Page 1

○冒頭の1シーン

黒い龍が飛んでいる。高く、高く。人々がそれを見上げていた。

Page 2&3

タイトルと扉絵。

Page 4

◯夜。とある街中。

何かに追われて逃げる男が1人。
辺りを見渡しつつ、走って移動している。

追っ手の兵士たちが連携を取りながら男を探している様子である。

追っ手の兵士「まだ、そう遠くには行っておられないはずだ! 探せ!」

兵士たちの焦りから、緊迫感の伝わる現場。

男「待ってろよ、セレン……」

ボロボロになった地図を握りしめ、男は呟いた。

Page 5

◯とある田舎町。がらんとした酒場。客は2,3人。

カウンター席に着いて、疲れたように息を吐き出す若い男。Page1で、追われていた男である。先ほどは暗い場面で顔などがはっきりしなかったが、今は判然としている。かなりの好青年。歳は20代半ばほど

酒場の主人「見ない顔だね。旅の方かな? 何を飲むかい?」

温厚そうな店主が言う。

疲れた顔の男「あぁ、少し近くの森に用があってね。……果実水を一杯ください」

主人「あいよ」

Page 6

差し出される果実水。それを一気飲み干す男。

主人「おぉ、おぉ。良い飲みっぷりだ。……ところで、森ってのは【テルウスの森】じゃなかろうね?」

男「いや、その森に間違いない」

冗談めかしたように笑う主人に対して、男が即答する。男の表情は真剣そのもの。

Page 7

主人「旅の方。悪いことは言わない。あの森だけは止めておきなさい」

男の真剣な表情に呼応するごとく、温厚そうなマスターの表情も一気に険しくなる。

男「ご忠告ありがとう。……でも知ってるさ。あそこが【危険度SS】に分類される、とっても怖い場所だってことはね」

空になったグラスを強く握る男。その手は微かに震えている。

Page 8

主人「知っているなら、なおさら……」

男「でも、僕は行かなきゃならないんだ……!」

男の顔のアップ。尋常ではない気迫が感じられる。

主人は男に気圧された表情をしている。顔からは一筋の汗が垂れる。

主人「何か事情がおありのようだね。まぁ、大方の察しはつくがね」

Page 9

主人「……神獣レウニス」

主人が静かにその名を口にする。男は同意するように頷く。

主人「森の主レウニスの巨大な双角。それを煎じた薬はあらゆる病を治す万能薬となる」

巨大な鹿のような獣を背景にして、主人が語り始める。

主人「古くからの伝承を信じ、民営のギルドから国軍のものまで、様々な冒険者たちがレウニス討伐へ繰り出したが、森から帰ってきた人間は1人としていない。みんな食われちまったんだよ、あの森に。レウニスだけじゃない……あの森は討伐難易度Aのモンスターだらけなのさ」

Page 10

主人「この酒場も、かつてはレウニス討伐の準備をする人々で溢れていたんだがねぇ……」

主人が遠い目をする。

数年前の情景が映し出される。

情景の中では、ものものしい鎧を着た騎士や、魔導書を抱えた魔法使いなど、さまざまな風貌の人々が酒を楽しそうに酌み交わしている。

主人「その中にはかなりの強者もいたがね……。今や、あの森を攻略しようなんて人間はいないよ」

Page 11

男「美味い果実水だった。ありがとう」

男は金を主人に手渡して、すぐさま翻した。
男の腰にキラリと光るエンブレムがあった。主人はそれを観ると目を見開いて驚く。

主人(あれは……国軍の紋章。ランク【金剛】の兵士か……!)

寂れた街を後にする男の背中には決意が宿っている。

Page 12

○町から出て、森へと続く道。ある程度の整備がされていることから、この道を多くの人が利用していたことがわかる。

低級のモンスターが襲ってくるが、男はそれを問題なく、火の玉で迎撃する。

男(セレン……)

男はある女性の顔を思い浮かべる。男と同じほどに若い女性だ。

Page 13

○回想。とある家屋。男の顔や姿にあどけなさが残ることから、昔の情景であることがわかる。

セレン「お兄ちゃん! 国軍入隊おめでとう!」

屈託のない笑顔で男の胸に飛びこむ女性。男の妹のセレンである。男は妹を抱きしめて語る。

男「ありがとう、セレン。……この街のギルドメンバーになるのも考えたんだけど、やっぱり、僕は自分の力を限界まで試したくて」

セレン「うん!それでこそお兄ちゃんだよ!お兄ちゃんなら、絶対活躍できる!」

男「あぁ!いつか、国軍最強の兵士……クライゼンさんみたいに、僕の名を国中に轟かせてやるからな。待っててくれよ」

仲睦まじい兄妹の会話である。

Page 14

男「明日から国軍の基地に住み込みだ。1人にさせてしまってすまないな……」

セレン「ううん。お兄ちゃんのこと、遠くから応援してるから……たまには、帰ってきてね」

どこか寂しげなセレンの笑顔。

翌日、男は街を旅立つ。セレンは屈託のない笑顔で見送ってみせた。

それからの日々、兄との写真を時折見つめては、泣きそうな表情のセレン。

Page 15

○回想。国軍基地内部。成長した男の姿から時間の経過がわかる。

兵士たちに何か指令を与えている男。ある程度上の立場にあることが伺える。兵士の中の1人が、そっと男の耳元で言伝をする。

男の部下A「隊長。お伝えします……妹様が」

男「なんだって……!? セレンが不治の病に……?」

言伝の内容に驚きを隠せない様子の男。

Page 16

部下A「たしかな情報です。……心中お察しします。しかし、今は大切な作戦の途中。会いに行くことは叶いませんよ。実は、上からは、この情報は伏せておけと言われたのですが、それでは隊長があまりにも……」

部下の言葉の途中で、男の手のひらに魔法陣が発動する。ふらっと意識を失ってしまう部下。ごめんな。と小さく漏らし、足早にその場を後にする男。

男(故郷を離れて以来、結局1度も帰郷することは叶わなかった。毎日軍に尽くしてきた。もし、このまま会うことができず妹が死んでしまったら……そんなのは嫌だ!)

男は駆け出した。それから少しして、兵士たちが捜索を始める。

○回想終了。

Page 17

男「ここがテルウスの森か」

男の目の前に現れる【テルウスの森】の入り口。その中は薄暗く不気味で、これから訪れる恐怖と絶望を暗示しているかのようだ。

男「行こう……」

男が意を決した表情で森に踏み込む。

Page 18
○場面転換 先ほどの酒場

客の1人がカウンターまでやってくる。男の去った入り口の方を見やり、酒場の主人に言う。

客「マスター。さっきの人、森の攻略者か?」

主人「あぁ。国軍の兵士だったよ。ランク【金剛】の」

客「ひゃあ、金剛!? そりゃあ上から2番目のランクじゃあねぇか。こりゃあ、いよいよレウニス討伐か……!?」

はしゃぐ客とは反対に、極めて冷静な店主。

主人「たしかに、【金剛】の兵士は強い。……だが、そう簡単なわけがないよ。彼は知らないのだろうかね。テルウスの森が攻略不可能だと判断されたきっかけの事件を。金剛の兵士を4人携えたパーティーがあっけなく全滅した、あの事件を」

主人が厳かな表情をする。

Page 19

○テルウス森 内部

男は狼型のモンスター4体に囲まれていた。

男「顕現しろ! 焔の剣よ!」

男が手を空に掲げると、魔法陣が現れ、火炎を纏った剣がそこから立ち現れる。

男(こいつら……!1匹1匹がとてつもなく強い……! もう奥の手を出すことになるとは……!)

飛びかかってくるモンスターたち。男は焔の剣で応戦する。苦しそうに戦うが、戦況は優勢。

Page 20

次の瞬間、森がざわめく。突然に、狼型のモンスターたちが何か危険を察知したように樹々の中へと退散していった。

男は何があったのかと怪訝そうな顔をしつつも、戦いが終わったことへ安心したような様子。

しかし、次の瞬間。鋭い爪が男を切り裂かんと襲いかかってきた。ギリギリのところでそれを躱す男。

男「な、なんだ……こいつは」

男が襲いかかってきたモンスターを確認すると、自分の身長の3倍はあろうかという熊型のモンスターがそこに立っていた。モンスターの涎が地面に滴る。

男の顔が絶望の一色に染まる。しかし、次のコマでは戦う表情に変わっていた。

Page 21-22

男「フレイア・エッジ!!」

焔の剣を使った必殺の斬撃が炸裂する! 焔の剣が激しく燃え盛り、男はそのままモンスターを斬りつけた。

モンスターの身体を覆い尽くさんばかりの火炎。巨大な体躯がよろめく。しかし次の瞬間にモンスターが身体を震わせると火炎が消え去り、ダメージは、ほんの少ししか見られなかった。

男「嘘だろ……普通のモンスターなら跡形もなく消し飛ぶ大技だぞ……」

男の表情が再び絶望の顔に変わる。

Page 23

少しとはいえ、ダメージを受けた熊型のモンスターは怒り狂っている。雄叫びを上げながら男に襲いかかる。

男「ディフェンダ!」

防御魔法。光の壁が出現して男を守る……と思いきや、バリアはいとも簡単に切り裂かれ、男は襲い来る爪から剣で身を守った。

男「うわああぁ!」

剣は当然のように弾かれ、あまりの衝撃に男の体が吹っ飛ぶ。ドカン。太い幹に叩きつけられ、男が吐血をする。

男「こ、殺される!」

武器とは反対の方向に逃げ出す男。

Page 24

男「うわぁ!?」

逃げる最中、男は何かにつまずき、転んでしまう。見上げると……

男「……はは、これは、誰も攻略できないわけだ」

先の熊型モンスターよりさらに大きな蛇型のモンスターが男の方を見下ろしていた。

男を追ってきた熊型のモンスターを丸呑みする蛇。

男(次は僕の番だ……)

男はその様子をぼうっと観ながら、自分の人生を走馬灯のように思い返していた。

Page 25-26

○走馬灯。連続した場面転換。

幼くして、災害に遭い、両親を失った男。
被災地で兵士によって助けられる男と妹のセレン。

兵士に憧れる男。それを応援するセレン。訓練を重ね、入隊試験に合格する男。
遠くに住むセレンを思いながら、軍の仕事に励む男。

男(あぁ、最後にもう一度でいいから、セレンに会いたかった……)

○現実
蛇の顔が近づいて来る。男はゆっくりと目を閉じた。

Page 27

○川沿いの休息地。

謎の声1「スネイク・コブラの肉は保存が効くから良いよな!」

謎の声2「私はあんまり好きじゃない味―。お兄に全部あげるよ」

男の視界が開かれる。さわさわと流れる川の音。ゆっくりと男は身体を起こした。男は薄く目を開けながら辺りを見渡す。

次の瞬間、衝撃的な映像が飛び込んで来る。

男「えぇぇえ!?」

––––それは2人の男女が先ほどの蛇型モンスターをバーベキューしている様子だった。