れ顔のフラン。