何だ今の声は? 幻聴か?
 名前を呼ばれた気がしたが……?
 
『らんどーちゃま! ワレでち。コハクでちよ。こっちを見てくだちゃい』

「えっ?」

 声のする方を見ると、体調五十センチほどのなんとも間抜けな生き物が、二足歩行で立っていた。

「なっなんだコイツは!」

『なんだコイツとは酷いでちな? ワレを呼んだのは、らんどーちゃまでち!』

 そう言って不思議な生物は、前足で俺の膝をぽにぽにと叩く。
 ふわふわの肉球の感触がなんとも心地よい。

 可愛いじゃねーか!

「呼んだって言われてもだな? 俺はお前の事なんて知らねーし……」

 こんな二頭身姿の、アニメに出て来そうな知り合いはいねぇ。

『なっ!? 酷いでち! いつもワレに愛の言葉を囁いてくれるでちのにぃ!』

「ブッッ!?」

 この変な生物は何を言い出しやがんだ! 俺にだって好みくらいあるわ! 何を好き好んでこんな頭でっかちに。

『まさか!? らんどーちゃま、ワレが分からないでちか? ほら? この雄々しくって強そうな見た目! コハクでち!』

「えっ?」

 コイツ今なんて言った?

『だーかーらー。ワレは白虎のコハクでち!』

「琥珀? お前が?」

『そうでちよ? どこからどう見てもイケてるコハクでち!』

 二足歩行の自称琥珀と名乗る生物が、ドヤァ~っと虎が威嚇するようなポーズを決める。
 多分だが強いだろう? アピールだと思うのだが。
 その姿はもうギャグでしかない。

「あははっなんだよっお前は! ははっ」

 さっきまで泣きそうだったのに、俺はいつの間にか声を荒げて笑っていた。

『何で笑うでちか! 酷いでち!』

 前足で俺の足をポニポニと高速で叩いた後。
 自称琥珀は口を尖らせてるみたいに拗ねる。人みたいに表情が豊かだ。

『ワレがコハクだと、分かってくれまちたか?』

 あざとくキュルンっと小首をかしげる自称琥珀。

 俺の琥珀はこんなあざとくねーぞ!


「いや……それはちょっとまだ。信じられないって言うか」

『なら左ふくらはぎを見てみるでち!』

 え? ふくらはぎを見る? 何を言って。

「うおっ! マジか!? 琥珀が消えた!」

『消えたんじゃなくて、今ここに召喚されて出て来たんでち』

「本当にお前が琥珀……」

 驚き目を見開いていると、琥珀があざとく片目を閉じ、ウインクしてきた。
 
 かっ可愛いけど……俺が望んでたのは、イカツイ琥珀なんだよ!
 ……これが琥珀とか。

「ショック過ぎるだろうよ! 何で俺の描いたカッコいい白虎が、こんな謎の二足歩行の生物なんだよ! もっとカッコイイ白虎を想像してたよ! それが……動物園で売っているようなぬいぐるみ姿……ってか色が青ければタヌキのロボットじゃねーか……くそっ」

 あっしまった! つい本音が声に出てた……!
 流石に言い過ぎだ。

 ふと琥珀を見ると、大きな瞳からポロポロと涙を流している。

『うっううっ……っ』

「ちっ違うんだよ琥珀! お前があまりにも可愛すぎてだな? ビックリしただけでな?」

 俺はフワフワの琥珀の頭をそっと撫でる。

『ホントでちか? ワレが可愛いと?』

「そうだよ! その上イカチイとか最高すぎだよな?」

 琥珀の尻尾がぷりぷりと揺れる。

『ワレが最高? でちと?』

「最高だ!」 

 俺は思いっきり琥珀に抱きついた。ふわふわの毛並みがなんとも心地よい。

『らんどーちゃまは甘えん坊でちね』

 琥珀がペロリと俺の頬を舐めた。

 側から見ると、フワフワのぬいぐるみに抱きつく、変な男なんだろうがもう良い。
 不安だった異世界に、俺の友達が来てくれたんだ。
 どんな見た目であろうが、琥珀だったら良いじゃねーか!

 良かった。
 
 琥珀がいるだけで、この最悪の異世界でやっていける気がして来た。