「……もう行っちゃうの?」

 ミントが俺の足にしがみ付き離れない。

「やだよう。もっと乱道様と居たい。一緒に森にだって行きたいし、召喚獣(タイタン)のこと教えてもらいたいし……それにそれに」

「ミント……俺もな? 出来る事ならもう少しここに居たいんだけどな? この街を抜けるとある、【ヴィルヘルミナ帝国】に用事があるんだ。それが終わったら、またこの街に帰ってくるから、それまで召喚獣を使ってお前が下民街をよくして行くんだ。頼んだぞ?」

 そう言って足にしがみ付いているミントを抱き上げる。

「僕が……街を?」
「そうだ」
「僕に出来るかな?」
「何言ってるんだよ、ミントなら余裕だぜ?」
 俺はそう言ってミントの頭を撫でる。
「えへへ」

 ミントは少し照れ臭そうに笑う。

 昨日はアノめんどくさい出来事(ルミ野郎に振り回されたアレな)を終えて町に戻ると、待ってくれていたミントの家で飯をご馳走になり、一緒のベットで寝た。(目が覚めると琥珀と稲荷が腹の上で寝ていて、身動き取れなくて金縛りにあったのかと焦ったのは秘密(ナイショ)

 ミントは病気の母親、それに頼る父親もいない事から、自分がしっかりしなきゃいけない思って生きてきたんだろうな。誰にも甘える事なく。
 
 そんなミントが俺に甘えてくれるのは本当に嬉しい。だから街を離れるのは正直俺だって寂しい。
 でも俺は幻獣族という稲荷の謎を解明しないと行けない。

 召喚獣のタイタンがミントの新たな支えになってくれるといいんだがな。

「分かった。僕……乱道様が帰ってくれた時に、ビックリさせるね! 楽しみにしててね」

 ミントがそう言って小さな手で、誇らしげに自分の胸を叩いた。

「それは楽しみにしてるぜ?」

「乱道様〜!」

 キャロが勢いよく走ってきた。

「はっはぁ……。出発の準備ができました。いつでもヴィルヘルミナ帝国に向けて街をでれますよ」
「おっそうか。ありがとうキャロ!」
「もちろん、街での出国に関するいろいろな手続きも完了しています!」
 キャロが誉めてと言わんばかりの顔をする。
 頭を俺に突き出して。これは撫でてと言うアピールか?

「感謝してるぜ」

 そう言ってキャロの頭をワシャワシャと撫でた。

「ひゃわっ!?」
 おっと……つい耳まで触ってしまった。
 


 ★★★



「乱道様! 僕待ってるからね!」
 タイタンに乗ったミントが大きく手を振る。

「「「「「大召喚士様ありがとうございました」」」」」

 下民扱いされていた街の人たちが頭を下げ、俺を送り出してくれる。
 もう下民紋が消え失せたから、下民なんて括りはないんだがな。

 みんなに見送られながら国境の門をくぐり馬車で通り抜けた。

 この街はこの世界に来て初めて楽しいと思えた、いい思い出ばかりの街だから……なんだろう。街が小さくなっていくにつれなんとも言えない寂しい気持ちが。

『らんどーちゃま? どうしたんでち? 寂しいでちか? 仕方ないでちねぇ。ワレがよちよちしてあげるでち』
 
 琥珀が俺の頭をポンポンと撫でる。ふわふわ肉球のなんとも言えない感触が。
 気持ちは嬉しいんだが、琥珀のドヤり顔がいただけない。『どうでち〜? ワレは優しいでち。誉めてもいいんでちよ?』 って言わんばかりの顔をして俺をみる。
 鼻の穴膨らんでるぞ?

「うゆっ!」
「んん?」
 稲荷までが俺の膝の上に立ち、頬を撫でてきた。琥珀の真似をしているんだろうが……琥珀と違って一生懸命で可愛い。
 そうか。俺は稲荷までが心配するような顔をしていたんだな。
 ……反省。

「乱道様はみんなから好かれていますね」

 そんな俺たちの様子をキャロが微笑ましく見ている、なんだか少し恥ずかしい。

 そんな目で見ないでくれ。

「ヴィルヘルミナ帝国か。どんな国なんだろうな」
 俺がそう呟くと。
「ふふふ。我が国は楽しいですよ? 乱道様を招待できる事、今からワクワクしています」
 キャロが楽しそうに話す。そうか一応王女様だもんな。

 ヴィルヘルミナ帝国の国境まで三日か。

 馬車酔いしないといいな。