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○冒頭の1シーン
黒い龍が飛んでいる。高く、高く。人々がそれを見上げていた。
Page 2&3
タイトルと扉絵。
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◯夜。とある街中。
何かに追われて逃げる男が1人。
辺りを見渡しつつ、走って移動している。
追っ手の兵士たちが連携を取りながら男を探している様子である。
追っ手の兵士「まだ、そう遠くには行っておられないはずだ! 探せ!」
兵士たちの焦りから、緊迫感の伝わる現場。
男「待ってろよ、セレン……」
ボロボロになった地図を握りしめ、男は呟いた。
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◯とある田舎町。がらんとした酒場。客は2,3人。
カウンター席に着いて、疲れたように息を吐き出す若い男。Page1で、追われていた男である。先ほどは暗い場面で顔などがはっきりしなかったが、今は判然としている。かなりの好青年。歳は20代半ばほど
酒場の主人「見ない顔だね。旅の方かな? 何を飲むかい?」
温厚そうな店主が言う。
疲れた顔の男「あぁ、少し近くの森に用があってね。……果実水を一杯ください」
主人「あいよ」
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差し出される果実水。それを一気飲み干す男。
主人「おぉ、おぉ。良い飲みっぷりだ。……ところで、森ってのは【テルウスの森】じゃなかろうね?」
男「いや、その森に間違いない」
冗談めかしたように笑う主人に対して、男が即答する。男の表情は真剣そのもの。
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主人「旅の方。悪いことは言わない。あの森だけは止めておきなさい」
男の真剣な表情に呼応するごとく、温厚そうなマスターの表情も一気に険しくなる。
男「ご忠告ありがとう。……でも知ってるさ。あそこが【危険度SS】に分類される、とっても怖い場所だってことはね」
空になったグラスを強く握る男。その手は微かに震えている。
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主人「知っているなら、なおさら……」
男「でも、僕は行かなきゃならないんだ……!」
男の顔のアップ。尋常ではない気迫が感じられる。
主人は男に気圧された表情をしている。顔からは一筋の汗が垂れる。
主人「何か事情がおありのようだね。まぁ、大方の察しはつくがね」
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主人「……神獣レウニス」
主人が静かにその名を口にする。男は同意するように頷く。
主人「森の主レウニスの巨大な双角。それを煎じた薬はあらゆる病を治す万能薬となる」
巨大な鹿のような獣を背景にして、主人が語り始める。
主人「古くからの伝承を信じ、民営のギルドから国軍のものまで、様々な冒険者たちがレウニス討伐へ繰り出したが、森から帰ってきた人間は1人としていない。みんな食われちまったんだよ、あの森に。レウニスだけじゃない……あの森は討伐難易度Aのモンスターだらけなのさ」
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主人「この酒場も、かつてはレウニス討伐の準備をする人々で溢れていたんだがねぇ……」
主人が遠い目をする。
数年前の情景が映し出される。
情景の中では、ものものしい鎧を着た騎士や、魔導書を抱えた魔法使いなど、さまざまな風貌の人々が酒を楽しそうに酌み交わしている。
主人「その中にはかなりの強者もいたがね……。今や、あの森を攻略しようなんて人間はいないよ」
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男「美味い果実水だった。ありがとう」
男は金を主人に手渡して、すぐさま翻した。
男の腰にキラリと光るエンブレムがあった。主人はそれを観ると目を見開いて驚く。
主人(あれは……国軍の紋章。ランク【金剛】の兵士か……!)
寂れた街を後にする男の背中には決意が宿っている。
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○町から出て、森へと続く道。ある程度の整備がされていることから、この道を多くの人が利用していたことがわかる。
低級のモンスターが襲ってくるが、男はそれを問題なく、火の玉で迎撃する。
男(セレン……)
男はある女性の顔を思い浮かべる。男と同じほどに若い女性だ。
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○回想。とある家屋。男の顔や姿にあどけなさが残ることから、昔の情景であることがわかる。
セレン「お兄ちゃん! 国軍入隊おめでとう!」
屈託のない笑顔で男の胸に飛びこむ女性。男の妹のセレンである。男は妹を抱きしめて語る。
男「ありがとう、セレン。……この街のギルドメンバーになるのも考えたんだけど、やっぱり、僕は自分の力を限界まで試したくて」
セレン「うん!それでこそお兄ちゃんだよ!お兄ちゃんなら、絶対活躍できる!」
男「あぁ!いつか、国軍最強の兵士……クライゼンさんみたいに、僕の名を国中に轟かせてやるからな。待っててくれよ」
仲睦まじい兄妹の会話である。
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男「明日から国軍の基地に住み込みだ。1人にさせてしまってすまないな……」
セレン「ううん。お兄ちゃんのこと、遠くから応援してるから……たまには、帰ってきてね」
どこか寂しげなセレンの笑顔。
翌日、男は街を旅立つ。セレンは屈託のない笑顔で見送ってみせた。
それからの日々、兄との写真を時折見つめては、泣きそうな表情のセレン。
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○回想。国軍基地内部。成長した男の姿から時間の経過がわかる。
兵士たちに何か指令を与えている男。ある程度上の立場にあることが伺える。兵士の中の1人が、そっと男の耳元で言伝をする。
男の部下A「隊長。お伝えします……妹様が」
男「なんだって……!? セレンが不治の病に……?」
言伝の内容に驚きを隠せない様子の男。
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部下A「たしかな情報です。……心中お察しします。しかし、今は大切な作戦の途中。会いに行くことは叶いませんよ。実は、上からは、この情報は伏せておけと言われたのですが、それでは隊長があまりにも……」
部下の言葉の途中で、男の手のひらに魔法陣が発動する。ふらっと意識を失ってしまう部下。ごめんな。と小さく漏らし、足早にその場を後にする男。
男(故郷を離れて以来、結局1度も帰郷することは叶わなかった。毎日軍に尽くしてきた。もし、このまま会うことができず妹が死んでしまったら……そんなのは嫌だ!)
男は駆け出した。それから少しして、兵士たちが捜索を始める。
○回想終了。
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男「ここがテルウスの森か」
男の目の前に現れる【テルウスの森】の入り口。その中は薄暗く不気味で、これから訪れる恐怖と絶望を暗示しているかのようだ。
男「行こう……」
男が意を決した表情で森に踏み込む。
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○場面転換 先ほどの酒場
客の1人がカウンターまでやってくる。男の去った入り口の方を見やり、酒場の主人に言う。
客「マスター。さっきの人、森の攻略者か?」
主人「あぁ。国軍の兵士だったよ。ランク【金剛】の」
客「ひゃあ、金剛!? そりゃあ上から2番目のランクじゃあねぇか。こりゃあ、いよいよレウニス討伐か……!?」
はしゃぐ客とは反対に、極めて冷静な店主。
主人「たしかに、【金剛】の兵士は強い。……だが、そう簡単なわけがないよ。彼は知らないのだろうかね。テルウスの森が攻略不可能だと判断されたきっかけの事件を。金剛の兵士を4人携えたパーティーがあっけなく全滅した、あの事件を」
主人が厳かな表情をする。
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○テルウス森 内部
男は狼型のモンスター4体に囲まれていた。
男「顕現しろ! 焔の剣よ!」
男が手を空に掲げると、魔法陣が現れ、火炎を纏った剣がそこから立ち現れる。
男(こいつら……!1匹1匹がとてつもなく強い……! もう奥の手を出すことになるとは……!)
飛びかかってくるモンスターたち。男は焔の剣で応戦する。苦しそうに戦うが、戦況は優勢。
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次の瞬間、森がざわめく。突然に、狼型のモンスターたちが何か危険を察知したように樹々の中へと退散していった。
男は何があったのかと怪訝そうな顔をしつつも、戦いが終わったことへ安心したような様子。
しかし、次の瞬間。鋭い爪が男を切り裂かんと襲いかかってきた。ギリギリのところでそれを躱す男。
男「な、なんだ……こいつは」
男が襲いかかってきたモンスターを確認すると、自分の身長の3倍はあろうかという熊型のモンスターがそこに立っていた。モンスターの涎が地面に滴る。
男の顔が絶望の一色に染まる。しかし、次のコマでは戦う表情に変わっていた。
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男「フレイア・エッジ!!」
焔の剣を使った必殺の斬撃が炸裂する! 焔の剣が激しく燃え盛り、男はそのままモンスターを斬りつけた。
モンスターの身体を覆い尽くさんばかりの火炎。巨大な体躯がよろめく。しかし次の瞬間にモンスターが身体を震わせると火炎が消え去り、ダメージは、ほんの少ししか見られなかった。
男「嘘だろ……普通のモンスターなら跡形もなく消し飛ぶ大技だぞ……」
男の表情が再び絶望の顔に変わる。
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少しとはいえ、ダメージを受けた熊型のモンスターは怒り狂っている。雄叫びを上げながら男に襲いかかる。
男「ディフェンダ!」
防御魔法。光の壁が出現して男を守る……と思いきや、バリアはいとも簡単に切り裂かれ、男は襲い来る爪から剣で身を守った。
男「うわああぁ!」
剣は当然のように弾かれ、あまりの衝撃に男の体が吹っ飛ぶ。ドカン。太い幹に叩きつけられ、男が吐血をする。
男「こ、殺される!」
武器とは反対の方向に逃げ出す男。
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男「うわぁ!?」
逃げる最中、男は何かにつまずき、転んでしまう。見上げると……
男「……はは、これは、誰も攻略できないわけだ」
先の熊型モンスターよりさらに大きな蛇型のモンスターが男の方を見下ろしていた。
男を追ってきた熊型のモンスターを丸呑みする蛇。
男(次は僕の番だ……)
男はその様子をぼうっと観ながら、自分の人生を走馬灯のように思い返していた。
Page 25-26
○走馬灯。連続した場面転換。
幼くして、災害に遭い、両親を失った男。
被災地で兵士によって助けられる男と妹のセレン。
兵士に憧れる男。それを応援するセレン。訓練を重ね、入隊試験に合格する男。
遠くに住むセレンを思いながら、軍の仕事に励む男。
男(あぁ、最後にもう一度でいいから、セレンに会いたかった……)
○現実
蛇の顔が近づいて来る。男はゆっくりと目を閉じた。
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○川沿いの休息地。
謎の声1「スネイク・コブラの肉は保存が効くから良いよな!」
謎の声2「私はあんまり好きじゃない味―。お兄に全部あげるよ」
男の視界が開かれる。さわさわと流れる川の音。ゆっくりと男は身体を起こした。男は薄く目を開けながら辺りを見渡す。
次の瞬間、衝撃的な映像が飛び込んで来る。
男「えぇぇえ!?」
––––それは2人の男女が先ほどの蛇型モンスターをバーベキューしている様子だった。
○冒頭の1シーン
黒い龍が飛んでいる。高く、高く。人々がそれを見上げていた。
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タイトルと扉絵。
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◯夜。とある街中。
何かに追われて逃げる男が1人。
辺りを見渡しつつ、走って移動している。
追っ手の兵士たちが連携を取りながら男を探している様子である。
追っ手の兵士「まだ、そう遠くには行っておられないはずだ! 探せ!」
兵士たちの焦りから、緊迫感の伝わる現場。
男「待ってろよ、セレン……」
ボロボロになった地図を握りしめ、男は呟いた。
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◯とある田舎町。がらんとした酒場。客は2,3人。
カウンター席に着いて、疲れたように息を吐き出す若い男。Page1で、追われていた男である。先ほどは暗い場面で顔などがはっきりしなかったが、今は判然としている。かなりの好青年。歳は20代半ばほど
酒場の主人「見ない顔だね。旅の方かな? 何を飲むかい?」
温厚そうな店主が言う。
疲れた顔の男「あぁ、少し近くの森に用があってね。……果実水を一杯ください」
主人「あいよ」
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差し出される果実水。それを一気飲み干す男。
主人「おぉ、おぉ。良い飲みっぷりだ。……ところで、森ってのは【テルウスの森】じゃなかろうね?」
男「いや、その森に間違いない」
冗談めかしたように笑う主人に対して、男が即答する。男の表情は真剣そのもの。
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主人「旅の方。悪いことは言わない。あの森だけは止めておきなさい」
男の真剣な表情に呼応するごとく、温厚そうなマスターの表情も一気に険しくなる。
男「ご忠告ありがとう。……でも知ってるさ。あそこが【危険度SS】に分類される、とっても怖い場所だってことはね」
空になったグラスを強く握る男。その手は微かに震えている。
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主人「知っているなら、なおさら……」
男「でも、僕は行かなきゃならないんだ……!」
男の顔のアップ。尋常ではない気迫が感じられる。
主人は男に気圧された表情をしている。顔からは一筋の汗が垂れる。
主人「何か事情がおありのようだね。まぁ、大方の察しはつくがね」
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主人「……神獣レウニス」
主人が静かにその名を口にする。男は同意するように頷く。
主人「森の主レウニスの巨大な双角。それを煎じた薬はあらゆる病を治す万能薬となる」
巨大な鹿のような獣を背景にして、主人が語り始める。
主人「古くからの伝承を信じ、民営のギルドから国軍のものまで、様々な冒険者たちがレウニス討伐へ繰り出したが、森から帰ってきた人間は1人としていない。みんな食われちまったんだよ、あの森に。レウニスだけじゃない……あの森は討伐難易度Aのモンスターだらけなのさ」
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主人「この酒場も、かつてはレウニス討伐の準備をする人々で溢れていたんだがねぇ……」
主人が遠い目をする。
数年前の情景が映し出される。
情景の中では、ものものしい鎧を着た騎士や、魔導書を抱えた魔法使いなど、さまざまな風貌の人々が酒を楽しそうに酌み交わしている。
主人「その中にはかなりの強者もいたがね……。今や、あの森を攻略しようなんて人間はいないよ」
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男「美味い果実水だった。ありがとう」
男は金を主人に手渡して、すぐさま翻した。
男の腰にキラリと光るエンブレムがあった。主人はそれを観ると目を見開いて驚く。
主人(あれは……国軍の紋章。ランク【金剛】の兵士か……!)
寂れた街を後にする男の背中には決意が宿っている。
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○町から出て、森へと続く道。ある程度の整備がされていることから、この道を多くの人が利用していたことがわかる。
低級のモンスターが襲ってくるが、男はそれを問題なく、火の玉で迎撃する。
男(セレン……)
男はある女性の顔を思い浮かべる。男と同じほどに若い女性だ。
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○回想。とある家屋。男の顔や姿にあどけなさが残ることから、昔の情景であることがわかる。
セレン「お兄ちゃん! 国軍入隊おめでとう!」
屈託のない笑顔で男の胸に飛びこむ女性。男の妹のセレンである。男は妹を抱きしめて語る。
男「ありがとう、セレン。……この街のギルドメンバーになるのも考えたんだけど、やっぱり、僕は自分の力を限界まで試したくて」
セレン「うん!それでこそお兄ちゃんだよ!お兄ちゃんなら、絶対活躍できる!」
男「あぁ!いつか、国軍最強の兵士……クライゼンさんみたいに、僕の名を国中に轟かせてやるからな。待っててくれよ」
仲睦まじい兄妹の会話である。
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男「明日から国軍の基地に住み込みだ。1人にさせてしまってすまないな……」
セレン「ううん。お兄ちゃんのこと、遠くから応援してるから……たまには、帰ってきてね」
どこか寂しげなセレンの笑顔。
翌日、男は街を旅立つ。セレンは屈託のない笑顔で見送ってみせた。
それからの日々、兄との写真を時折見つめては、泣きそうな表情のセレン。
Page 15
○回想。国軍基地内部。成長した男の姿から時間の経過がわかる。
兵士たちに何か指令を与えている男。ある程度上の立場にあることが伺える。兵士の中の1人が、そっと男の耳元で言伝をする。
男の部下A「隊長。お伝えします……妹様が」
男「なんだって……!? セレンが不治の病に……?」
言伝の内容に驚きを隠せない様子の男。
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部下A「たしかな情報です。……心中お察しします。しかし、今は大切な作戦の途中。会いに行くことは叶いませんよ。実は、上からは、この情報は伏せておけと言われたのですが、それでは隊長があまりにも……」
部下の言葉の途中で、男の手のひらに魔法陣が発動する。ふらっと意識を失ってしまう部下。ごめんな。と小さく漏らし、足早にその場を後にする男。
男(故郷を離れて以来、結局1度も帰郷することは叶わなかった。毎日軍に尽くしてきた。もし、このまま会うことができず妹が死んでしまったら……そんなのは嫌だ!)
男は駆け出した。それから少しして、兵士たちが捜索を始める。
○回想終了。
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男「ここがテルウスの森か」
男の目の前に現れる【テルウスの森】の入り口。その中は薄暗く不気味で、これから訪れる恐怖と絶望を暗示しているかのようだ。
男「行こう……」
男が意を決した表情で森に踏み込む。
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○場面転換 先ほどの酒場
客の1人がカウンターまでやってくる。男の去った入り口の方を見やり、酒場の主人に言う。
客「マスター。さっきの人、森の攻略者か?」
主人「あぁ。国軍の兵士だったよ。ランク【金剛】の」
客「ひゃあ、金剛!? そりゃあ上から2番目のランクじゃあねぇか。こりゃあ、いよいよレウニス討伐か……!?」
はしゃぐ客とは反対に、極めて冷静な店主。
主人「たしかに、【金剛】の兵士は強い。……だが、そう簡単なわけがないよ。彼は知らないのだろうかね。テルウスの森が攻略不可能だと判断されたきっかけの事件を。金剛の兵士を4人携えたパーティーがあっけなく全滅した、あの事件を」
主人が厳かな表情をする。
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○テルウス森 内部
男は狼型のモンスター4体に囲まれていた。
男「顕現しろ! 焔の剣よ!」
男が手を空に掲げると、魔法陣が現れ、火炎を纏った剣がそこから立ち現れる。
男(こいつら……!1匹1匹がとてつもなく強い……! もう奥の手を出すことになるとは……!)
飛びかかってくるモンスターたち。男は焔の剣で応戦する。苦しそうに戦うが、戦況は優勢。
Page 20
次の瞬間、森がざわめく。突然に、狼型のモンスターたちが何か危険を察知したように樹々の中へと退散していった。
男は何があったのかと怪訝そうな顔をしつつも、戦いが終わったことへ安心したような様子。
しかし、次の瞬間。鋭い爪が男を切り裂かんと襲いかかってきた。ギリギリのところでそれを躱す男。
男「な、なんだ……こいつは」
男が襲いかかってきたモンスターを確認すると、自分の身長の3倍はあろうかという熊型のモンスターがそこに立っていた。モンスターの涎が地面に滴る。
男の顔が絶望の一色に染まる。しかし、次のコマでは戦う表情に変わっていた。
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男「フレイア・エッジ!!」
焔の剣を使った必殺の斬撃が炸裂する! 焔の剣が激しく燃え盛り、男はそのままモンスターを斬りつけた。
モンスターの身体を覆い尽くさんばかりの火炎。巨大な体躯がよろめく。しかし次の瞬間にモンスターが身体を震わせると火炎が消え去り、ダメージは、ほんの少ししか見られなかった。
男「嘘だろ……普通のモンスターなら跡形もなく消し飛ぶ大技だぞ……」
男の表情が再び絶望の顔に変わる。
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少しとはいえ、ダメージを受けた熊型のモンスターは怒り狂っている。雄叫びを上げながら男に襲いかかる。
男「ディフェンダ!」
防御魔法。光の壁が出現して男を守る……と思いきや、バリアはいとも簡単に切り裂かれ、男は襲い来る爪から剣で身を守った。
男「うわああぁ!」
剣は当然のように弾かれ、あまりの衝撃に男の体が吹っ飛ぶ。ドカン。太い幹に叩きつけられ、男が吐血をする。
男「こ、殺される!」
武器とは反対の方向に逃げ出す男。
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男「うわぁ!?」
逃げる最中、男は何かにつまずき、転んでしまう。見上げると……
男「……はは、これは、誰も攻略できないわけだ」
先の熊型モンスターよりさらに大きな蛇型のモンスターが男の方を見下ろしていた。
男を追ってきた熊型のモンスターを丸呑みする蛇。
男(次は僕の番だ……)
男はその様子をぼうっと観ながら、自分の人生を走馬灯のように思い返していた。
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○走馬灯。連続した場面転換。
幼くして、災害に遭い、両親を失った男。
被災地で兵士によって助けられる男と妹のセレン。
兵士に憧れる男。それを応援するセレン。訓練を重ね、入隊試験に合格する男。
遠くに住むセレンを思いながら、軍の仕事に励む男。
男(あぁ、最後にもう一度でいいから、セレンに会いたかった……)
○現実
蛇の顔が近づいて来る。男はゆっくりと目を閉じた。
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○川沿いの休息地。
謎の声1「スネイク・コブラの肉は保存が効くから良いよな!」
謎の声2「私はあんまり好きじゃない味―。お兄に全部あげるよ」
男の視界が開かれる。さわさわと流れる川の音。ゆっくりと男は身体を起こした。男は薄く目を開けながら辺りを見渡す。
次の瞬間、衝撃的な映像が飛び込んで来る。
男「えぇぇえ!?」
––––それは2人の男女が先ほどの蛇型モンスターをバーベキューしている様子だった。