『コイツもしかして……ミントを利用している悪い奴じゃ? パンチをくれてやろうか? オラオラ』 

 謎の生命体が俺の周りをブンブンと飛びながら、文句を言っている。
 全部俺に聞こえてんぞ? 何だその変なファイティングポーズは。

 この羽の生えたやつ、アレに似てるんだよな。よくファンタジー映画に登場する……ええとなんてったけ? そうそう妖精。

 余りにも俺の周りをブンブン飛んで鬱陶しいので、隙をついて羽根を捕まえてやった。

『えっ!? なんで!? 僕のことが見えるの?』

 羽根を俺に捕まれ、身動きが取れなくなった妖精もどきは、足をバタバタさせ暴れている。

「見えてるし、声も聞こえてるぜ!」

 俺は人差し指で謎の生命体の頭を軽くつついた。

『僕が見えるなんて……!? そんな人族初めてだ! さてはお前っ人族じゃないな?』

「人族だよ! ってかお前こそなんだよ」

『何って? 僕はこの森を守る精霊だよ! 森の精霊王さっ』

 謎の生命体は、自分の事を精霊王などと言い出した。コイツが?

「……精霊王? お前が?」

 マジか? とつい眉間に皺を寄せてしまう。

『そうだよ! 僕は本来、お前如きが話を出来る存在じゃないんだ。ありがたく思え!』

 精霊王がこれでもかと踏ん反り返る。

「で……そんな凄い存在のお前は、ミントとどう言う関係なんだ? ミントの周りをウロチョロして」
『ウロチョロ!? 失礼な言い方だな! 僕はこのミントに助けられたからその恩を返したくて……』
「助けられて?」
『そうだよ』

 この精霊王は宿木が本体らしく、ある日一本の宿木が枯れかけた時、ミントが必死に水やりをして、自分を助けてくれたんだとか、それ以来ミントにだけ特別に、宿木の葉がある場所に案内しているらしい。
 ミントが言ってたキラキラ道が光って見えるってのは、精霊王の事だったんだ。

『僕はミントが水に困っているって知って、やっと恩返しができるからもっと助けてあげたいんだけど、ミントには僕の声も姿も分からなくて……』

 なるほどな。コイツ良い奴じゃねーか。

「分かった。ミントにはお前の気持ちを、俺がちゃんと伝えてやるから!」
『ホントか!? お前良い奴だな』

 精霊王が俺の周りを楽しそうにくるくると飛んでいる。

「お待たせしました。葉っぱを十枚頂いたので帰りましょう」

 俺が精霊王の相手をしてる間にミントが葉っぱを摘んでやって来た。

「もう終わったのか。じゃっ帰るか」

 俺は再びミントを担ぎ、精霊王に軽く手を振りその場を去っていった。

「今誰に手を振ったの?」

 精霊王に手を振ったのをミントに見られていたらしく、不思議そうに質問してきた。

「へっ? ああコレはな。お前の事が大好きな森の精霊王に」
「森の精霊王!?」
「ああ。またゆっくりその話はさせてくれ」
「うん! 絶対だよ」

 ミントはそう言うとお日様のような笑顔で笑った。


★★★



「……これが井戸!?」

 どう見ても街の広場で見た井戸とは、雲泥の差がある。
 不衛生で……この水を飲んでいたのかと思うと吐き気がする程に泥水にしか見えない。

「うん……今は水が湧き出てくれないから余計に…….酷いよね」

 街外れにある場所に、ミント達下民が使う井戸かあった。

 その周りには掘建小屋が、いくつも軒を連ねている。
 この街の外に建てられた掘建小屋が下民が住む家らしい。

「なんだこれ……」

 どう考えても、人がまともに暮らせるような状況じゃない。
 なんで家が街の外なんだ。
 余りにも酷い下民差別に嫌気がさす。

『らんどーちゃま、ワレに良いアイデアがあると言ったのを忘れたでちか?』

 余りにも酷い状況に何も言えずに固まっていたら。
 琥珀が一歩前に出てドヤり出した。

「琥珀?」

『ワレを使って奪った亀の聖印を使うんでちよ!』
「わりぇ。きゃふふ」

 琥珀を使って奪ったって……アイツ……ルミ野郎から奪った聖印の亀の事か!?

 それをどう使うんだ?